31.残酷な答え合わせ②
人と獣人の差。
…ここになにかあるだろうか?
期待は出来んな…。
だが立ち止まっているよりは何かしているほうがいいっ。
調査が行き詰まり藁にでも縋る思いだった。
部屋の外で控えている者達を部屋の中に呼び、思ったままに指示を出す。
「もう一度アンの家族について調べ直せ」
「番様のご家族でございますか…。これ以上なにをお調べすれば良いのでしょう?」
命じられた臣下の問いは至極当然なものだった、もう一通りの調査は済んでいるのだから。
「家族だけではなく親戚や祖先についても遡れる世代まで調べろ。人と獣人の血の影響がどう特徴として出ていたか詳細に知りたい。あと王宮に仕えている臣下達の中で獣人の特徴が無い者を数人選んでおいてくれ。後日違う目線から話を聞きたい」
「はっ、承知いたしました。すぐに取り掛かります」
返事と共にすぐにその場から退出し、速足で駆け去る音が廊下から聞こえてくる。
根拠などは何もない直感に頼った言葉。
得られるものなど何もないかもしれないが、今出来ることはそれしかなかった。
真夜中に指示を出したにもかかわらず、臣下達の動きは素早かった。
翌日の夕方には求めたものはすべて準備され、すぐさま執務室で会議が開かれることになった。
宰相をはじめ関係者達と例の王宮勤めの人達が集められる。
みな纏められた調査書全てに目を通し、読み終わってから前を向く。
その表情は二つに分かれていた。
『調査書の内容に落胆した表情を浮かべる者』と『首を捻りながら眉を顰める者』。
前者は宰相達関係者で後者は今回のみ呼ばれた王宮勤めの者達だった。
だがお互いに顔を見比べていないので彼らは反応の違いには気づいてはいない。
私は早速今回の調査結果をもとにした会議を始める。
「なぜアンがあのような行動を起こしたのか知る為に調査を行ったが、…何も分からなかった。あんなことに繋がる理由が何も出てこない。だが理由がないはずはない、我々はなにかを見落としている。
だから獣人の感覚を持っている我々の目で見えないものを見るべきだと考えた。今日来て貰ったこの者達は王宮に仕えているが、獣人の血は薄く感覚や特徴は人そのものだ。だからこそ分かることもあるだろう」
みな私の言葉に黙って頷いている。彼らもみなアンを助けたい思いは一緒だ。
まずは宰相が口を開いた。
「今回新たに追加された調査では、やはり番様の親戚なども番様同様にほとんど『人に近い感覚』のようですね。随分前に純血の兎獣人の祖先がいたようですが、人と婚姻を繰り返してその血は薄まり獣人の特徴を持っているものは数えるほどとありますな…」
調査の対象を広げて調べ直したが目新しい情報はなかった。
解決の手掛かりがなさそうな調査書に宰相達は落胆を隠せない。
誰も言うべきことが見つからず、暫しの沈黙が場を支配する。
そんな中、おずおずと一人の中年の料理人が手を挙げ発言をする。彼は今日の為に呼ばれた『人の感覚』を持つ者だった。
「あ、あの…。この調査書と以前調べたあの分厚い調査書を読んで思ったんですが…。えっと、番様は獣人の血が微かに流れているけどその特徴が無いため人として扱われているんですよね…?」
この当たり前の質問に侍女長が丁寧に答える。
「はい、番様は獣人の血が流れておりますが、感覚や特徴は人と同じですので『人としての感覚を持っている』という前提でいろいろとお世話をさせていただきました」
その答えに迷いや隠し事は感じられない、あるのは職務に対する真摯な態度だけだ。
宰相達もそんな侍女長の言葉を肯定し頷いている。
だが料理人はそんなことは目に入っていないようで話を続ける。




