第七話:天空都市エリシアの秘密
クロノアの目の前に広がる景色は、壮麗そのものだった。エリシア――天空を漂うこの都市は、かつて魔法と科学の融合が極限にまで達した栄光の象徴だった。
都市は空を切り裂くようにそびえ立ち、空中を走る無数の光の道と浮遊するプラットフォームが複雑に絡み合っていた。巨大なクリスタルタワーからは、マナの光が絶え間なく放たれ、都市全体に輝きを与えている。
だが、その美しさの中に、かつての繁栄の名残を見つけることはできなかった。
「……この都市も、終わりを迎えたのか?」
クロノアは呟いた。都市は静寂に包まれ、あらゆる装置は停止している。かつてここで繰り広げられた研究と革新の鼓動は、今や遠い記憶となっていた。
「エリシアは、ただの都市ではない。」
アーテリオンの声が空間に響く。
「ここは、宇宙創造の秘密が隠された場所。お前が『再生の鍵』を見つけるために、避けては通れない場所だ。」
クロノアは、ゆっくりと前へ歩み出す。彼の胸には、ソラの声が今も残響していた。
「……ソラが待っている。ここで、すべてを思い出さなくては。」
中央神殿――記憶の間
クロノアは都市の中心に位置する巨大な神殿へと向かった。かつてこの場所は、知識と再生の殿堂と呼ばれていた。入り口の扉は自動的に開き、彼を迎え入れるように静かに光を放つ。
神殿の中心部には、**記憶の結晶(Crystal of Remembrance)**が鎮座していた。淡く輝くその結晶は、過去の記憶を保存する装置だった。
クロノアは手を伸ばし、結晶に触れる。
瞬間、空間が歪み、彼の意識は記憶の深層へと引き込まれた――
記憶の世界
そこに広がっていたのは、かつてのエリシアの姿だった。
輝く都市。笑い声が響き渡る広場。空中庭園で舞う光の蝶たち。だが、その穏やかな風景は突如として崩れ始める。
「……クロノア、あなたはこの運命を選んだ。」
その声。彼の背後に立っていたのは、ソラだった。
「ソラ……君は、どうしてここに……?」
「あなたはこの世界の終わりを防ぐため、すべてを犠牲にした。記憶も、力も、そして私との約束さえも。」
クロノアは、全てを思い出し始める。
かつて、彼はこの宇宙そのものの崩壊を止めるために、時の力を使って自らの存在を封じた。だが、その代償として彼は全ての記憶と大切な人たちとの絆を失ったのだ。
「君との約束……何だったんだ?」
ソラは静かに微笑む。
「再生の力を使って、新しい宇宙を創ること。あなたは、すべての終わりの先に新しい始まりをもたらす存在……創造主なのだから。」
現実世界――エリシアの中心にて
クロノアは、意識を現実に引き戻した。胸の中に、強烈な確信が芽生えていた。
「……俺は、創造主だったのか?」
アーテリオンが静かに応える。
「そうだ。お前は、かつて宇宙を創り、再生の力を持っていた存在。エリシアには、その力を取り戻す鍵が眠っている。」
その瞬間、都市全体が微かに震えた。空に亀裂が走り、黒い霧が都市を覆い始める。
「侵食が始まった……!」
黒い影が空を覆う中、クロノアは拳を握りしめる。
「……もう迷わない。この世界を、俺が再生する!」
天空都市エリシアに響く決意の声。
クロノアの運命は、宇宙再生の真実に向けて加速し始めた。