婚約破棄
「ユリア・ローレンツ、お前を……」
「婚約破棄ですね。わかってますよ。はいはい」
私がやれやれと言った調子でセリフを横取りすると、婚約者(元?)であるカール・シュタイン侯爵令息は驚きのあまり、口をぱくぱくしたまま話が続けられなくなってしまった。
隣で奴と腕を組んでいる、金髪縦巻きロールの長い髪に、つけまつげマシマシで家にいる時よりも2倍は大きくみえる青い瞳、分厚い化粧で不自然に白くテカテカした顔、全身ピンク色のフリフリドレスを着ている嫌味ったらしい女は(絶対に趣味…… いや頭がおかしいと思う)、何を隠そう私の妹マリアンネ・ローレンツだったりする。
なぜ、彼女がこんな頭のおかしな格好をしているかというと…… いや、格好のことはこの際どうでも良くって、どうしてこんな事態に陥ったかというと、妹のマリアンネが私を冤罪におとしいれたからなのだ。
元々、親同士が勝手に決めた婚約だった。何もわからなかった私は、そう言うものだと思って受け入れていた。
しかし、彼の実家のシュタイン侯爵家が、最近になって王妃様の覚えがめでたくなって、羽振りがよくなると、急に妹が彼に接近し始めた。
やたらと化粧や衣装に時間をかけ、婚約者の妹という立場を利用して、カールと仲良くなり、さらには私のよくない噂を学園内で言いふらすようになった。
私は可愛い妹を虐げる悪魔のような女とか、不幸を呼び寄せる貧乏神だとか(それは間違っていないのかもしれない)いうレッテルを貼られ、そして、カールの耳にその噂が入り、すでに妹を溺愛してしまっていた彼は激怒、そして、こんな流れになってしまったのだろう。
いくら私が弁明しても、どんどんと立場が悪くなり、気がついたら周囲からすっかり孤立してしまった。再三、カールからも注意を受けていたが、全然身に覚えがないことばかりだった。
妹に直接文句を言っても、まるで聞いてくれないどころか、誰か人がいるときは嘘泣きをして、さらに私の立場が悪くなっていった。最後は親まで私を責めるようになっていた。
それにしても、彼女にまんまと騙されて、鼻の下を伸ばして間抜けヅラした元婚約者となってしまったカール・シュタイン。騙されるのはしょうがないとして、衆人環視のこの状況で、面と向かって婚約破棄を宣言するなんて、いったい何様だと思っているのだろう。
妹も妹だ、実の姉をこんな目に遭わせるなんて、人としていかがなものだろう。少なくとも事前に話があれば、こんなしょうもない男、ノシをつけて渡してあげるのに。
正直いやーな気分にはなってしまったけど、まあしょうがない。私にはここに呼ばれた時から、婚約破棄されることは分かっていた。
どうして事前に私が察知できたかと言うと、実はこの私、ユリア・ローレンツには、ちょっと先の未来を見ることができる能力が備わっていたからなのだった。
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