2話 最初の「運命の出会い」
「支配する魔法使いのおかげでここの人々は幸せ」
そのようなことを聞いてから5年ほどが経ち、二十歳になった頃、
その後の運命を変える女性の一人と出会った。
それは配送局の仕事をしている時であった。
この国には企業というものは存在しておらず、全てが国営事業だ。
大分違うところもあるが、前世で言う共産主義社会に近いものがあるかもしれない。
とにかく、私企業などが一切存在しないため、教育機関を卒業したら、その都度希望の進路に就く形だ。
上位の学校に進学するのか、それとも国家機関で奉仕することを選択するのか。
もちろん、必ずしも希望が叶うわけではない。
実力がなければ、進学も希望の場所で奉仕することもできない。
だが、それにまつわる嫉妬や蟠りを感じたことはない。
無いに越したことはないが、ここまでだと不気味だ。
今世だけでは感じなかった違和感だと思うが、前世があるとそれを明確に感じている。
それはこの国のシステム(秩序)が成り立っていることからしてもそうだ。
全てのサービスを無償で傍受でき、物も無償で支給される。
その代わり、貨幣経済というものがなく、人一倍働いてお金を稼ぎ、欲望のままに消費するなんてことはできない。
そんな環境だと共産主義国家のように無気力な人が増加し、生活保護受給者の悪い例みたいに好き放題やりそうなものである。
だが、そのような人を一切見たことがない。
もっと信じられないことが、無償で各種サービスを受けられる代わりに、無給で働くことをこの国では求められるのだ。
そのため、先ほどから「働く」ではなく、「奉仕」という表現を使っているのだ。
前世ならストライキをする奴が一人や二人以上は出そうなものだ。
だが、ここでの生活でそのようなことをする人を見たことが無かった。
全てが不気味だった。
異常な大きな社会。
異常なほど保たれている秩序。
異常なほど自制心、道徳感(?)を備えた人々。
前世から慣れた配送品の仕分けをしながら、思わず憂鬱な溜息が出た。
「おや、表情が優れていないねぇ? 珍しい。何か悩みごとでもあるのかい?」
声がした方向を振り向くと、今世の僕よりも一回り近く年上だと思われる女性がいた。
「そのような表情をしている人は珍しいからね。思わず声をかけてしまったよ」
彼女が言った通り、ちょっとした悩みならともかく、「人生に疲れている」という感じを醸し出している人間は珍しい。というより、異端と言って良いレベルではなかろうか?
「あ、いえ」
この世界の常識に合わせて、極めて「普通」を取り繕うとする。
だが、彼女にはお見通しだった。
「取り繕わなくていいよ。咎めているわけではないからね。ただ、君のような存在が珍しいから声をかけただけさ」
ちょっと安心した僕は、彼女と他愛のない言葉を一つ、二つ言ったあと、仕事に戻った。
その日、仕事が終わったあと、再び彼女に声をかけられた。
「お疲れ様」
そう声をかけた彼女に僕は「待っていたのですか?」と聞く。
「ああ。変わり者である君の名前を聞いていないと思ってね」
それを聞いて僕は「ジョンです」と端的に答えた。
「ジョンね。私はエレナ。今のところ、配送課の先輩ということになるのかな?」
そのように名乗り返した。
今にして思うと、この時のエレナの言葉には含んだものがあった。