第一話 渚の邂逅
夏が顔を覗かせようとする頃、涼むために波でも眺めようと砂浜までやってきた。自宅からは少し離れているのだがこの彼岸砂浜は広いわりに人が少なく静かで落ち着く。しばらく波の満ち引きを眺めていると、砂浜の端に人影が見えた。遠目で分かりづらいが水着の上にガウンを羽織っている。
楽しそうに話している声が段々と近づいてくる。邪魔をしては悪いと思い、喉も乾いたので近くの自販機に向かいそのまま自宅へ帰ろうと歩き始めた。すると後ろから声をかけられた。まさか自分にではないと一瞬思ったがそもそも他に人がいないのでおそるおそる振り返ると、先ほど見かけた女性が立っていた。笑顔でこちらを見ている。
「鳴家公親君、だよね?」
「はい、そうですけど・・・」
突然自分の名前を呼ばれ無意識に反応してしまった。相手の女性に見覚えはない。知らない人。笑顔は愛嬌たっぷりだが少し怖かった。
相手の女性はこちらに構わず話を続ける。
「私は漣舞って言います。鳴家君と同じ大学に通う同級生。急に声かけてごめんね、でもこんな偶然あるんだね」
自分が反応に困っているとその女性と一緒にいる別の女性がフォローしてくれる。
「舞ねえ、困らせたらだめでしょ」
「そうですよ舞姉さん」
舞より少し背が高い女性と少し低い女性が舞をたしなめる。
どうしたものかと思っていると、いつのまにか小学生くらいの一番小さな子が自分の足元に抱き着いていた。
こちらを見上げ笑いかける。
「ねえねえこの人、お姉ちゃんと同じ匂いがするよ」
「こらっ波来、何言ってるの」
「そうだぞちび、お前が一番困らせてどうするんだよ」
「ちびって言うなー、あとお前って言うなー」
舞は赤面し波来はちび呼ばわりされたことに対して両手を広げて抗議する。
「ごめんね鳴家君、迷惑かけて。また大学で会ったらその時はよろしくね」
舞はそう言うと波来をひきはがし三人をつれて波際まで去っていった。