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幸せな番が微笑みながら願うこと  作者: 矢野りと


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82.前進②

でも、でもね……。


番同士なら儀式を経てその寿命を長命な方に合わせられるけど。


‥‥私はもう番ではない…よね?


ということは、私が年齢を重ねておばあちゃんになってもエドの見た目は今のように若いままということではないか…。



50年後、孫と祖母に見間違えられる未来が見えてしまう。



エドの愛は疑わないし私だってどんな状況になっても愛し続ける自信はある。


でもなんか嫌なのだ、そこはなんとかしたいのが乙女心ってやつだ。



「エド、老けてちょうだい」


身を乗り出し真面目な顔でエドに訴える。


「うんん??すまない、もう一回言ってくれないか。なんか聞き間違えたみたいで『老けて』って聞こえてしまって」


「聞き間違いじゃないわ、老けてちょうだい!!」


「えっと、どうしてかなアン?この見た目が嫌なのか…」


心配そうな表情で私の顔を覗き込んでくるエドに罪はない。


そんなことは分かっている、分かっているけど…。


今の私はそんなエドに優しくすることは出来なかった。愛する人の隣で皺くちゃなおばあちゃんの自分の姿が頭から離れず悲しくなって感情が爆発してしまった。


「う、うっう‥‥うぁーん、私だけおばあちゃんなんて嫌だよーーー」




私の泣き叫ぶ声が響き渡り、異変を察した護衛騎士達と宰相様とワンが部屋に飛び込んできた。

ワンがエドの足にガブリと噛みつき、宰相様が『竜王様っ!』と怒りの形相で詰め寄って来て、護衛騎士達はどうすればいいのか分からずウロウロしている。

そして私は声を上げて泣き続けもう執務室はカオスと化してしまった。



‥‥20分後。


なんとかその場を落ち着かせたエドは私を膝に乗せて、まだ項垂れたままの私の背を優しく撫でて落ち着かせようとしている。


こんなに醜態を晒した私を愛してくれるのなら、一人でおばあちゃんになっても我慢しようかなっと思い始めたその時、エドから事の経緯を聞いた宰相様が私の悩みを察して落ち着いた声で話し始める。



「それは誤解です。確かにアン様は術によって番の感覚を喪失はしましたが、身体的には番のままなのです。ただ番として惹かれ合うことがないだけのこと。ですから、儀式を行ったら通常の番同士のように寿命は長命の方に合わせられます。つまりアン様だけが一人で老いていく心配はいりません、ご安心ください」


「へっ…?!そうなの?」


間が抜けた顔をしている私に向かって宰相様は真面目な顔で頷いてくる。


「そんな些細なことを気にするなんてアンは可愛いな。私は見た目ではなく、その魂を愛しているんだがな」


とエドは言い今度は額にちゅっちゅと口づけを始める。番である彼の愛情はどんなことでも軽く乗り越えそうだ。



はぁ~と心から安堵し肩の力が抜けていく。

安心した私はエドからの惜しみない愛情表現を受け『むふふ♪』と幸せを堪能しているとなにやら私の足先が気持ちがよい暖かさに包まれていく。

『幸せは心だけでなく足元もこんな風に温かくするんだなぁ』と思っていたら…。


ぴちょり、ぴちょりと私のつま先から黄色い滴が落ちている。


‥‥ワンである、またしてもワンである…。


私の足先を温めたのは幸せではなくワンの渾身の一撃だった。



その横ではまだ許していませんからという顔をしたワンがこちらを睨みつけている。


 な、なんで……。

 さっき私の為にエドの足に噛みついていたじゃない?

 それなのに…、どうして……。



キイっと涙目になりながらワンを睨みつけるとワンは『ワン、ワン、ワワン』と吠えてくる。


「あ‥‥、ワンはまだ許していないそうだぞ」


とエドがぼそりと通訳してくる。


私は恨みがましい目をエドに容赦なく向ける。こんな根に持つ性格になったのは絶対にエドのせいだ。

エドは私の気持ちを察し不味いと思ったのか『こら、ワン駄目だぞ』と注意をしているがもう遅い。


私の決意は変わらない。

 

 絶対にこれから二人のその性格を直してやる!

 ガルッルルゥ‥‥覚悟しなさい!



危険を察して逃げて行こうとするワンの身体をさっと優しく抱き上げ『ほっほっほ…』と優雅に笑って見せると、エド以外の人達はなぜかあからさまに目を逸らしてしまう。



 …むむむ、なぜに…。

 



でもエドだけは『アンはどんな顔も可愛い』と言って今度は頬にちゅっちゅと始める。


『むぅ…、そんなことでは誤魔化されないんだから』と思っていたが、エドの恥ずかしげもない愛情表現に簡単に心は絆されていってしまった。我ながら単純である…。


ワンには悪いがエドのことは見逃すことにした。

『エド、これからもよろしくね』とエドの耳元で囁いたら彼も『アン、こちらこそ』と言いながら笑ってくる。

幸せそうに見つめ合う私の膝の上でプルプルと震えるワンには宰相様と護衛騎士達が同情の目を向けていた。

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