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終列車の女〜都市伝説!?名鉄三河線の最終列車には必ずたったひとりで乗る女性がいた

名鉄三河線に実在する“終列車”と、

高浜に伝わる狐の伝説をモチーフにしたボイスドラマ作品です。


都会で疲れた女性が終列車で出会う“謎の着物姿の女性”。

100年の時を越えた母と子の物語は、

クリスマスの夜に思いがけない奇跡を見せてくれます。


音声版と合わせて楽しんでいただければ幸いです。

【ペルソナ】

・冬音=ふゆ(24歳/女性)=東京で働くメイクアップアーティスト。仕事に疲れて高浜へ帰郷

・ゆき(終列車の女=母狐)=100年前に人間によって引き裂かれた子狐を探して毎夜終列車に乗る

・語り部(老婆)=冬音の祖母(冬音が小さいころ昔話を語ってくれた)

・聖夜=せいや(6歳/男子)=冬音の息子。高浜を出るときに母に預けて東京へ



【プロローグ:語り部】


◾️SE:蒸気機関車の汽笛一声


むかぁしむかし。100年も前のはなし。


この高浜にはな、蒸気機関車が走っておったんじゃ。

まわりは田んぼばっかりでな。

夜になると、コーン、コーンと狐の鳴き声が聞こえてきたわ。


その日はいつもと狐の鳴き声が違っておった。

ギャオーン、と泣き喚くような声が響いてくる。


それは、母狐が、いなくなった子狐を探す声じゃった。

狐は農作物を荒らす害獣。

見つけたら猟銃で駆除される。

でも子狐はつかまえて、養殖業者に売るんじゃよ。


どうしてかって?

100年前、狐の毛皮は高級品。

安定供給するためには養殖するしかなかった。

子狐をつかまえて育てるんじゃ。


母狐にとってはそんなことは関係ないわな。

狂ったように子どもを探し回る。

結局見つけたのは、刈谷駅で養殖業者に引き渡されるところ。



母狐は子どもを助けようと檻の前に飛び出したんだがな。

待ち構えていた業者に猟銃で撃たれてしまったんだ。


それ以来、母狐は人間の姿になって

刈谷駅から終列車に乗ってくるようになった。

100年ものあいだ、毎日毎日子狐を探しながら・・・


これが、「終列車の女」じゃ。



【シーン1:刈谷駅/終列車への乗車】


◾️SE:刈谷駅の雑踏(人影少ない深夜)


はぁ、はぁ・・

なんとか終電に間に合ったか。


あれ?

12月だというのに、この車両、乗客は私だけ?

ま、いっか。

ラッキー。


私の名は、ふゆ。

冬の音、と書いてふゆ。

古風でしょ。

おばあちゃんが名付けたんだって。


いまは、東京でメイクアップアーティストをしてる。

TVのCMとかで、モデルや俳優にメイクするお仕事よ。

高校を卒業してすぐに上京したけど、まあ、最初は大変だった。


もともとメイクが好きで高校時代から友だちにしてあげてたんだ。

だから、センスとか技術とかは多少自惚れてたのね。

なんとかなるだろう、ってたかを括ってたんだけど・・・


まさか美容師免許がいるなんて知らなかったんだもの。

しかたなく、

売れてるアーティストのもとでアシスタントしながら美容学校へ通ったわ。


で、4年目に独立してからは、そこそこ人気も出てきたかな。

今じゃ、新進アイドルグループの専属メイクとして

ツアーのステージメイクや、ミュージックビデオの特殊メイクをしてる。

もちろん、アシスタントも使って。


なのに・・・

アイドルのひとりが不祥事を起こしちゃって、グループは解散。

アシスタントはクライアントを連れて独立しちゃうし・・

はぁ〜っ。


で、イマココ。


残ってる仕事をほっぽりだして、衝動的にのぞみに乗った。

名駅からJRで刈谷へ。刈谷からは名鉄三河線。

もう6年も経ってるのに

ふるさと・高浜への行き方は体が覚えてる。


刈谷駅23時50分発の最終列車。

雪のため、東海道線が大幅に遅れた。

足元に気をつけながら駆け込んだ車内。


ほっと一息ついて座席へ腰を下ろす。

あ〜疲れた。


目を閉じると、睡魔が襲ってくる。

一瞬のまどろみ。


はっ。


だめだめ。

高浜港まで4駅しかないのよ。

乗り過ごしちゃったら歩くのめんどい。


しっかし、ふふ。

よく覚えてるもんだな。

なんか、高校時代がまるで昨日のことのよう。


あれ?


列車のなか、こんなに薄暗かったっけ?

外も真っ暗。


木製の窓枠。木製の背もたれ。小さな裸電球。

名鉄三河線って、こんな古めかしい車両だった?


車内を見渡すと、奥の方の座席に1人。

誰もいないと思ってたら、女性が俯いて座っている。


夜の闇から切り取られたような藤紫の着物。

白い細縞のあいだから、雪の結晶のような模様が淡く浮かんでいる。


腰には深紅の袴。

白い半襟には差し色の薄桃色。

髪は黒い艶を宿した夜会巻き。


深い焦げ茶の編み上げブーツ。

つま先が、ほんのわずかに震えていた。


すごいレトロな風貌・・・

なのに、違和感がない。



【シーン2:小垣江駅/大学生風の若者】


◾️SE:車内の音/蒸気機関車の汽笛


そのとき、列車がガタンと揺れた。


後ろの連結部から、2人の学生風の男子が入ってくる。

2人は私をちらっと一瞥してから、奥の女性へ視線を移した。

顔を見合わせて、にやりと笑う。


あ、やだな。

声、かけるんだ、きっと。


私の前を通り過ぎた2人は、女性に近づいていく。

なにか話しかけながら右手をあげた・・・その瞬間


え?


女性の姿は映像がフェードアウトするようにすうっと消えた。


その場で固まる男の子たち。

私も目を見開いて息を飲む。


同時に目の前に違和感を感じて

ゆっくりとピントを奥から手前へ。


私の斜め前の座席。

そこに彼女はいた。

まるで最初からそこに座っていたように。


男の子はこちらへ振り返って彼女を見つけると大声を出した。

それに応えるように、列車がとまりドアが開く。


小垣江の駅?


案内放送はなにもない。

男の子たちは、転がりながら慌てて外へ。

列車が2人を追い出したように見えた。


降りた2人は真っ暗なプラットホームから

恐ろしいものを見るような目で列車の中を覗き込んでいる。


ほどなく扉が閉まり、再び列車は走り出す。

女性は相変わらず下を向いている。


きれいな人だな。



【シーン3:吉浜駅/中年サラリーマンの酔客】


◾️SE:車内の音/蒸気機関車の汽笛


さっきあったことが嘘のように冷静な自分に驚く。

そんなことを考える余裕もなく

ふと気配を感じて反対側を向くと・・


またしても隣の車両から移動してくるのは・・

今度は中年のサラリーマン?

足元がおぼつかない・・

酔っ払いだ。


大人しく座っていればいいのに。

ふらふらと女性の座る座席へ近づいていく。


こんな空いた車内でわざわざ女性の横に?

いやらしいなあ。


男性が腰を降ろした瞬間、またしても・・・


女性の姿は消え、そのままの姿勢で少し奥の席に座っている。

酔客は、なにが起こったか理解できないようで、

また立ち上がり、女性の方へ歩いていく。


やめておけばいいのに・・・


案の定、酔客が座った瞬間に女性の姿は消え失せる。

今度は私の目の前だ。


ふらふらとこちらへ近づいてくる酔客。

そのとき、列車はまた停止した。


ここは吉浜?


男性は、なにかに引っ張られるように列車を降りていく。

まだなにか喚いている。

まあ、年の瀬だし。

そういう季節か・・・



【シーン4:三河高浜駅/同級生】


◾️SE:車内の音/蒸気機関車の汽笛


なんだろう、この感覚?


目の前で都市伝説みたいなことが起こっているのに、

とても冷静な自分に驚く。

正面に座った女性は・・・

相変わらず黙って俯いている。


酔客が降りたあと、しばらく走っている列車がとまった。

順番からいっても、三河高浜駅だよな。

でも、どうして車内放送がないんだろう。


扉が閉まる直前に乗り込んできたのは、大小2つのシルエット。

母娘かな。

車両の奥へ歩いていって、空いている席にゆったりと腰かける。


お母さんの顔・・・どこかで見たことあるような・・


あ・・

あれは・・高校の同級生。


私はとっさに顔を伏せた。

そうか。

きっと幸せな家庭を築いているのね。


ふいに高校のときの思い出が蘇ってくる。

私、勉強もせずに、いつもバカばっかりやってた・・

それに比べて彼女は・・・


毎週末にボランティア活動。

SBP?だったっけ・・

オリジナルのたい焼き作ったり、三州瓦の新しい焼き型を作ったり。

地域社会の中ですごく評価される活動をしてた。


同級生も娘さんも、あんなに幸せそうな笑顔・・・

別にうらやましいわけじゃないけど、目頭が熱くなる。

私、大切なことを忘れているような気がする・・・


そのとき一瞬、目の前の女性と目が合った気がした。

いや、きっと気のせいだわ。

だって、この人さっきから微動だにしていないもの。

まるで時間が止まっているように。



【シーン5:高浜港駅/こども】


◾️SE:車内の音/蒸気機関車の汽笛


やがて、車窓はよく知っている夜景に変わっていく。

三河高浜から高浜港へ。


変わってないなあ。


昔は灯りの少ない田舎の夜が大嫌いだったのに。

いまは、懐かしくて、あったかくて・・・

どうして6年間一度も帰らなかったんだろう・・


私は網棚からスーツケースを下ろして、降りる準備をする。

ごとり、と鈍い音が足元に響いた。

親指でボタンを押し込みながら、アルミニウム製の柄を立てて伸ばす。

使い込まれたキャスターが微かに震えた。


刈谷駅からたった12分。

列車は高浜港のホームにすべりこみ、ゆっくりと停止していく。


あ、ホームに誰か、ぽつんと立っている。

小さなシルエット。

子どもだ。


視界の右から左へ。

子どもの姿はだんだん近づいてきて、私の前で止まった。


扉の前に立って開くのを待つ。


扉が開いた瞬間、降りるより先に子どもが乗り込んでくる。

すれ違う直前、私の方を見て、


「おかあさん」


え?


違う。私じゃない。

子どもは私をすり抜けて車内へ。

後ろに座る、あの女性のもとへかけていく。

女性は初めて顔を上げた。


膝の上で重ねたその指先が、ゆっくりとほどけていく。


静かに立ち上がると、

袴の赤が揺れ、編み上げブーツが小さく音を立てた。


潤んだ瞳から、一筋の涙がほおを伝わる。

子どもは女性の胸に飛び込んでいった。

その情景を、私も心を震わせながら見ていたけど、


「ママ」


ホームからの声。

現実に引き戻されて振り返ると・・


さっきの子がいた場所。

ホームにはまだ子どもがひとり残っている。


あ・・・


この子・・・この子は・・・


そうだ。

そうだった。


私が帰省した目的。

それは・・・この子。

私の大切な息子。


「聖夜!聖夜なの!?」


仕事なんてどうでもいい・・

そう思えたのは、この子がいるから。

毎日のように母が写真を送ってきた私の息子。

どうして?それすら忘れていた。


最終列車に乗ってからここ高浜港に着くまで

どうして思い出せなかったんだろう。


私は思いっきり聖夜を抱きしめた。

後ろで列車の扉が閉まる音がする。


振り向くと、今まで薄暗かった車内は

LEDの灯りに明るく照らされている。

ゆっくりと動き出した列車は碧南方面へ。


それとは別に、銀河鉄道のような蒸気機関車が冬の夜空へ。

切ない汽笛を鳴らしながら昇っていく・・・

・・・そんな幻を私は見ていた。


「ママ。メリークリスマス」


あ・・

そうか・・・今日はイブ。

クリスマスには奇跡がおこる・・・


「よくママの顔がわかったわね」


「毎日見てるもん。ママの写真」


「そっか。

おばあちゃんは元気?」


「うん。いつもママの話聞かせてくれる」


「どうせ悪口でしょ」


「ううん。昔からすごくメイクが上手だったって」


「え・・・」


「いまは売れっ子のメイクアップアーティストなんでしょ。

高浜へは全然帰ってこれないくらい」


「う・・・うん、そうよ。

あの有名なアイドルグループの専属なんだから」


「お話、きかせて」


「うん。じゃ早くおうち、いこ。

かあさんに会いたい。

ひいおばあちゃんも元気?」


「うん。たま〜に高浜の昔話を聞かせてくれるよ」


「ふふ・・相変わらずね」


「あ・・・」


「なあに?」


「雪・・・」


気がつけば、プラットホームにはうっすらと雪が積もりはじめている。

白い息が星空に溶け込む。

粉雪が舞う夜空に、オリオンが煌めいていた。



※以下カットする?

【エピロローグ:語り部】


◾️SE:蒸気機関車の汽笛一斉


100年間も探し続けたクリスマスの夜。

母狐は、やっと子狐と出会えたんじゃ。


だけど、そのときはもう

高浜で狐の姿を見かけることはなくなってたんじゃと。


みんな銀河鉄道に乗って、

夜空へと消えていってしまった。


もう一度あの子たちに会いたいと思うなら、

わしらの生き方を変えんといかんやろうな。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


物語に登場する“母狐”は高浜に残る伝承をもとにした創作ですが、

地域の歴史と、親が子を想う強い気持ちの両方を重ねて書きました。


そして主人公の冬音が思い出す“本当に大切なもの”は、

現代を生きる私たちにも通じるテーマだと思います。


ボイスドラマ版では、声優さんの演技によって

さらに涙腺が刺激される仕上がりになっていますので、

ぜひそちらも聴いてみてください。

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