プロローグ
「転生先で独裁者と革命家に惚れてしまった件」
この言葉を聞いて、君たちはどう思うだろうか?
ふざけている? それとも、興味を持った?
どう思ったにせよ。
僕にとっては、本当の話だ。
転生先で、生まれた地を支配する独裁者と、それを打破しようとする革命家に惚れてしまった。
君たちにとっては、フィクションの話だけどね。
もし、興味を持ってくれたのなら、聞いて欲しい。
僕の過去を……。
まずは転生する前から話そう。
僕は極一般的な日本人の若者だったと思う。
「思う」というのは、僕はそう感じているだけで、他の人たちにとっての「普通」だとは限らないからだ。
人によって、僕の生活が普通以下なのか、あるいは上なのかは変わるだろう。
自分では両親に恵まれたほうだと思う。
喧嘩こそあるものの、険悪的な雰囲気はなく、強いて言うなら夫婦仲が少し冷めているくらいだが、二人なりに僕のことを愛してくれていたと思う。
幼い頃は幼稚園に通い、学校は小中高一貫の私立に通った。
大学は推薦でFランクの理系へと進んだ。
大学卒業後は企業への就職はしなかった。
実際のところ、「できなかった」とするべきか、「しなかった」とすべきか迷う。
ダラダラと周囲に合わせて就職活動を形だけ行っていた僕は希望の会社や職種に内定することができなかった。
いや、今にして思えば、特に希望すらも形だけだったのかもしれない。
とにかく、僕はそれこそ「とりあえず受けてみた」だけの企業に内定をもらい、即座にそれらを辞退した。
やる気がないなら受けるなって? 僕もそう思う。
でも、周囲に流されていた僕は「とにかく就職しなきゃならない」と思っていた。
後のことを考えると笑えるけどね。
とにかく、そんな考えだったものだから、「保険」のための就活も行っていたのだ。
おそらく、僕以外にも就活に「保険」をかけていた人たちは多いと思う。
ただ、僕がそれらの人々と比べて悪質なのは、内定したところで、その企業に務める気が一切ないことだった。
もちろん、こんな状態の僕が受かった企業だ。碌なものじゃなかったと思う。
初めから、僕もそのことをわかっていたので、尚更勤める気にはなれなかった。
結局、僕はフリーターと呼ばれるような生活を送ることになった。
給料が低かったとしても、スケジュールをある程度コントロールすることができ、
正社員ほど責任や義務が伴わないアルバイトは無責任で怠惰的な僕にピッタリだった。
長期のものや接客業も苦手で、もっぱら短期の単純作業系を繰り返し行っていた。
そんな刺激もクソもない、自堕落な生活を送れたのは両親が支えてくれたおかげだろう。
僕自身満足していると思っていた。
この時は……。
そんな両親に甘え切っていた生活を送っていたからだろうか?
二十代半ばになった頃、僕は交通事故で死んだ。
こっちが歩行者で向こうが車両だったことは覚えている。
ただ、どちらの不注意かは覚えていない。
こちらなのか、向こうなのか、あるいは双方の不注意だったのだろうか?
とにかく、僕はこの時死んだ。
何? 前置きが長いって?
悪い。
つまらなくても、長くなってしまう。
自分のことだと……、ね。
ただ、ここから少しは面白くなると思う。
なぜなら、(フィクションには)定番の異世界転生だからね。