3話 エレナの裏
エレナという女性と出会ってから2年ほど経った頃、僕は彼女と頻繁に話すようになっていた。
会ったときの反応が面白かったのか、彼女は僕に頻繁に話しかけてきたのだ。
その様子を見た知人に「チャンスが来たな」とからかわれたくらいだった。
僕自身はわりと彼女のことを疑っていた。
ひょっとしたら、「国の回し者じゃ無いか」と。
実はこの予想が「当たらずとも遠からず」だったことを後に知ることになる。
それでも、会っていたのは僕自身彼女と話すのが楽しかったためだ。
ハッキリと言ってしまうと、惚れてしまったのだ。
怪しいとはわかっていても、「会いたい」、「話したい」という欲求が優ってしまい、彼女の誘いに乗ってしまう。
頭で愚かであることはわかっていても、心は理解していないのか、やめられない。
まさに中毒状態だったと言って良いだろう。
「いつも付き合わせてしまって、悪いね」
そのようなことを彼女が言ったので、こちらはテンプレート的な返しをした。
「いいえ。好きでやっていることですし……」
そう言うと、彼女はクスッと笑いながら、言った。
「遠慮する必要なんてないのに」
内心を見透かされていると思ったが、焦っていたのか取り繕うようなことを言ってしまった。
本来、このようなときは正直に話した方が良いと言うのに……。
「そんな! 遠慮だなんて……」
すると、彼女は真顔になって、こう告げた。
「大丈夫だよ。君が私のことを疑っていることは知っているから……。そのことで、君を咎める気はない。むしろ、『君がそのような人だからこそ、私は近づいた』」
そのようなことを言われて、頭の中で?マークがたくさん浮かんだ。
この人は何を言っているのだろうか?
僕が「そう言う人間」だから、接触した?
どのようなことを言われているのか、チンプンカンプンだった。
「困惑しているねぇ……」
少し困ったように、同時にそんな僕の様子を楽しんでいるかのようだった。
「このままだと話せなさそうだから、悪いけど本題を話さしてもらうよ? 君は今までの様子から、この国に疑問を持っている? そうだね?」
そのように問われたので、「それが何を指しているかはわからないが、疑問は持っている」と言った。
「やっぱり、ね。どのような経緯かはわからないけど、私『たち』と同じことを思っているわけだ。君は」
「私『たち』?」と僕は疑問を口にした。
「ああ。この国がなんだかおかしいと思うのは君だけじゃない。私もそうだし、他にもそのように思う人はいる」
彼女の発言を聞いて、ある意味ホッとしていた。
今まで知り合うことは無かったが、僕のようにこの国に疑問を持つ人たちがいたのか、と。
ただ、同時に疑問も浮かぶ。
なぜ、僕のように転生者ではないのに、この国に疑問が浮かぶのだろうか、と。
立場上、他の事例を知っている僕だからこそ、気づいた違和感だ。
ひょっとして、彼女や彼女の知り合いも転生者なのだろうか?
この時はそう考えていた。
「一応、確認。君はこの国のどのあたりに疑問を抱いた?」
正直に「治安があまりにも良すぎること、人々の自制心があまりにもありすぎること。悪いことではないが、逆に調和されすぎていておかしい」と。
すると、彼女の方もホッとしたような感じで微笑んだ。
「うん。だいたい同じだね。そうだ。この国はあまりにも、調和されすぎている。不気味なほど、ね」
そう彼女自身も疑問に思っていたことを肯定した。
「まるで人為的に人々を『ある一つの意思』が導いている……。いや、操縦していると言った方が正しいかな? そう思えるほどにね」
「あなた方も例の魔法使いを怪しいと?」。
そのように聞くと、意外な反応が返ってきた。
「ああ、とても怪しいね。なんていったって、私たちのような『この状況に疑問を抱く人』はみな魔法を使えるか、この国の外から来た人ばかりだからね」
つまりは魔法を扱えるか、他の環境を知っている場合は、何らかの力による精神への影響を受けずに済むということか……。
疑問が一つ解けると同時に新たな疑問も生まれる。
「『みな魔法を使えるか、この国の外から来た人』と言いましたよね? ということは、あなたやあなたの仲間は魔法使いやこの国の外から来た人たちということですか?」
すると、彼女はニッコリと笑った。
「私の仲間には多くいるね。私の場合、どちらかと後者になるのかな? でも、厳密には違うのだけれどもね?」
その言葉にこの時の僕はハッとした。
もしかしたら、彼女も僕と同じ……。
「別世界の人間の記憶を持つと言っても、信じてくれるかな? いや、ひょっとしたら、君も私と同じだったりするのかな?」