第四話:機械の心臓、再起動
ギアホールの中心へと足を踏み入れた男の目の前には、かつて機械魔導帝国の誇りであった**中枢制御塔(Core Spire)**がそびえ立っていた。
その高さは空を貫くほどで、無数の歯車とパイプが絡み合い、塔の頂上からは微かな蒸気が絶え間なく立ち上っている。しかし、すべての機構は停止し、まるで時そのものが止まってしまったかのように静寂に包まれていた。
「……これが、クロノリアクターか。」
アーテリオンの声が男の耳に響く。
「ああ。だが、完全に停止している。この都市の命脈を再び動かすためには、お前の力――時の支配者としての力が必要だ。」
男はゆっくりと塔の中心部へ進む。その途中、かつてここを守っていた機械の残骸が散乱し、数多の戦いの痕跡が刻まれていた。
「この都市も、最後まで抗ったのだな……。」
ふと、彼の耳に微かな音が届く。ギアの回転音――それはまるで、この場所がまだ完全に死んではいないことを告げているかのようだった。
「アーテリオン、リアクターを再起動する方法は?」
「中心部にある時のコアにお前のエネルギーを流し込む必要がある。ただし、再起動の過程で防衛システムが自動的に作動する。お前が全ての試練に耐えきれるかが鍵だ。」
男は深く息を吸う。
「やるしかない。……この世界を再び動かすために。」
中央制御室――そこは、かつて帝国の科学と魔法の結晶が集結した場所だった。部屋の中央には、巨大な水晶のような装置が静かに佇んでいる。それが時のコアだ。
男は、両手をコアにかざした。その瞬間、コアが淡く輝き、空間に振動が走る。
「リアクター再起動シーケンス、開始。」
アーテリオンの声と共に、部屋全体が青白い光に包まれる。だが同時に、周囲の壁が動き始め、隠されていた**自律機兵(Auto Sentinels)**が姿を現す。
「防衛システム、起動確認。敵対反応を確認……抹消モード、開始。」
「やはり来たか……!」
男は時の魔法を発動する。空間が歪む感覚と共に、すべての動きがスローモーションに変わる。空気は凍りついたように静まり返り、浮かんだ埃一粒さえ、空中で止まって見えた。
「時間は……俺の支配下にある!」
彼は疾風のように敵の背後へと瞬間移動し、拳を硬く握りしめる。その拳は歯車の鋭い縁を砕くほどの力を帯び、自律機兵のコア部分に深々と突き刺さった。
敵の装甲が砕け散ると同時に、衝撃波が室内に広がり、壁に亀裂が走る。だが倒しても、機兵は次々と押し寄せてくる。各機兵は異なる動きを見せ、ある者は重厚な拳を振り下ろし、またある者は鋭いエネルギー刃を振りかざしてきた。
「アーテリオン! 終わりは見えるのか?」
「リアクターの完全再起動まで、あと……300秒。」
「……持ちこたえるしかないか。」
クロノアは再び拳を握る。敵の大軍の波に対し、時間を自在に操る策略と瞬間移動を駆使し、迫る攻撃を避け、敵の動きを封じ込める。
「もう一歩、前へ……!」
時間が流れる。
そして、最後の一撃を放った瞬間、コアが輝きを放つ。激しい閃光が室内を満たし、すべてが静止した。
「……成功だ。リアクターの再起動を確認。」
アーテリオンの声が響く。
男は膝をつき、深い息を吐いた。そのとき、彼はふと、自らの名を思い出した。
「……俺は、クロノア。」
かつて時を支配した者。その名が、再び世界に刻まれる瞬間だった。
だが、同時に彼は感じた。リアクターの鼓動が、ただの機械のものではないことに。
その瞬間、彼の耳に不思議な声が囁いた。
「クロノア……目覚めの時は近い。ソラが……あなたを待っている。」
「……ソラ? 誰だ、それは……?」
彼の記憶の奥底で、かすかな光が灯る。
だが、まだその全貌は見えない。新たな旅路は、ここから再び始まろうとしていた――。