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【書籍2巻発売中】わたくしの婚約者様はみんなの王子様なので、独り占め厳禁とのことです  作者: 雪菜
第二章

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第4話 助けてください

 レティシアの決意も虚しく、ルーシーと話す機会は巡ってこなかった。放課後すぐに彼女は教室を出て行ってしまい、追いかけた時にはもう姿を見失っていた。寮の部屋を訪ねてみても応答はなく。


 翌日、今日こそはと意気込んで登校したレティシアは、教室にルーシーの姿が見えなくて落胆した。一限目の教材だけ机に置き、鞄をしまおうとロッカーの扉を開けたレティシアは――あら、と目を瞠る。木製の棚の中に、四つ折りになった紙片を見つけたのだ。


 首を傾げつつ、手に取ってみる。どうやらノートの切れ端らしい。シワが刻まれた紙には、


『レティシア・アルトリウス様。昼休み。特別棟の西階段。十三時に四階の踊り場にて。助けてください』


 と書かれていた。


 名前は記載されておらず、日付も記されていない。流石に今日の昼休みだとは思うが。


「あら、まぁ」


 助けを求める謎の手紙に、レティシアは頰に手を添える。


 誰かがレティシアに助けを求めているのであれば、力になってあげたいとは思う。だが、この学園で匿名で頼られるほど、レティシアの名声は高くない。


 純粋に救いを求めているというより、何か悪意が隠されているのではと考えるほうが妥当な気がした。気がしたが――。


「何事も、疑って掛かるのはよくないでしょうか……?」


 ここは策謀渦巻く王宮ではないのだ。大多数は純粋な心根を持つ少年少女が通う、王立学園。


 紙片を制服の胸ポケットに仕舞い、レティシアは呼び出しに応じてみることにした。



◆◆◆◇◆◇◆◆◆



 いつも通りメリルと昼食を共にし、食堂で別れたレティシアは、特別棟に向かった。


 美術室や実験室といった、いわゆる特別教室を主とした特別棟は、三階からは部室が並んでいる。放課後を除けば、基本的にはひと気が薄い。


 そんなだから、人の話し声というのはよく通る。三階まで上がったところで、レティシアは言い争う声に気づいた。


 あなたのせいよ、とか。どう責任を取るつもりですの、だとか。


 憤りを孕んだ女子生徒の声は、よく耳を澄ませてみると聞き覚えのあるものだった。


 眉をひそめたレティシアが更に階段を上がっていくと。


「キャ――っ!」


 甲高い悲鳴が聞こえたかと思うと、何かが転がり落ちる物音が響いた。


 ぎょっとしたレティシアは、慌てて階段を駆け上がる。すると、踊り場に倒れ伏す女子生徒の姿が見えた。癖のあるブルネットの髪が揺れ、階段を転げ落ちたらしき彼女はのろのろと身を起こす。どこかを痛めたのか、床に座り込んだまま、苦悶の表情を浮かべているのは――。


「ハーネット男爵令嬢?」


 ルーシー・ハーネットの姿にレティシアが驚いている間に、上から足音が降ってきた。


 膝下丈のスカートを忙しなく翻し、駆け下りてきた三人組の顔もまた、見覚えのあるもの。


 昨日、お茶の時間にレティシアと一悶着あった、隣のクラスの令嬢たちだ。


 レティシアと目が合うと、彼女たちは青褪めた顔をさっと逸らし、そのまま階段を駆け下りて行ってしまった。

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