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気だるげヒーローは目立たない

作者: 紫 和春

 この作品の主人公である片山シゲフミは、いつもの通勤路を歩いていた。


「今日はシロード化学工業さんとのオンラインミーティングがあるんだっけな……」


 片山シゲフミ、三十四歳、男性。

 プラント設計の業務を行ってるオオシロ工業株式会社で係長をしている。

 彼は途中でコーヒーが飲みたくなり、自販機の缶コーヒーを買う。その際、誤って財布を落としてしまった。


「おわわわ……」


 財布の中身が足元に飛び散る。その中にはとある免許証もあった。


「アブねぇ、ヒーロー免許証なくすところだった……」


 ヒーロー免許証。正式名、第一種特殊職国家公務員認定証である。特殊職とは、数十年前に国家公務員法に追記された、新しめの職種である。

 片山の後ろを通った通行人が、ふとヒーロー免許証を見る。


「……あの、すみません」


 そして通行人は、ふいに片山に声をかける。


「はい?」

「それって、ヒーロー免許証ですか?」

「え、えぇ、そうです」

「ということは、あなたヒーローなんですか!?」

「声が大きいですっ」


 そう、片山はヒーローである。

 ヒーローは、今から半世紀前に初めて存在が確認された、いわば超人である。あるヒーローは一個連隊の戦闘力を持っていると言われ、またあるヒーローは透明になれる特殊能力(ユニークスキル)を持っている。その絶大な力と影響力、そしてスキルを駆使して、ヒーローはあらゆる紛争の和平に貢献した。


「実は私、ヒーローが子供の頃から大好きでしてっ!」

「あーはい、その熱量は伝わります……」

「それで、今までどんなヴィリルと戦ったんですか!?」


 そしてヒーローが登場して数年ほど経過すると、ヒーローを敵視する存在『ヴィリル』が出現する。それから今日に至るまで、ヒーローとヴィリルとの戦いが繰り返されてきたのであった。

 そんな紆余曲折があって、日本ではヒーロ―は免許制となっている。理解しやすい言い換えをするなら、狩猟免許といったところか。


「いやぁ、今出勤途中ですし、そういうのは公式ホームページを見てくださいね……」


 そういって片山は落としたものを全て拾って、その場を後にする。

 しばらく早足で逃げ、先ほどの人が追いかけてきていないのを確認して、一息入れる。


「ふぅ……。こういう所から個人情報が流出するから怖いもんだな……」


 そういって片山は財布を鞄にしまう。


「しかし……、うちの会社が副業可で良かった……。じゃなかったらこうしてヒーロー活動なんてできなかったからな」


 片山は一度腕時計を見て、始業時間に間に合うように通勤路を少し速めに歩く。

 職場に到着すると、片山は自分の仕事を開始する。今は、とある中型の化学プラントに関する設計を行っているところだ。

 午前中の打ち合わせやら資料のまとめを終え、昼休みになる。片山は近くのコンビニへと向かい、おにぎりと菓子パンを購入する。

 その時だった。片山の脳裏で金属音のような物が鳴る。


(おっと……)


 一瞬意識が持っていかれそうになるものの、一回の瞬きの間で取り戻す。

 これが片山の特殊能力(ユニークスキル)、「探知(ディテクション)」である。近くにいるヴィリルの気配を察知することができるスキルだ。


(正直、これのせいで仕事に支障をきたすこともあるけど……。でもちょっと便利なんだよなぁ)


 逃げ足の速かったり、隠れるのが得意なヴィリルに対して絶大な効果を発揮する。そういった支援型のヒーローとして片山は重宝されていたりするのだ。


(この感じだと……、近くの民家に強盗に入ってるな……)


 そんなことを思いながら片山は会計を済ませ、コンビニを出る。

 そして職場へと戻ろうとした。その時だ。

 目の前に、全身青の葉っぱをした何かが曲がり角から出現する。人型のようだが、風貌が完全に不審者のソレである。脇に抱えているのは、それなりに大きい金庫。

 そんな不審者に対して、片山のスキルがガンガンに反応している。脳内がキンキンと金属音でいっぱいだ。

 つまりこの不審者は、ヴィリルである。


「なんだぁ、テメェ……」


 ヴィリルが片山に因縁を付けるようにジロリと見る。


「俺はヴィリルだぞ? 死にてぇのか?」


 そんな状態に陥っている中、片山はというと━━。


「あー……」


 呆然としていた。

 それもそのはず。彼は支援を中心とするヒーローだ。こうして前線に出てくるのは稀である。

 この状態になってしまうと、片山は半分意識を失うのだ。そして決まってこのように言う。


「なんだか、正義を、執行してきたくなったぞ……」


 それを最後に、彼の意識は途切れる。

 そこからは次の通りだ。

 体を小さく揺らしながら、ヴィリルへと接近する。揺れた反動を使って腕を伸ばし、そのまま遠心力を使ってヴィリルをぶん殴る。

 その瞬間、ヴィリルの体ごと浮き上がり、そして低い弾道で吹き飛んでいく。そのままヴィリルは見えなくなるほど飛んでいった。

 これが片山の隠されたもう一つの特殊能力(ユニークスキル)正義執行(ジャスティスメイカー)である。分かっている発動条件は、ヴィリルが至近距離でいる時に直接視認することのみだ。

 しかし残念ながら、この正義執行(ジャスティスメイカー)は片山本人でも認知していない。目撃者も今まで存在していないため、その本性が暴かれることはなかったのだ。

 そして片山の意識は戻る。


「あれ……? 俺何して……」


 そんな時、ポケットに入れていたスマホが鳴る。確認してみると、部下からだった。


「はい、片山です」

『あ、片山さん! 高萩システムさんから急に仕様変更の連絡が来ちゃいまして……。納期も2週間後にしてくれって無茶言ってるんですよ』

「はぁ? まぁ、分かった。すぐに戻る」


 片山は先ほどまでいたヴィリルのことなんてすっかり忘れ、急いで職場に戻る。

 これは、自分のことを平凡と思っているヒーローの話である。

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