出会い〜孤児院にて〜
孤児院へ支援物資を届けることを、週に一度の習慣にしている。
華やかに見えるこの地方都市にも貧富の差は存在しており、普通に生きるという只それだけの事であっても、生まれながらにそのレールから外れる者がいる。
そんな子供を拾い上げる孤児院という場所が経営に窮するなど、あってはならない事なのだ。
街の城壁から少し離れた森の奥深くにある森から、空を飛んで移動する。人目につかないように、街の入り口から離れた所に降り立つ。
街は外敵に備え壁に囲われていて、入り口は一つしかない。若い男の守衛が、顔を赤くしてぎこちなく挨拶してくる。アンデッドになってから歳を取ら亡くなった私の容姿は美しいままで、今だに若い男から好感されるようだ。
利便性の高い門の近くは多くの店がひしめいていて、大通りから少し入れば金持ちの大きな屋敷が並んでいる。
通りを進んでいくと、だんだんと街の喧騒が小さくなり、やがて目的の建物が見えてきた。
孤児院は周囲の建物に比べて小綺麗な外観をしている。数年前に私が金を出して改修をしたからだ。
外を駆け回って遊んでいた子供達が、私を見つけて寄って来る。子供達の笑顔はいつも私を癒してくれる。
「みんなで食べてください」
通りで買ってきた、籠いっぱいの菓子を一番小さな女の子に手渡した。子供達は少し驚いたような顔をした後、嬉しそうにお礼を言って、今度は孤児院の中に走って行った。
「失礼します」
私が戸を開くと、籠を持った女の子の周りに子供達が集まってお菓子を受け取っていた。
子供らしい賑やかさが微笑ましい。
「ナチュレ様、いつもありがとうございます」
若い女性職員が声をかけてきた。
「食べ物と生活用品を注文してきました。明日届きますので、こちらの内容で受け取りをお願いします」
注文した品物の一覧を手渡すと、職員の女性は恭しい態度で礼を言った。
「あの赤ちゃんは?」
前回来た時には居なかった、一際小さな赤ん坊が布団に寝かされている。
周りがこれだけ騒がしいのに、我関せずといった風でよく眠っている。
近寄ってみると、わずかに開いた唇から微かな寝息が聞こえた。
「あの子はきのう預けられたんです。とても綺麗な顔してますけど、男の子ですよ」
聞けば、布に包まれ孤児院の前に置かれていたらしい。弱々しい泣き声にこの職員が気付き、大事に至らず保護できたようだ。
職員に断りを入れてそっと抱き上げてみると、人の体重とは思えないほど軽く、少しでも力を入れると壊れてしまいそうなほど弱々しかった。
しかし、腕に伝わってる体温が、この赤ん坊が確かに生きている事を伝えてくれる。
しかし、
「この子はとりわけ弱々しいようですね…」
思わず口をついて出た言葉だった。
これほど才に恵まれないということがあるのだろうか。この世界で才能とは、どれだけマナを扱えるかと言うことだ。
見たところ、この子にはマナを扱う素養が全くない。体内のマナを感じ取れない。
これではどんな属性のスキルを習得するのにも、人並み以上の努力が必要だろう。
貴族であった人間だった頃はもちろん、アンデッドとなってから出会った全ての人間の中で最も才能がないかもしれない。
この子はこれから、どんな成長をするのだろうか。
生まれに恵まれず、才に恵まれず、人並みでいることに努力する…。
そこまで考えた時、
私がこの子を引き取り育てることが、自分の使命であるかのように感じられたのだった。