第二話:クロノヴァース再起動
――静寂。
あまりに深く、圧倒的な沈黙が、全身を包んでいた。
暗闇の中、彼は目を覚ました。感覚は鈍く、身体はまるで鉛のように重い。だが、わずかな鼓動の響きが確かに聞こえる。いや、それは鼓動ではない――時間そのものの鼓動だ。
「ここは……?」
彼の名はまだ思い出せない。だが、意識の奥底から湧き上がる感覚がある。かつて自分は時の支配者と呼ばれていた。世界の運命を握る者だった。しかし、すべては終わったはずだ。彼が知る世界は崩壊し、機械魔導帝国は滅びた。文明は灰と化し、星々は闇へと堕ちた。
それなのに、何かが彼を呼び戻した。
光――それは突如として現れた。彼の周囲を包む虚無が、淡い青白い輝きで満たされる。
「目覚めたか、時の支配者よ。」
声がした。低く、重厚で、どこか機械的な響きを帯びている。
「お前は……?」
「私はアーテリオン。機械魔導帝国の最後の記録装置。お前の復活は、予言された必然だ。」
彼は立ち上がろうと試みた。しかし、身体はまだ自由に動かない。
「なぜ……私はまだ存在している? 世界は終わったはずだ。」
「終わりは、必ずしも消滅を意味しない。このクロノヴァースは、まだ完全には崩壊していない。お前が再び動き出す時を待っていた。」
アーテリオンの言葉は、まるで運命の歯車が再び回り始めたことを告げる鐘の音のようだった。
「この世界は、まだ終わっていないのか?」
「否。だが、終わりは近い。お前が立ち上がらなければ、すべてが無に飲まれる。魔法と機械の均衡は崩れ、時間の終焉が訪れるだろう。」
彼の中で、何かが覚醒する。滅びの記憶、絶望の残滓、それでも抗う意志――運命に抗う力。
「私は……この世界を再び救うことができるのか?」
「お前だけが、それを成し遂げられる。」
彼は立ち上がった。
指先からわずかなエネルギーが流れる。空間がわずかに震え、時の歯車が回り始めた。魔法と機械の力が、再び彼の中で共鳴する。
「ならば、始めよう。クロノヴァースを再起動するために。」
闇の中に光が差し込む。彼の足元には、崩壊した文明の残骸が広がっている。だが、その奥に微かな希望の輝きがあった。
「アーテリオン、導いてくれ。私はこの世界を再び紡ぎ直す。」
「了解した。第一の座標へ転送を開始する――ギアホール。かつて機械帝国の心臓部だった都市だ。」
時の支配者は、最初の一歩を踏み出した。
それは、終焉の運命を塗り替える旅の始まりだった。