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幸せな番が微笑みながら願うこと  作者: 矢野りと


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3.運命の出会い②

豪華な住まいに私の世話をしてくれるたくさんの侍女達。美味しい食事、綺麗な衣装、山のように積み上げられていく玩具…。


『番様、なにを召し上がりますか?』

『番様、こんな髪型はどうでしょうか?とても可愛らしいですわ、これなら竜王様にもお喜びになりますわね』

『番様、可愛らしい番様、なにをお望みですか?』


どんなことも先回りしてやってくれる恵まれた環境。でも私が心から望んでいる番だけはいくら待っても来なかった。


周りの人々に聞いても言葉を濁すだけ。


「竜王様はお忙しい方ですから…」


「でも少しぐらいなら会えるんじゃ――」


「番様、竜王様は本当にお忙しいんですよ。分かってくださいませ」


「で、でも――」


「番様!そんなことよりこの髪飾りをお付けしましょう。きっとお似合いになりますわ」


「…は…い」



 嘘、嘘よ!

 忙しくたって会いに来てくれるはず。

 私の番をどうしたの?

 

最初は訳が分からずに隠れて泣いてばかりいた。

幼い私は知らない大人に囲まれ、今までと全く違う豪華な生活に怯えて自分の気持ちを上手く伝えることが出来なかった。


私は育った気さくな環境と違うこの場所で伝える術など教えられなかったから。


侍女達は『番様、番様』と気を配りいつも私の傍に控えていて何不自由ない生活を送らせてくれるけど、私の心に開いた穴を埋めることはない。


番にも会えない毎日に肉親の温もりが恋しくなる。


 お父さんとお母さんに会いたいな。

 お兄ちゃんはどうしているのかな…。


 こんなところに一人ぼっちはいやだよ…。

 もう…帰りたい。

 番がいないならここにいたくない。



家族が恋しくなり『お父さんやお母さんに会いたい』と訴えても、『申し訳ありませんが…』と言われ会わせて貰えず月日だけが過ぎていく。理由は一切教えてくれない。

そして『番様が良い子にしていればご家族にも竜王様にも会えますからね』と慰めるように優しく繰り返される言葉。


じわじわと私の心に沁み込んでいく。



頼るべき番とはあれから一度も会えていなかったし、六歳だった私に出来ることはその言葉を信じることだけ。


本当にまだ幼すぎた、…子供だったのだ。

だから『良い子にしていれば』という言葉は『まだ良い子じゃない』という意味に私の中で変わっていった。



 そうか…私が良い子じゃないから誰も会いに来てくれないのね。

 じゃあ…もっと頑張らなくっちゃ。

 家族に会いたいもの…番にも。


 良い子になれば会いに来てくれるよね…。

 早く会いたいな。

 会いた…な…、うっうっ…。


 良い子になるから、ちゃんと…。

 だから早く会いに…きて…だれか…。

 


それから周りに言われるままに礼儀作法や知識を学んだ、毎日言われたことを一生懸命に頑張った。

豪華だけど息が詰まるような衣装を着せられ、走り回らずに大人しくしていた。


本当はこんな生活は辛くて泣きたかった。


こんな窮屈な生活よりも前の楽しい生活に戻りたかった。両親のお手伝いをして『ありがとう』って褒められて、お兄ちゃんと一緒にかけっこをして『おそいぞ、ちび』って言われ髪の毛をぐしゃぐしゃにされたかった。


『素敵な番様』じゃないお転婆な自分に戻りたかった…。


 淑女じゃなくてもいいもん。

 わたしはわたしでいいもの。



けれど以前それを言ったら『そんなことではご家族にも竜王様にも二度と会えませんよ』と困った顔をされたので、それ以降もう言えなかった。


 えっ…だめ、だめよ!

 会えないなんて言わないで…。

 そんなひどいこと言わないでよ!


 わたし、がんばるから。

 もっとちゃんとするから。

 もっと、もっと、もっと……。

 おねが…い、そんなこわいこともう言わないで…。



愛する家族や番に会えないかもしれない…幼い私にはそれがなによりも辛く怖かった。その恐怖から私はもう自分の気持ちを素直に言えなくなった。


――言おうとすると胸が苦しくなる。


この華やかな離宮が私にとって恐ろしい場所となるのに時間は掛からなかった。今まで見たどこよりも素敵な場所だけど、どこよりも辛く悲しい場所。

でもそれも絶対に言えなかった、言ったらいつか会えるという希望が消えてしまうから。


 良い子になるの、良い子に…。

 良い子になれば会える、元に戻れる…。

 …きっと。



とにかく早く会いたくて『良い子にしていたら会いに来てくれる』という言葉だけを頼りに毎日を必死に生きてきた。

その間誰からも手紙すら送られてくることはなかったが、優しい番や温かい家族が私を忘れるはずなどないと信じていたから頑張り続けた。


そして家族と会うことがようやく許された時にはすでに六年の歳月が過ぎ、私は十二歳になっていた。


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