11.竜王の苦悩
「………それで、対処法は?どうすればこの本能の暴走を抑えられるんだ!」
「……申し訳ございません、それは分かっておりません。遥か昔の文献にはそこまでは載っていませんでした。
唯一考えられる根本的な解決法は番から愛されることです。
ですが番様はまだ幼いうえ、獣人の血が微かに流れていますが人間の感覚を持っています。
家族からも確認しましたが『獣人の特徴は持っていない』そうです。成長と共に変わるかもしれませんが…。
おそらく『番』の引き寄せられるような感覚もないのでしょう、竜王様が愛を伝えた時にも反応がなかったと言うことですから…。『番』と認識されすぐに愛されるのは難しいでしょう」
ギリッリッ…、ポツ、ポッタン…。
握り締めた拳から血が滴り落ちる。
番が私の愛を告げる言葉に何も返してこなかった事実を思い返し、頭が沸騰しそうになる。
「ぐぅっ…、では…私は番を殺めるのを止められないのか……」
絞り出すように言葉を吐きだす。
もし『そうです』と言われたら、すぐさま自分の首を切り落とそうと腰にある長剣に手を掛ける。
愛おしい番を殺めるくらいなら…。
今この場で自分の命を絶ったほうがましだ。
くぅ、はっ…、やっと番と会えたのに…。
計り知れない幸福感と深い絶望が心を狂わせる、それはもはや祝福ではなく呪いかもしれない。
だが番を求める強い想いを止める術はない。
「問題の解決法はありませんが対処法ならあります。まず獣人の感覚を持たない幼い番様が成人するまで時間を稼ぎましょう。
竜王様は愛を返してこない番様を目の前にしたら暴走する可能性があります、ですから番様が婚姻を結べる年齢になるまで一切会わずにお過ごしください。
お辛いでしょうが番様を守る為です。
会えなくても離宮という手の届く距離にいるのなら、竜王様ならぎりぎり理性で狂気は抑えられるはずです。渇望で苦しまれるとは思いますが、なんとか耐えてください。
そして番様は心健やかに離宮でお過ごしいただきましょう。番の感覚は持たなくても、幼い頃より竜王様の番だと扱われれば自然と情は湧き竜王様を受け入れる事でしょう。
大人になった番様となら婚姻の後にきっと愛を育めます」
「番と10年間も会わずにいるのか、それに幼い番を一人にするなんて…」
番が悲しむのではないかと思うと胸がくるしくなる。
「竜王様、これしか方法はないのです。ご辛抱ください」
「『番様の命を守り、竜王様の暴走を抑える』為には致し方ない事です。それに幼い番様の為に出来る限り配慮も致しましょう。竜王様、ご決断をください」
周りは医師の助言に賛同する雰囲気になり、隣に控えている宰相からは決断を促される。
やっと巡り合えた番と会わないなど考えられないが、選択肢がこれしかないのなら仕方がなかった。
何より大切なのは番の命だ。




