第五話:記憶の断片、再生の鍵
ギアホールの時のコアが再起動し、都市全体にエネルギーが満ちると、クロノアは膝をつき、重く深い呼吸を繰り返していた。全身を貫く痛みは、壮絶な戦いの代償だった。
だが、それ以上に彼を苛んでいたのは、心の奥底で揺らめく謎の感覚だった。
「クロノア……目覚めの時は近い。ソラが……あなたを待っている。」
あの声。確かに聞こえた。だが、誰の声なのか、なぜ自分の名を知っているのか――それは思い出せない。
「……ソラ……誰だ? なぜ、その名に胸が痛む……?」
アーテリオンが静かに告げた。
「クロノア、その名はお前の記憶の深層に刻まれたものだ。お前が何者であるかを知る鍵となる存在だ。」
クロノアは立ち上がり、再起動したコアの中心に歩み寄る。その青白い光が彼を包み込むと、空間が歪み、意識は闇に引き込まれた――
夢の中。
空は深い藍色に染まり、無数の星々が輝く静かな夜。見知らぬ大地に立つクロノアの前に、銀色の髪を持つ少女が背を向けて立っていた。
「……あなたは、まだ思い出せないの?」
彼女はゆっくりと振り返る。その瞳は、夜空そのものを映したかのように深く澄んでいる。
「君は……誰だ?」
「私はソラ。あなたと共に、この世界を救うために戦った存在。あなたが……忘れてしまったすべての記憶を取り戻す鍵。」
クロノアは彼女の言葉に胸が締め付けられる感覚を覚える。忘れてはいけないものを、失ってしまった――そんな感覚が、魂の奥底から湧き上がる。
「ソラ……なぜ、俺は君を忘れたんだ?」
「それは、あなたが時の終焉を止めるために、すべてを犠牲にしたから。あなたは、時間の流れそのものに干渉し、この宇宙の崩壊を防ぐため、記憶と力を封印したの。」
クロノアは、震える手を伸ばす。しかし、ソラは淡く微笑み、後ずさりするように消えていく。
「思い出して、クロノア。この世界は、あなたが再び創り直すべき場所。再生の鍵は、あなたの中にある――。」
目覚めの瞬間。
クロノアは激しい息切れとともに現実に引き戻された。額に浮かぶ冷たい汗を拭いながら、彼は拳を強く握りしめる。
「ソラ……俺は、必ず思い出す。お前が待っているなら、俺は……この世界を再び創る。」
アーテリオンが静かに告げる。
「クロノア……次の目的地はエリシア。天空に浮かぶ都市。かつて魔法と科学の頂点と呼ばれた場所だ。お前の記憶と力を完全に取り戻すためには、あの地で封印された真実と対峙する必要がある。」
「エリシア……」
クロノアは立ち上がり、前を見据えた。
「この世界の終わりを止め、再生させるために――俺はすべてを取り戻す。」
天空の遥か彼方、浮かぶ都市の光が彼を待っている。その先にあるのは、宇宙創造の真実、そして再生の力――
クロノアの旅は、今、新たなステージへと進む。