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幸せな番が微笑みながら願うこと  作者: 矢野りと


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17.壊れゆく番②

名を呼んでくれる誰かを得て心の平穏が保たれる。


単調だが何不自由ない毎日を感謝しつつ、『私が幸せだと思うこと』はなにかと一人で考える。


時間があれば鏡のなかにいるあの子と話しをするけど、決して答えは教えてくれない。


『アンガ、ジブンデミツケナクッチャ、ダメデショウ!』と手厳しいのだ。


 そうね、幸せってその人それぞれだから。

 他の人に教えてもらうものではないわよね…。

 う…ん、難しいなぁ。




答えは見つからないまま月日が過ぎていく。だが平穏だと思っていた日常がだんだんと崩れ始めてきた。


それは些細な変化から始まった。


『クスクス、今日はご機嫌ね~。ねぇ昨日は……、とのデートどうだっ、の、楽しかったのかしら? まあそのデレデレし、顔…れば分か、けど』


『もう揶揄わ、…よ~』


近くにいる侍女達は誰も話していないのに、耳に誰かの会話が入ってくる。その内容に興味はないけれども不思議に思えてキョロキョロと辺りを見回してしまう。すると侍女の一人が声を掛けてきた。


「番様、どうかなさいましたか?」


「はっきりとではないけどなにか聞こえた気がして…、遠くから聞こえてきたような気がするわ。皆には聞こえなかった?」


みな首を横に振り『何も聞こえませんでしたわ』と教えてくれた。


「そう、それなら気のせいね」


そう思って気にしなかった。私にだけ聞こえて他の人には聞こえないのなら空耳だったのだろう。


だがそう思ってられたのは最初だけだった。

日増しに聞こえないはずの声が耳へと入ってくる回数が増えてくる。それは他愛もないお喋りだったり、噂話だったりと様々だった。


それに身体がなんだか以前よりも軽く感じられ違和感がある。悪い意味ではなく、上手く伝えられないが…、なんか脱皮したような感覚に近いのかもしれない。


 いったいどうしたのかしら?

 不思議だわ…。

 


私は自分の変化を確認するために、ある日侍女の一人に訊ねてみた。


「ねえ貴女、もしかして昨日恋人に結婚を申し込まれた?」


「どうして知っているんですか!あっ、きっと誰かが番様にお話ししたんですね。もうお喋りなんだからっ」


「いいじゃない。お目出度いことなんだし、おめでとう!」


私がそう言うと侍女は照れながらも嬉しそうに笑い『有り難うございます』と微笑んでいる。



私は誰からもそのことを聞いてはいなかった。だが朝にどこからか聞こえてきたお喋りの内容が本当かどうか確かめたのだ。


空耳でなく、自分の身が変化しているのを確信した。どうやら異常なほど聴力が発達したようだ。私には兎獣人の血が流れているので、そのせいかと思ったけれども誰にもそのことは言わなかった。


理由なんて特にない。


強いて言えば、なにか行動を起こし自分が勝手に周りの反応を想像し『こうではなかった』と落胆するのが嫌だったのかもしれない。

 

 あんな思いはもうしたくないわ。

 辛いだけで、意味がないもの。



だから誰にも言わずにいた。

獣人の特徴が出てきても別に困らない。


だが身体の変化に続き、元々あった『番』への想いが急速に変化していった。元からあった『好きという無条件の好意』が『欲しいという渇望』に取って代わる。


 な、なに…この感覚。

 苦しいほどの想いにどうにかなり、そう…。


 あの人に会いたい、触れたい、傍にいたい。

 …強く抱き締めて欲しい。

 会った時のように…。


自分でもどうにもならないほど番である竜王に会いたくなる。今までも『傍にいて欲しい、会いたい』と心の中で思っていたけど、それとは比べ物にならないほどだ。


まるで砂漠の中で水を求め続けているように、そのことだけしか考えられなくなる。


婚姻を結ぶのは一年後。


 あと少し…、あと少しで会えるから。

 頑張らなくっちゃ。

 立派な番でなくては会えなくなるかもしれないもの。

 くぅっ、はぁ…、はぁっ。



心身共に人間に近かったが、見掛けはそのままに中身だけが獣人に近くなる。必死に隠しているので周りにはバレてはいない。


だが巡り合えた番が傍にいないことで心が引き裂かれる。


巡り会った番同士は傍にいるのが普通のことで、離れているのが異常なことだとは誰からも教えられていない。

私は今も昔も『人間の番様』だったから。



なんとか『立派な番様』でいるために歯を食いしばって耐える。周りに気づかれては番と会えなくなる恐怖が襲う。

『大丈夫、あと少し』と自分を誤魔化しながら過ごす。


鏡の中にいるあの子とも話す気力はなく、久しく会っていなかった。




そんな時に私の耳へ楽し気な笑い声が舞い込んできた。それは隣接する後宮から聞こえてくる声だった。


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