22.婚姻の儀~竜王視点~①
純血の竜人である私の寿命は千年を超える。
そんな私にとって10年など一瞬のはずなのに、番と会えない10年間は永遠とも思えるほど長く感じられた。
しかし自分の狂気によって番を殺めるよりは、会わずに10年間過ごすほうを選ぶのは当然だった。
狂おしいほどの焦燥感と絶望感が常に纏わりついていて、闇の中を彷徨っている感覚におかしくなりそうになる。
一人になる夜は表現できない苦しさにのた打ち回っていた。
それでも10年後には番と結ばれ愛を育めると信じていたからこそ耐えられる。
番の存在を知ってしまった獣人は番を求めずにはいられない。この感覚が分からない『人』は、これを偽りの感情だと言う輩もいるが獣人にとってそれは真実であり紛れもなく純粋な愛情でしかない。
だが実際に狂気を押さえるのは困難を極めた。
番の姿が見えないが気配は感じる距離。それは狂気を押さえるギリギリの選択だった。
分かっている、今はそうしないとならないことは…。
それが最善なんだから。
…分かって…いる……ん、だ。
あぁ…番、どこ…に…。
……行か…な、と。
気を抜けば番を求めて離宮に吸い寄せられるように足が向いてしまう。臣下達に力づくで止められ我に返ることもあった。
明らかに殴られた跡のある臣下達。
『……すまん。助かった』
『お気になさらずに下さい。かすり傷ですから』
屈強な臣下達でも竜王である私が本気を出せばきっと止められない。
そうなったらどうなるか…。
狂気に支配された私が血に塗れ横たわる番が愛おしそうに抱き締める姿が脳裏をよぎる。
自分をコントロール出来ない弱い自分自身に苛立ちが募る。
はっ、なにが竜王だっ!
自分の番すらも守ることが出来ない屑ではないかっ。
その日から己の指の骨を折り始めた、治癒してはまた次の骨を折る、その繰り返し。足りない時には剣を身体に突き立てる。
苦痛と流血を与え必死に自我を保つ。その様に偉大な王の面影はなく、憐れで惨めなだけだった。
陰で『そろそろ王も交代ですかな』と嘲笑う者達までいた。
その言われても仕方がないほど酷い状態だったと認識もしていた。
でも自分の暴走が怖くて自傷を止めることはなかった。それが功を奏したのか分からないが、なんとかギリギリの状態だけは保つことが出来ていた。
綱渡りのような危うい日々だが…。
そんななか宰相から進言を受ける。
「竜王様、後宮の件でお話があります。一度もお渡りになっていない後宮ですが、これからは定期的に通われたらどうでしょうか?」
「っは、馬鹿を言うな。番以外に興味などない。それにあんな所に行ったら気分が悪くなる。早く解体しろ!」
眉を顰め吐き捨てるように答える。
いきなりそんな事を言いだす宰相の本心が分からない。今まで一度だって後宮に行くようにと勧めることはなかった。
獣人の宰相が、番が見つかった今それを言う意味が分からない。
いつもは竜王である私の命令には是と答えるのだが、宰相はかまわず話を続ける。
 




