14.後宮①
その知らせは突然だった。
王宮の文官から『竜王様の番様が見つかりました』と告げられ後宮は騒然となる。
歴代の王は獣人の血が流れている者がほとんどだったが、番に巡り会えた王は誰もいなかった。
力の強い獣人ほど『番』を求める想いは強い傾向にあり、正妃を置かずにいつか巡り合えるかもしれない番を待ち続ける王も多かった。
だから孤独に生きる王を慰める目的で後宮が作られた。それは王自らが作るのではなく臣下達が王の為に整えているものだった。『様々なことを背負う王様の癒しに少しでもなれば』と。
そこには純粋な忠誠心があるのみ。
歴代の重鎮達もその慣習に従い代々後宮を作ってきた。今の竜王の時代も当たり前のように後宮は作られ、そこには国中から集められた美しい女性達が存在した。
竜王は特に興味を示さなかったが、別段不都合はないので後宮はそのままにしていた。
また後宮の女達も強制され集められたのではなく、それぞれ己の目的の為に後宮に入ったのだ。
もしかしたら正妃になれるかもと期待する者、良いところに下賜されるために後宮に入った者、贅沢な暮らしを欲する者、身分に合った嫁ぎ先が見つからず体裁を整えるためにいる者など事情は様々だった。
王を癒すという機能はしていなくても、惰性で後宮は存続はしていた。
百年以上問題なく…。
それが突然現れた番によって変化を強いられるとあって、後宮の女性達は苛立ちを王宮の文官にぶつける。
「私達はいったいどうなるのですか?」
「いきなり後宮を出されても困ります。ちゃんと然るべき嫁ぎ先を見つけてからでないと…」
「竜王様に会わせてくださいませ!私と会えばきっとこのままここに残っても良いといて下さるはずです」
出てくる言葉は己の身を心配する声、つまり保身だ。
王宮の文官はそれに対する答えを持ってはいないので、曖昧に返事をする。
「まだこの後宮がどうなるか明確な指示は出されていない。本来なら番様が見つかった時点で後宮は解体されるはずだが、今回ばかりは問題があるからな…」
そう言った後に続いた言葉で『竜王の番はまだ幼く、人間としての感覚しか持たない』を知った。そして竜王の暴走の可能性も…。
「では番様は竜王様の御心を慰めることがまだ出来ないのですね。それなら番様が大きくなられるまで私達が竜王様の御心を慰めましょう。それによって暴走の可能性も低くなるかもしれませんよ。
それに番様が人間なら、後宮の存在も役に立つのはないでしょうか?
獣人であったならば後宮の存在を嫌悪されるのですぐさま後宮は解体するべきでしょう。
しかし人間ならば、自分が見つかった後すぐに解体されたとお知りになったら『無力な女性達を情け容赦なく切り捨てた』と思われ、竜王様を非道な方と拒否されるかもしれません。ですが寛大な心で後宮の解体まで猶予を与えて下さったら『お心が広い』と好感をもつはずですわ」
一人の女性の言葉に他の者達ももっともらしい顔をして頷いている。だがその顔の裏で考えていることはみな保身だけだった。
若い文官は女性達の思惑に気づくことなく『上の者にその旨を伝えておく』と神妙は顔をして言うと去って行った。




