第七話 曖昧
『・・・それで私は鳴家君と同じ大学に通う二年生で、彼女?』
大学の池で話した後も相変わらず朝の挨拶は続けていた。けれど直接会うことはなかった。とはいえあれからまだ3日しか経っていないが。
とりあえず舞の実家を訪れ家族に会う。あくまで友人として。だから舞のこの発言はただの冗談だろう。その証拠に三女の踊華が舞の方だけを見て訂正する。
「舞姉さん、その方は彼氏じゃなくてお友達ですよね」
「う、うん。そうなのかな?」
「なんで曖昧なんだよ舞ねえ。まさか本当に付き合ってるの?」
光は舞を見た後目つきを鋭くしこちらを見てきた。明らかに敵対心がある。
自分と舞が友人の関係であることは事前に話してあるのかと思っていたがこの状況を見るにそういうわけではないらしい。
わざとはぐらかすことで反応をうかがっている。自分がどう出るのか試したいのだろうか。
でも答えは初めから決まっている。
「自分は彼氏ではなくてあくまで友達です」
「なーんだ、そうなんだ」
四女の波来がつまらなそうにテーブルに突っ伏した。自分の言葉を聞いた舞はどこか安心したような悲しそうな微妙な表情をしていた。でもこれはお互い納得したことのはずだから気に病む必要はない。
自分の回答に光はまだ納得しきってはいないようだがこれ以上噛みついてくる様子はない。
微妙な空気になってしまったので一度深呼吸する。酸素が薄く感じる。だから多めに息を吸う。
そもそも今日ここに来た目的を忘れてはいけない。脳に酸素を送り思考をクリアにする。
目的の一つは彼氏彼女の関係ではないとはっきりさせること。これはおおむね達成したことにしよう。変な誤解を生まないためにも自分の口ではっきりと友達だと告げた。
後はもう一つ大事なことを伝えないといけない。これはまだ舞にも言っていない。
機をうかがうためにももっとリラックスした雰囲気にしたい。けれど部外者の自分があまりでしゃばるわけにもいかないので困っていると、波来が何かを察したように顔を上げる。
顔を横に振り面々を見回した後部屋のタンスに向かい小さな箱からカードを取り出すとテーブルに並べた。
そして無邪気な笑みで「これで遊ぼう!」と元気よく言った。
まだ空気は張っているがその提案を断る者は誰もいなかった。