52.決断②
「それはどういうことだ?どんなアンだって私達にとっては大切な家族だ。受け入れるのは当たり前だっ!だがそんな都合のいい話はないだろう、俺だって薬師をやっているんだそれぐらい分かる。適当なことを言わないでくれ」
父親がそう言うのも当然だった。都合よく記憶を消すことは出来ないとされている。
だが傍で話を聞いてい宰相の顔色は青ざめている。私がやろうとしている事を正しく理解したのだろう。
「竜王様…、ま、まさかあれをおやりになるつもりですか…。お止めください!あれはもう過去のおとぎ話のようなもの。いくら純血の竜人であろうとも本当に出来るかも確かではありません。それにあれには贄が…、」
宰相は必死になって止めようとしている。こうなることが分かっていたからこそ事前に言わずにいた。
けれども私の決意が変わることはない。
「黙れ、宰相。私は言ったはずだ、アンのことだけを考えろと。今はアンを救うこと以外は考えるな。その為に払う犠牲など些細なことだ、分かったな!」
‥‥これ以外にもうアンを救う方法はない。
私がやろうとしている事は10年間のアンの記憶を消し、心を壊した事実を元からなかったことにすることだ。
勿論それは簡単にできることではなく、僅かだが犠牲を必要とするし上手くいくかどうかも分からない。
それほどあやふやなことだった。
だがもし失敗したとしてもアンに悪影響を及ぼすことはない、だからやるのだ。
父親が訝し気な表情で質問をしてくる。
「どういうことなんだ、本当にそんな事が出来るのか…?だが出来たとして、あんたはアンの記憶を消してまたあの子と一からやり直そうというのか?そんな都合のいい話があるかっ!記憶を消すのはいい、それしかアンは救われないだろうから…。だがその後にアンと番としてやり直すことは絶対に認めん!」
その通りだ、今の私にはそんなこと言う資格はない。
だがそんな心配は杞憂だ…、私はこれによって永遠に番を失うのだから。
「…アンとやり直しなどしない」
「それを信じろというのかっ!あんたがどう言おうとアンが番に惹かれる気持ちはどうなる?変わらないだろう、またアンは番を求めて苦しみ続けることになるんじゃないか!」
信じられないのは当然だしそう思うのも当然だった。だから私は詳細を話して聞かせことにする。




