80.想い③
私が一気に話すとエドは静かに泣いていた。
「ア…ン…。全てを知ってしまったんだな。本当に、すま…な…、私はまた君に辛い思いをさせてしまっている。すべては私の罪だ。勝手に狂気に囚われそうになり一番大切なアンから目を背けて君を壊したんだ。
そして…今も、私は愛する資格がないくせに記憶がないのをいいことに、今の君の想いを利用し未来を奪おうとしてしまっていた。
‥‥すま‥ない。
同じ過ちを…再び犯すところだった。許してくれなんて言わない、こんな私のことを許さなくていい。‥‥どうかその剣を使ってくれ、アンの気が済むまで切り刻んで欲しい、お願…だ」
エドの声は震えているけど、私から目を逸らさずに真っ直ぐに見つめてくれている。
だから彼の気持ちに嘘はないのが分かる。本気で後悔しているし自分の命を差し出して終わらせようとしている。
本当にこの人はいつもいつも勝手に私の気持ちを決めつけて……。
今の私はエドを罰したいとも思っていないし、ちゃんと『愛している』と伝えているのに。
ふふ、本当に私が愛する人は困った人だな。
きっと昔の私も手を焼いたのかな…。
「エド、私は自分の過去を知ったわ。正直に言えば聞いても記憶は戻らないからエドや周りの人達の苦しみは想像するしかない。だから気持ちは分かるなんて安易に言えない。
本当に信じられないほどの悲劇だったとは思っている。でもね今の私は誰も恨んでいないわ。エド、貴方のこともよ」
「‥‥っ!だが‥許されないんだ、私は!アン君は私に追いつめられ心を壊されたんだぞ!10年間もだっ!10年間も自由を奪われたうえに耐えがたいほどの苦痛を与えられ続けていた。
こんな私を愛せる訳はない…。
過去にされた仕打ちをすべて話したら、きっと君は私を愛せない…それどころか憎むはずだ!」
エドは絞る出すように想いを言葉にしてくる。彼が自分の気持ちを伝えてくれるのは嬉しいけど、これはあんまりだ。
私の気持ちを見縊っている…。
エド、勝手に決めつけないで!
そんなの私の為じゃないよ。
気づいて、それじゃまた間違えるから!
もう間違えさせない。
そんな事は絶対にさせない。
私は持っていた竜殺剣を目の前にある執務机に渾身の力を込めて突き立てた。
ダンッー!!!
「勝手に決めつけるなー!!!私の気持ちを、私の幸せを。エド、愛する資格ってなに?未来を奪うってなに?そんなこと勝手に一人で決めんなっ!
許されない…?
いいよ許されなくても。世界中の人がエドを許さなくても私はその許されないエドのすべてを丸ごと愛しているから!過去の私がどう思っていたかなんて分からない。だから考えないわ、無駄だもの。
大切なのは今の私とエドだよ。
ねえ、そうでしょう?一緒に考えよう、一緒に悩もう、一人で勝手に抱え込まないで!心から愛しているわ、エド。私の手を取って、一緒に笑いながら幸せになろう…」
ほらお願い、この手を取って。
私は今の貴方を愛しているの。
分かっているでしょう…?
私は遠慮することなく想いをぶちまけた。それなのに、まだエドは私の手を取ってはくれない。
嗚咽を押さえながら彼は必死に言葉を紡ごうとする。
「……うっ、うう…。ア…ンはもう、番の感覚を失った。二度と取り…戻せないんだ。今の想いもいつかは冷める、だろ…う。その時に後悔はしてもら…いたく、ない」
エドはなにを恐れているの…?
私を失うこと…。それとも番でなくなったこと?
私は自分の気持ちを誤魔化すことなく伝え続ける。
「私は番の感覚は分からない。ふふ、エドの術は凄かったね。でも全然困っていないよ、番の感覚がなくたって人を愛することは出来るもの。エド、獣人の番を愛する気持ちも真実だけど、人が人を愛する気持ちも真実だよ。だから怯えないで、私の愛を受け取って。
もし不安になったら不安を吹き飛ばすぐらい私を愛せばいいからね…そして私はそれを受けとめる」
私の言葉が彼の心にやっと届いた。
エドは溢れ出る涙を拭うこともせずに私をきつく抱き締め『アン、…アン、ア…ン…』と私の存在を確かめるように名を呼び続けていた。
そして私も一緒になって涙を流し、ただただ彼の温もりを感じ号泣し続けていた。
 




