余生
長良華雅
本作の主人公。発達障害を理由に自衛隊を退職した過去を持つ25歳の青年。
現在は障害者雇用で勤務している。
基本的に仕事ができない為、職場では空気のように扱われる。
好きなものは若くてカワイイ女の子。
発達障害というコンプレックスに苛まれながら生きている。
「よっこらせッ◯スと…」
早朝に搬入された段ボールをパレットから大型の
台車へと載せ替え、それぞれを所定の位置に戻す。
華雅は現在、障害者雇用としてある工場で働いていた。業務内容は運搬、清掃、設備の見回り、消耗品の交換作業と多岐に渡る。
従業員数はそれなりに多い職場ではあるが、正社員は管理業務が中心となり現場で作業することは少ない。現場作業は契約社員、派遣、パート、アルバイトなど非正規が中心となって行っている。
「よ〜う、兄ちゃん!昨日は楽しかったか?」
定年して契約社員となったベテランのおっちゃんがいきなり話しかけてきた。
「楽しくは無かったですよ。まあ、面白くはあったかもしれませんケド」
「なんだそりゃ〜。次は兄ちゃんの番かもしれないんだし、しっかり予習してきたんだろうなぁw」
「自分は大丈夫ですよ」
華雅は嫌な話題になりそうだったのでその場を離れようとする。
「そんな事言って〜。兄ちゃんもそろそろいい年なんだし早くいい嫁さん貰えよ!」
(やっぱり、そうきたよな…)
華雅はコレ系の話が苦手だった。理由は単純。自分が発達障害を持っている為。
「嫁さんよりも前に、仲のいい友達が欲しいモンですよ」
華雅はそう吐き捨てると、次の作業へと向かった。
(嫁さんかぁ〜、彼女は疎か仲のいい気が合う友達すらいねぇのにどうやって貰えと…)
空になった棚にゴム手袋やマスク、ウエス等の消耗品を詰めながら考え事をしていた。
(同性ですら仲良くなれねぇってのに、異性となんか仲良くなれるワケがねぇだろ…)
(てか自衛隊を辞めて以来、同年代の仲間すらいた事ねぇのに、今さら仲良くなれる年の近い人なんて作れるのか?)
華雅の勤務する職場は年齢層が高めで、20代、30代の人は少なかった。たまに話すおっちゃんおばちゃんの同僚はいるが、連絡先を交換する仲までではない。
というより、総務から連絡先は交換しないように言われている。理由は過去におじさん従業員との金銭トラブルがあり、若い従業員が退職に追い込まれたかららしい。故に職場の人間は誰一人信用ならないし、仲良くなる事も無い。情報保全の観点から自分の個人情報を明かすことも少なかった。
「さて、後は終業まで適当にやり過ごすとしますかー」
華雅は職場では比較的負担の少ない業務を担当していた。難しい作業や危険な作業は自動化されているため人間がやる必要は無い。専門知識が必要な作業は正社員が実施するため非正規作業員は異常を確認をするだけでいい。
ただ雑用は別だった。専門知識、技量のいらない作業は非正規に仕事を回す為、正社員は一切手を付けない。その上、他の作業員が休んだり飛んだりすると残りの非正規の人員で対応しなければないけなかった。華雅が結婚式で眠かった理由は人手不足で激務が続いていたからだ。
(最近はいろいろと戦力が足りてなかったからな〜、いつもの勢いでやったらもう片付ちゃったよ)
激務が続いていた現場だったが、やっと安定したようだ。
仕事が終わらなければ残業して他の部署に影響が出ないようにしなければいけないが、今日は週末ということもあってか仕事自体が少なかった。
華雅は設備の見回りを開始しつつ、休みの予定を考えていた。
(そういやぁ、日曜は物産展あったよな…)
(久しぶりに地元の雰囲気でも味わいに行くとしますか)
結婚式で久しぶりに旧友の顔を見たこともあってか妙に地元のイベントに行きたくなったのだ。
「たまにぁ露店のたこ焼きでも食べよかな」
数年ぶりに休みが待ち遠しくなった気がした。
次回、主要キャラが一人増えます。