38.衝撃の事実②
周りにいる同僚の侍女達は背中を擦り落ち着かせようとしているが効果はあまりない。
「どうした、なにを言いたいのだ。ゆっくりでいい、焦らずに話せ」
落ち着かせるためになるべく穏やかな声で私が話し掛けると、その侍女はしゃがみ込んで俯いたままポツリポツリと話し始めた。
普通なら『不敬だぞ』と誰かしら注意するところだが、尋常じゃない侍女の様子に言える者はいなかった。
「確か、あれは‥一年ほど前のこと…です。番様が突然、『昨日恋人から結婚を申し込まれた?』と訊ねてきたの…す。その時は、誰かが…番様に話したのだなって思って。それで…『おめでとう』と言って頂き、嬉しくって…。それでうっ、うう…」
侍女は泣きだし話が途切れてしまう。
「それがどうしたのだ?その後に何があった?アンが一体どうしたんだ!」
つい焦って侍女を責め立てるような口調になってしまう。
『ヒッ、』と短く声を上げ怯えながらも侍女は震える声で続きを話し始める。
「そ…そのあとに『誰が番様に喋ったの?』って他の侍女達に聞いたんです。…でも誰も話してないって。
それに暫くしてから『貴女、歌が上手なのね。素敵な声してるわ』って番様に褒められて…。でも、でも…わ、私、番様の前で歌ったことないんですっ、一度も!他の人と、間違えている…かと。う…っう…。今まで…気にしてませんで…た。本当に忘れてたんです!でも、さっき彼の話を聞いてもしかしたらって。
番様は兎獣人の血が微かに流れているから…。うっうう、わたし…気づかなくって」
侍女の告白に証拠はない。
だが彼女がここでそんな嘘を吐く必要もない。そう考えれば今の話はたぶん真実だ。
「今の話に間違いはないのだな…」
「は、はい。間違‥ござい…せん」
私の威圧するような言葉に侍女は震えながらもしっかりと顔を上げて返事をした。
これでアンが多少なりとも獣人としての変化があった可能性が高まった。きっと兎獣人の血がアンの聴力に変化を起こしたのかもしれない。
それならば『番の感覚にも多少の変化があったのでは…』と考えてしまう。
だがあくまでも現段階では可能性であって、確証はない。
明らかになった真実と可能性。
これから改善し解決できることもあるだろう。
だが私が知り得た真実はあくまで一部分だ。
それにこれはまだ推察であって、すべてを知るにはやはりアンから直接聞かなければならない。
…足りない最後の鍵。
それはやはり本人にしか分からない。
それが分かればきっと前に進める。
アンと向き合い、今度こそ間違えない。
…やり直せる、やり直す、何をしてでも。
だがアンは言えるだろうか、心の内を?
打ち明けてくれるか、追い詰めた私に…。
長時間に及んだ会議も終わり一人で執務室に残り考えている。
アンが目覚めたらどう話そうか?
私が言うことを聞いてもらえるだろうか?
あそこまでアンを追い詰めておきながら、今更許しを乞うても遅すぎるかもしれない。
でも出来ることは、まず己の行いを心から謝り、そしてアンの気持ちを真摯に受け止めることしかない。
どうなるか分からない。
正直に言えば番であるアンを失う恐怖に震えが止まらない。
いや、失う恐怖ではなく…、完全に失っている事実を突きつけられるのが怖いのだ。
恐怖心を酒で誤魔化すために浴びるように飲むが、酔うことはなく更に恐怖に囚われていく。
もはや立派な竜王ではなく、愛する人を一方的に傷つけ怯えている惨めな男が一人で咽び泣いているだけだった。




