クズ貴族の人生
俺は貴族。名はルリシアン ルル アルバスという。
「ルリシアン今日は社交界の場にお前を連れて行こうと思う」
そう言って父に連れ出された場所は親や子といった貴族達が昔の交流関係があった人達と飲むという名誉ある同窓会のようなものだった。
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「カシア様これはこれは立派になられて。アーサー様のことは残念でしたね。次期領主になるとのことですが勉強の方は順調でございますかな?何か困ったことがあれば力になります故……」
フリム執事、俺は勉強もしない落ちこぼれだ。毎日毎日ただただ好きな冒険譚の本ばかり読んでいて、困ったことなんて何もないんです。お前とは違って
「おや。ゼルロット卿の次男、ルリシアン ルル アルバス様じゃあないですか。グルア貴族学園以来ですね。」
グリガイヤ。お前と違って俺は交流関係も持たず、家に引きこもって10年になるよ。学生の頃から優しかったお前は今じゃ国王の娘と結婚か。ちゃんと幸せになれよ。馬鹿馬鹿しい
「ルリシアン久しぶり。なんだか思ってたよりみんな大人になってびっくりしちゃった。カシアも昔よりいい顔するようになったね」
メリヤ。それは君の過去の記憶が今の俺の顔をよくしているだけなんだ。君の方こそいい顔をするようになった。今の君なら誰かを幸せにするくらい簡単だろう。昔に比べたら(笑)
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「ルリシアンどうだった。昔の友人達と出会って」
社交界の帰り、馬車の中で父さんが感想を求めてくる。何を求めてきているか。それは変化だろう。クズでニートの俺に貴族としての答えを期待しているのだ。貴族として人生をやり直すよってそう言えばいい。そう言えば父さんの喜ぶ顔が見れる。悲しい顔は見せたくないんだから
「相も変わらずクソを吐き捨てるゴミばっっっかり!!みーんな自分のことしか考えてないで、相手を心の底でバカにしていやがる!やっぱ貴族ってだめだわー」
「そうか……」
父さんはそれ以上は何も言わなかった。失望も落胆も無く、ただただ涙を目から流していた。
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翌日、俺は実の父によって奴隷商人に売られた。その時の父の顔もまたあの時と同じように涙を流していた。相当な金額になったらしい。大量の金貨が詰まった袋を両手に父は薄暗い地下を後にした。その姿が父の人生で見る最後だった。
俺はこの日貴族ではなくなり、名前もルリシアンのみになった。
「おいドブネズミ。お前その目から察するに貴族の生まれらしいな」
俺は学園の時と同じように馴染めなかった。殴る蹴るなどの暴行を受けた結果、高い鼻が折れ、綺麗な茶色の髪も汚い濁った色にへと変わった。
「ぐぼっ……ぐっ」
よくわからないものを沢山吐いたり漏らしたりもした。その色が白だったり赤だったりしたこともあれば、何かお腹にあったものがするりと漏れ出た時もあった。
苦しかったし辛かった。何度も何度も暴行を受け、物を隠され、いじめられ続けた。そうやって生活を繰り返していくうちに俺はあることに気がついた。
「あぁこれって現実なんだ」
昔から俺には好きな本があった。その本の主人公はいつもクズみたいなやつで女の子のスカートを捲ったり、店から金を盗んだりしていた。人に褒められたようなやつじゃない。でもそんなやつがなぜか賞賛され、いつしか伝説となり本となっていた。
それを見た時自分の人生が馬鹿らしく感じた。現実を認識できなくなってしまったのだ。
物語の主人公のように生きても同じにはなれない。印象だけ真似しても足りないのだ。物語の主人公の内面の努力を俺は軽んじていた。
「あぁ……俺はやっぱり……」
それに気づいた時、俺は人生で2回目の涙を流した。