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第10話 お話ししましょう

 八時五分。いつも通りの時間に登校したレティシアは、教室の後ろで談笑するルーシーの姿を確認してから、メリルの席へと向かった。今日も今日とて、友人はロマンス小説に夢中だ。


「おはよう、メリル」


 おはよ、と顔を上げたメリルが不思議そうに目を瞬かせる。


「あら? 珍しいわね、レティ。その髪飾り、一昨日も付けていなかった?」


 レティシアが付けている髪留めは、ウィリアムから貰った蝶のバレッタだ。名家の令嬢は、実家の財力を誇示するのも一つの仕事。同じアクセサリーを短期間で使い回すことはしない。レティシアも普段は気を配っているのだが、今日はあえてこのバレッタを選んだ。なんとなく、勇気を貰える気がしたから。


「せっかくの、殿下からの贈り物ですから」

「よっぽど気に入ったのね」


 微笑ましそうに、メリルは小さく頬を緩める。


 レティシアは彼女のこういうところが好きだった。公爵令嬢の型にはめることなく、レティシアが変わった一面を見せてもがっかりしない。そういうものなのね、と受け入れてくれるから、肩肘を張らずに済むのだ。


「昨日のことだけど」


 メリルの前置き。説明しなくてはと居住まいを正したレティシアに、彼女は思いがけないことを言う。


「本当にただの誤解だったのね。手違いで婚約者が生徒指導室に呼び出されるなんて、迷惑どころじゃない。今朝、寮で殿下が珍しくご立腹だったって、男子生徒が騒いでいるのを聞いたわ」


 ――ウィル様はご自分の武器を、本当によくわかっていらっしゃるわ。


 人望の塊みたいなウィリアムの言は、大多数の生徒にとって信憑性が高いもの。今後、レティシアが生徒指導室に呼び出された件は、素行不良ではなく、教師の過ちとして浸透していくに違いない。


 ウィリアムの援護射撃を有り難く受け取ることにして、レティシアは微笑んだ。


「わたくしも呼び出された時は驚いたけれど。殿下のおかげもあって誤解は解けたから、もう大丈夫よ。殿下を連れてきてくれてありがとう、メリル」

「それなら、恥を忍んで生徒会室に飛び込んだ甲斐があったわ。二度とごめんだけど」


 肩を竦める彼女にまた後でね、と手を振ってから、レティシアはルーシーの元へと向かった。


「おはようございます」


 男子生徒と二人きりで楽しげな様子のルーシーに、レティシアは遠慮なく声を掛けた。彼女と話していた伯爵家の令息が、驚いたようにパチパチと瞬きする。そんな彼にも軽く会釈してから、レティシアはルーシーに微笑み掛けた。


「放課後、わたくしに時間をくださいますか?」


 先ほどまでの華やいだ顔が嘘みたいに、ルーシーは苦い面持ちになる。返事をしない彼女を、伯爵令息がそっと窘めた。


「ルーシー、ダンマリだなんて、公爵令嬢に失礼だよ」


 叱られた彼女は、ますます不貞腐れた顔になった。仲の良さそうな男子生徒がレティシアの肩を持ったことも、不機嫌に拍車を掛けてしまったのかも。


 レティシアと目を合わせることなくそっぽを向いていたルーシーだったが、ずっと黙り込んだまま、というわけでもなかった。


「……わかりました。放課後、裏庭で話しましょう」


 苦虫を噛み潰したような顔は相変わらずだったが、承諾はしてくれた。

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