15.後宮②
数日後、後宮の今後について決まったと知らせが来る。
それは番様が成人されるまで後宮は存続され、それぞれの希望に沿った嫁ぎ先も用意していくというものだった。
この知らせを聞き後宮の女性達は自分達が路頭に迷わずに済むと喜び合っていた。
「うふふ、番様が成人されるまでまだ10年もあるわ。良い嫁ぎ先を探していただく時間がたっぷりとあって良かったー」
「そうね、慌てて碌でもない相手と結婚したら後宮に入った意味はないもの」
「それにね、今まで一度も後宮に足を運ばなかった竜王様が定期的にこちらに顔を出されるそうよ。どうやら他のことで気を紛らわしたら暴走の可能性が低くなるかもと進言したことが宰相様の耳に入ったらしいの。それでそれならと判断されたらしいわよ」
後宮に居ながら今までも一度も会えなかった竜王に会えるとなって周囲からは嬉々とした声が上がる。
そして一人の女性が冗談半分に言う。それは本気ではなかったが、心の片隅で皆が考えていたことでもあった。
「えっ、本当に!竜王様にやっとお会いできるのね、嬉しいわ。それに番様がいても、もしもという可能性もあるわよね…。私の美貌に癒しを感じて下さるかも。そうよ、見初められたら側妃になれるかもしれないわ。番様がまだ幼い今ならば……」
考えているだけでなくそれを言葉にすれば、なんだか実現可能かもと錯覚してしまう。
みなが分不相応な期待を抱く。
獣人にとって番は唯一だと頭では分かっているが、自分の美貌をもってすれば奇跡もあるのではないかと。
押さえていた欲が一度表に出れば、それはどんどんと膨れ上がっていく。
自分一人だけならきっと押さえていただろうが、周りの誰かに出し抜かれるかもと思うとたがが外れた。
番様に負けるのは仕方がないけど…。
あの子にだけは負けたくない。
だって私の方がずっと美しいもの。
それまで惰性で続いていただけの後宮が女の戦いの場へと変化する。本来あるべき姿へと。
難しい表情をして定期的に後宮に足を運ぶ竜王に群がる女性達。
華やかな後宮からは竜王の寵愛を得ようと女性達の甲高い声が響き渡る。その声は他の場所にいる耳の良い獣人達にも聞こえるほどだった。
 




