9.竜王の狂気
竜族は千年は生きる長命な種族で『番』に対する愛情も他の獣人と比べて圧倒的に強いのが普通だった。だが時代の流れと共に獣人と人との混血も進み、番を認識する感覚を持たない獣人も多くなってきた。
『番』と巡り合えるのは幸運で奇跡に近いこと。
三百年間も番と巡り合わずに生きてきた私はその幸運を諦め、王として政略で婚姻を結ぶつもりだった。
そんな時、偶然『番』を見つけた。
その子の姿は人そのものだが、私の番に間違いなかった。甘い香りに強く引き寄せられ、可愛らしいその姿から目を離すことなど考えられない。
ああ、彼女こそが私の魂の半身だ!
考えるまでもなく本能が私にそう教えてくれる。巡り会ってしまえば離れるなど耐えられない、私は番を見つけた竜人そのままに行動した。
「番を見つけた、すぐさま王宮に連れて行くぞ。後のことを頼む」
「はぁっ…?竜王様、番ですか?お、お待ちくださいっ」
慌てる臣下達に必要最低限の言葉だけを告げ、家族と一緒にいる番を優しく抱き上げた。家族への説明を臣下に任せその場を後にする。
私は幼い『番』を抱きかかえて王宮に向かうあいだ愛の言葉をその耳元で囁く。
目を見開きキョトンとしたままの可愛い番。
家族と離れ泣いたりはしていないが、私の愛の言葉に何かを返すことはない。頭ではまだ子供だからと分かっているが、本能がその反応を受け入れない。
なぜ…言葉を返してくれないんだ…。
私の番なのに…。
強烈な愛おしさと共に湧き上がる焦燥感。自分でも抑えることが出来ない訳が分からない感情に翻弄され、胸が苦しくて堪らない。
番と会えて幸せのはずなのに…もっと、もっとと何かを求め欲している。
な、なんなんだ…これは。
くぅっ、頭がぼやける。
はぁ、はぁ…、自分で抑えられない…。
朦朧となりながら眠ってしまった番を王宮の私室へと運ぶ。
――大切な番、私の宝。
そっと起こさないようにすやすやと眠っている番をベットの上に降ろした。
ドックン…、ドックン…。
胸の痛みにのた打ち回りそうになるのを必死で我慢する。鼓動が有り得ないほど早く打ちつけ、呼吸すらままならない。靄が掛かったように頭でなにも考えることが出来なくなる。
はぁ、ぐっ…、うっうっ…。
うっ、いったいどうしたと言うんだ。
おか…しい、自分の身体が…。
勝手に…ああ、止めろ…止めてくれ。
「うあああああっぁ……!!!」
自分の叫び声で我に返ると、眠っている番の首に手を掛けようとしている自分に気がつく。
「竜王様、お止めください!!!」
「なにをなさいますか!ご自分の番ですぞ!」
「皆の者、竜王様をお止めしろ!」
周りにいる臣下達が必死の形相で私を止めようとするが、私から漏れ出ている覇気に当てられ思うように身体が動かないようだ。
私は咄嗟に腰に差してある短剣を手に取り、迷うことなく自分の腕に突き刺した。
 




