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5.家族との再会②

目の前では家族のやり取りが繰り広げられる。何も分かっていない幼い我が子を窘めながらも必死で守ろうとする温かい家族。


六年前には確かに私もその中にいたはずなのに……。

今は見えない壁のようなものがあって、その中に入ることが出来ない。


それどころか幼い妹のたわいもない発言すら許さないと思われ、謝罪されてしまうのが辛くて堪らない。

六年という空白によって自分が家族の輪から外されている現実に心が打ちのめされる。


 ねえ…私に会いに来てくれたのよね…。

 娘の私に、妹の私に…。

 それなのになんで、『番様』って呼ぶの?


 どうして私の名を呼んでくれないの…。

 もしかして忘れちゃった?

 

私に背を向けたまま、どうして自分が怒られるのか納得できなくて拗ねている妹を必死に宥める家族。

その背は近くにあるけれども、遠く…遠く感じてしまう。


――縋って泣きつきたかった。


私も家族なんだよって叫びたかったけど…出来なかった。

それは周りにいる侍女達の目を気にしてではない。


私が言った後に家族が困った顔をするのが見たくなかった。

『もうお前は家族ではない』と突き放される現実を知りたくなかった。


ただそれだけ……。


…怖かっただけ、現実を知る勇気なんてなかった。


だから私は偉大な竜王様の番らしく微笑んで、涙目になっている妹に優しく声を掛けた。


「私はね、竜王様の番なの。ここに住んでいるけど、あなたやあなたの家族にも時々会えたら嬉しいなって思っているのよ。良かったらお友達になってね」


「うん、わかった。番様よろしくね♪」


私を姉と認識していない妹は砕けた口調で話し、慌てたように両親と兄が妹の言葉使いを注意する。そして『娘がすいません』『妹がすいません』とまた謝罪の言葉を口にする。

それは他人に対する言い方だった。


娘や妹というは、もう私のことではない…。

私の目の前にいるこの無邪気で可愛い女の子の為にだけ使われる言葉になっていた。


 六年前は私のだったのに…。



空白の六年間で私は『娘』と『妹』という温かい居場所を失っていた。



私は家族に向かってにっこりと笑い掛け『大丈夫ですから』と安心させる。その様子に家族も周りの者達も満足げな表情を浮かべている。



問題なく家族との団欒が終わり、去って行く家族を静かに見送ると、傍に控えていた侍女が嬉しそうに話し掛けて来た。


「番様。良かったですね、ご家族と楽しい時間を過ごすことが出来て。それに可愛い妹様にも懐かれていましたね。番様とは初めて会ったはずなのに、やはり血の繋がりですわね。またこのような時間が持てるように致しましょう。私達も番様の喜ぶお顔が見られるのは嬉しいですから」


「………」


返事が出来ずにいると、


「番様?なにか問題でもありましたか…」


怪訝な表情でこちらの様子を窺って来る。


竜王の番である私の言動一つが周りにどんな影響を及ぼすかこの六年間で嫌というほど分かっている。私が家族ともう会わないという選択肢を選べば、家族がなにかしら不利な状況になるかもしれない…。


そんな非情な選択は出来ない。

また会って現実を見せられるのは辛い。でももしかしたらとうい希望も抱いてしまう。

生まれてから六年間は温かい家族だったのは間違いないのだから。


 もしかしたら前のように戻れるかもしれない…。

 時間さえあれば、きっと…大丈夫。

 今日はちょっとお互いに久しぶりで…ぎこちなかっただけ…。

 きっとそうよ…。



「…そうね。また家族に会いたいわ、よろしくね」


微笑んで答えれば、周りも嬉しそうな顔をした。私の答えは間違っていなかったことに安堵する。


こうして私はあれほど望んでいた家族との面会を定期的に行えるようになった。


だが現実は甘くなく、淡い期待はすぐに砕け散った。なんど面会を重ねても『番様』と呼ばれ、丁寧に話し掛けられる。決して誰も私の名を呼ぶことはない。


――ただの一度も…。


目の前で家族の団欒を見せつけられ、私の心には黒い染みが広がり続けていく。




この面会に何の意味があるのかもう分からない。

毎回なにかが私の心を蝕んでいる気がする。もうどうやって笑うのか分からないけど、鏡に映る私はいつでも気持ちが悪いほど微笑んでいる。

 

 ふっ、なんだかおかしいわ。 

 私はなんでいつもこんな表情をしているのかしら?

 

 あっ、これは私ではないわ。

 だって私は笑っていないもの…笑えないから。

 

 この人、なんで笑っているのかしら…。

 いいな、きっと幸せなのね。

 

 


「番様、どうしましたか?先ほどからずっと鏡を見ていますが、髪型が気に入りませんか?」


「いいえ大丈夫よ。ちょっと幸せな人がいたから見ていただけ…」


「幸せな人、ですか…?ですがここには、」


侍女が辺りを見回し訝しげな顔をしている。

ここには私とその侍女しかいない。どうやら彼女にはこの鏡の人物が見えないようだ。でもそれをわざわざ教えてあげたりはしない。

きっと分かっては貰えないから。


いつだって私の気持ちは分かって貰えない、『竜王様の番』が最優先なのだから。



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