第四話 あなたと私
その週末の午前中に自分は神社を訪れていた。家から自転車で1時間ほどの場所にある山奥の神社だ。入り口まで行くと確かに細い道があるのだが神社の存在を知らなければまず入ろうとは思わないだろう。
そこから歩いて20分ほどで開けた場所に出る。少し寂れた鳥居を見上げるとそこには「漣神社」と書かれている。
聞いたことのない名前だし初見では何と読むのかもわからない。幸い事前にマップアプリで調べた時に名前は知っている。さざなみ神社。漁業の繁栄や豊穣を司る神様が祀られているらしい。なぜ山奥に海に関係ある神様がいるのかは疑問に思った。調べも詳しいことはわからなかった。
その答えは鳥居の奥で掃き掃除をしている神主に訊いてみよう。
「あのすみません」
「おお君か、よく来てくれた。舞から話は聞いてるよ。さあさあ中へおいで」
気の良さそうな中年の神主は自分に気がつくと背中を押すように神社の奥に案内した。
離れの扉が開かれると木目の長い廊下があり突き当りには階段が見える。廊下の脇には障子があり和風で趣のある家だ。ここが居住地になっているらしく玄関の靴入れの上には家族の写真が飾られていたりと生活感がある。
映っているのは全部で六人。皆笑顔で仲睦まじそうだ。
障子が開かれるとそこには楕円形のローテーブルを囲んでいる四人の女性がいた。砂浜で会ったことのある四人だ。
神主が座布団を敷いてくれそこに座るように促される。位置としては楕円のでっぱり部分。自分から見て左右に二人ずつ女性が座っているため、まるでお誕生日席にいるようで気恥ずかしい。
どこを見ていいか分からないので下を見ているとテーブルの足が曲がった木でできたおり自然の素朴な味わいと一点ものの特別感を覚えた。
そうやって気を紛らわせていると女性の一人が立ち上がりコップに麦茶を入れて持ってきてくれた。
それを合図に大学で会った女性はぱんと手を打つと話始めた。
「ありがとうね光。さあということで自己紹介でもしましょうか!」
「おー!」
妙にはりきっている。無理に明るくしているのか調子が外れている。
その調子に一番小さい女の子だけが拳を上げ乗り気で応えた。
「い、いきなりだけど鳴家君からどうぞ」
え、いきなりかよ。女性は焦っているのか目がぐるぐるしている。
自分が嫌そうな顔をしたのがばれたのか女性の隣にいる先ほど麦茶持ってきてくれた光?という子が気を利かせて淡々と紹介してくれる。
「私の隣が長女の舞ねえ。舞ねえの向かいにいるのが三女の踊華。でその隣が末っ子の波来。私は次女の光です」
「あー! 光ずるい。波来がご挨拶しようと思ってたのに」
「うるさいちび」
「またちびって言ったー!」
このやりとり砂浜でも見たな。喧嘩してるようにも見えるがそこには温もりがある。
一旦整理しようとそれぞれの顔と名前を一致させる。
まず長女の舞。ブロンドのボブヘアーに大きな二重の瞳。眉尻には小さなほくろがある。堂々としているのかおどおどしているのか目まぐるしい人物だ。
次に次女の光。黒髪のショートボブ。目はきりっとしているがきつい印象はない。発言や様子から淡白そうだがやりとりからはしっかりと熱を感じられる。
三女の踊華は黒髪ロングヘアー。背中まで伸びている髪はしっかりと手入れされており透き通る艶がある。肌は白く日焼けしないように気を使っているのが伝わってくる。まだ喋っているところを見ていないが他の人が話している時周りをよく見ていたので、あまり前には出ず相手に合わせるタイプなのかもしれない。
最後に四女の波来。黒髪ショートヘアー、前髪はぱっつん。長女によく似た目をしており人目を引きつける。幼い見た目や言動が年相応で自分に妹がいたらこんな感じなのかなと想起させる。明るく活発な印象を受ける。
一通り見終えている間に舞は調子を取り戻したのか年長者らしい顔で場をしきり始めた。
「もう少し詳しく話すね。光は高校二年生で陸上をやってるからいつも日焼けしてるの。淡々としてるけど優しい子だから安心してね。踊華は中学三年生でピアノを習ってる。初対面の人には緊張しちゃうからあまり反応なくても気にしないでね。波来は小学三年生でいつも活発。元気が有り余ってるから何か習い事でもしたらって言ってもそれだけはなぜか断るの。・・・それで私は鳴家君と同じ大学に通う二年生で、彼女?」
すらすらと話していたのに最後だけつっかえながら言う。上目使いでこちらを見てくる仕草にはぐっと来るものがあるが、問題はここからどうするかだ。
食堂で気を失った後自分は舞に介抱されていた。