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わたしの愛した彗星  作者: 水埜アテルイ
太陽の物語
72/105

第72話 6人の精鋭

「よく集まってくれた」


 元薔薇園に集まった帰宅部員。ざっと12名。俺とアリナを含めれば14人だ。

 張り紙に記載した集結地と日時を見て彼らは来たのだ。より多くの人に見てもらい、悩んでもらおうと思って数日間の時間を与えた結果である。


「君らは部活動に所属していないんだな?」


 12人は頷いた。俺の剣幕に若干びびった者もいたが大半は微動だにしなかった。

 なるほど、質はいい。


「集まってくれたことに感謝する。しかしながらまだ君たちを信用したわけじゃない」


 そう、帰宅部は自称だ。だからこそ本気度に差が出る。彼らが本物かどうか確かめる必要がある。

 俺とアリナは隣り合わせでパイプ椅子に座り、向かい合わせで12人も同様に座った。

 そして彼らとの間には1つ机が用意してある。


「よし。じゃあ右端の人。ここに座ってくれ」


 俺は机の椅子を指して言った。

 1人目の男は痩せ型で爬虫類みたいな顔をしたやつだった。まず名前を訊いた。


「名前は」

「石橋優希」

「よろしく、優希。いくつか質問に答えてもらおう。いいか?」

「おっけー」


 俺は両肘をつき、若干前のめりになって彼の目を見ながら言った。


「君は帰宅途中だ。家にはもうすぐ着く。その時、道端で倒れている女性を見つけた。君はどうする?」

「……助ける」

「次の質問だ。放課後になり、君はバッグを背負って教室を出た。階段を降りようとした時、最上階から声が聞こえ、君はバレぬようこっそり上がった。すると2人の男子生徒が抱きしめあっていた。君はどう思った?」

「これは僕が帰宅部員か、それともゲイかを調べるテストなのか?」

「質問に答えてくれ」

「……逃げる」


 俺は質問をやめにした。


「以上。退室してくれ」

「えっ? 退室って?」

「残念ながら失格だ」

「ちょっと待ってくれよ。何がダメなんだよ」

「君はコンピューター部の幽霊部員だな? 俺の目は騙せん」

「うっ、なぜ――」

「……帰宅部をナメるなッ!」


 俺の覇気に怯み、優希は名残惜しそうに「クソッ!」と一言残して退室した。

 同時にアリナが小声で俺に耳打ちする。


「どうしてわかったのよ」

「直感だ。いや、実を言うとやつを知っている」

「さっきの質問の意味は何?」

「性格診断だ。やつは真面目な人間だ。一線を超えてない」

「意味がわからないわ」

「安心しろ。俺の目に狂いはない」

 

 そんなわけで選別が始まった。

 12人もいれば多種多様なやつがいた。劣等感を植え付けさせようとするやつらに復讐したいだとか面白そうだったからとか単にアリナに近づきたかったとか。

 適性のある帰宅部員を慎重に選んだ。我が同胞となる可能性もあるため真剣に彼らの目を見て探った。

 そしてこの場に残ったのは4人だけになった。残り8人はふざけたやつもいたが惜しいやつもいた。しかし噂によると対抗リレーは6人だそうで、仕方なく苦渋の思いで4人に絞った。


「君たちは選ばれた。俺たち6人が正義だ」


 1人ずつ紹介しよう。


 1人目・田中まさお

 通称 バーサーカー・マサオ

 身長185センチ体重98キロのパワー系化け物。恵まれた体格に似合わず性格は非常におとなしい。五厘刈りの頭が特徴だ。10年間柔道をやり続けていたが中3のとある稽古で受け身に失敗し、頭を擦りむく。以来、擦りむいた箇所の毛根が死滅し、円形ハゲとなる。ハゲ隠しとして五厘刈りにしているらしい。内向的だった性格がさらに内向きになったそうだ。トラウマになって柔道を辞め、高校では無所属を貫いている。

 ここに来た動機は「自分を変えられるかもしれないと思ったからです」と回答。

 好きな食べ物は「マンゴーパフェ」と回答。

 お前完璧。


 2人目・沼倉鷹蔵

 通称 インテリジェンス・タカゾウ

 世の中に絶望しているような暗い目が特徴の高知能キャラ。外見は平均的な身長でこれといって特筆すべきことはないが、彼は二渡鶴に匹敵するほど知能が高い。しかし「根暗」や「ガリ勉」と揶揄されることが多々あるそうだ。一矢報いたい気持ちがここに来た動機だという。

 好きな言葉は「塾行くやつはバカ。教科書を網羅できないやつが行っても無駄」とズレた回答。

 好きな食べ物は「秋刀魚のワタこそ真理」と回答。

 最高だよお前。


 3人目・島野栄治

 通称 プロゲーマー・エイジ

 黒縁メガネが特徴で中学時代は元陸上部。中2の誕生日に買ってもらったパソコンでFPSに出会い、没頭。見る見るうちに視力低下、陸上への熱が冷えていったがFPSの腕はうなぎ上りに上達していった。世界で戦う高校生プロゲーマーらしい。

 高校生なのに「ニート」と馬鹿にされたことを根に持っていいて、久しぶりに走りたくなったというのが動機らしかった。

 嫌いな食べ物は「芋。マジでうぜえ」と意味不明な回答。

 尊敬する人は「シモヘイヘ」と回答。

 手を銃の形にして正面に突き出しながら移動する奇行を今すぐやめていただきたいが、お前も最高だ。


 4人目・早坂凛音

 通称 ハートブレイク・リオン

 元チア部で1年生の時に「恋愛に集中したいから!」という理由で退部したリアル脳内お花畑少女。しかし現実は厳しいもので、失恋に失恋を重ね、終いには勘違いされて「ビッチ」の烙印を押される。

 ウェーブのかかった異国風の髪型が特徴で、身長は平均より若干高い程度。愛嬌のあるぱっちりとした目をしていてモテそうなのだが「私を振った野球部、サッカー部、ラグビー部、剣道部、テニス部、バスケ部、バド部、柔道部の男子たちを後悔させて跪かせたい」と闇深い動機を話したことから病的な地雷女子だと判明し、すべてを理解した。

 決め台詞は「もうハートブレイク(失恋)はこりごり。ハートブレイカー(相手にダメージを与えて振る人)になりたい」と小難しい英語を使用。

 好きな食べ物は「マシュマロ、ストロベリー、クレープ、チーズケーキ、シュークリーム――」と実に漢字が恋しくなるものばかりで後半は耳をふさいで黙るのを待った。最高の女子だよ、お前。

 

 驚いたことに全員3年生であった。うちの学年にはロクなやつがいない。アリナも「大丈夫なの?」と耳打ちしてきたが俺の選別は間違っていない。

 

「勝算はあるのか?」


 インテリジェンス・タカゾウが手を挙げて俺に訊く。


「リレーはシンプルだ。単純に足が速ければ勝つ可能性は高まる。しかしだな、ちゃんとコツもある。それを踏まえて挑めば優勝も夢じゃない」

「確かにある」


 プロゲーマー・エイジが黒縁メガネをくいっと上げながら口をはさんだ。


「どんなに速いやつでもレーンの内側を取られたら難しいし、バトンミスで速さは関係なくなる。個人プレーじゃないからこそ一人一人の動きが重要になるんだ。つまり団結の強いチームが勝つ。精神論っぽいけど事実」


 さすがは元陸上部。手を銃の形にさえしていなければかっこよかった。

 

「僕なんかが役に立つのでしょうか」

「大丈夫だ。人間兵器のお前はもっと自信を持て」


 バーサーカー・マサオはダンプカーも止めそうな肉体を縮こませて不安げに心境を吐露した。きっと彼ならトラックに轢かれて異世界に行くことは無いだろう。逆にトラックが壊れてトラックが異世界転生する。

 

「ちょっといい?」

「はいどうぞ」


 ハートブレイク・リオンが腕を組んで発言許可を俺に求めた。


「これ本当に勝てるの? 栄治は元陸上部だからいいとして、がり勉君は無理じゃない?」

 

 その言葉にインテリジェンス・タカゾウは黙っていなかった。


「工夫すれば勝てると先ほど結論が出ただろ。君の頭蓋にはマシュマロしか入っていないのか?」

「ひどい! あんた絶対モテないでしょ!?」

「異性からの好感度はこの場において関係のない話だ。それに僕は運動ができないわけじゃない。偏見はやめてくれるか」

「な、なぁーんなのこいつ!」


 早くも仲間割れをする2人。アリナはため息をつき、まさおはあわてふためき、栄治はナイフを構えたふりをする。

 俺以外のプロ帰宅部員たちを見るのは初めてだが噂通り個性の強い連中だ。各々自分の思うがままに意見を主張しあう。しかしこのままでは団結どころが内戦だ。見るに堪えない見苦しい姿を晒して陰で笑われることになってしまうだろう。

 だがそうならないために体育祭の3週間前に募ったのだ。


「落ち着け、凛音。よく考えてみろ。怪物、神童、プロゲーマー、恋の報復者、道化師、毒舌薔薇が揃っている。最強すぎる布陣だと思わないか? しかも全員何も失うものがない帰宅部員ときた。そして当校で最強の帰宅部員と言えば誰だ?」


 全会一致で俺を指さした。


「よく知っているじゃないか。俺は――」

「変人」

「そうだ、凛音。大正解だ。俺がいる限り、相手にペースを奪われることはない。リレーを混沌の坩堝に叩き込んでやろう」


 こうして体育祭に向けて練習が始まった。





 練習は放課後実施することになった。

 元陸上部の栄治が率いるかたちで基礎体力はもちろんのこと、バトンを手渡す要領、走るフォームなどひたすら練習する。校庭は基本的に運動部が区画に分けて使用しているためレーンを使う機会は中々巡ってはこないが、それでも各人魂を燃やして頑張る。


「論理的に、倫理的に、道徳的に考えてもこれは鬼畜極まる運動だ……」


 汗をドロドロ流しながら死人のような目で訴えるインテリジェンス・タカゾウ。


「そうも言ってられないぞ。ほれ見ろ、サッカー部は常に走りっぱなしだ」

「やつらの筋組織はどうなっているんだ。どういった方程式で運動効率を上げている」

「体を動かすために方程式組み立ててるやつはこの宇宙でお前だけだよ」

「う、嘘だろ……? 彗はどうやって筋肉を動かしているんだ?」

「人を数字と記号で動くマシンみたいに言うな」


 時に雨が降り、時に強風でも俺たちは走り続けた。


「まさお。お前はもっと自信を持て」

「無理ですよ……僕なんか大きいだけで……」


 休憩の合間に縮こまって体育座りするバーサーカー・マサオに話しかけた。縮こまる、といっても全然縮こまれていないくらいデカいのだが。


「みんなからデカいとか巨人とか言われて……トロいだけなんですよ、僕」

「わかるぞ。俺も小学生の時とか皆からデカイデカイ言われて嫌になったことがあった。いっそ平均くらいに生まれたかったと思っていたが、今では母親に感謝している。嫉妬の目が気持ちいいの気持ちいいの」

「それは彗くんだけですよ……僕は弱いし、臆病で……」


 喋るたびに筋肉がシャツごしに波のごとく動いている。米軍から筋肉兵器としてスカウトされるんじゃないかと思うほど恐怖を感じる力強さだった。

 膝に顎をのせ、しゅんとするまさおの背中を叩いて俺は励ます。鉄塊を叩いているかと思うくらい頑丈だった。


「大丈夫だ。お前速いじゃねぇか。絶対負けねぇって。それにたくさん練習し終わった後に好きなもんとか食べると最高だろ?」

「そうですね。確かにやりがいを感じます」

「なんだっけか、マンゴーパフェだっけか」

「そうです。お気に入りの喫茶店でよく食べます。あれを食べると力がみなぎって何でもできる気がするんです」


 よし、本番前にマンゴーを食わせよう。ほうれん草食って怪力になる某キャラクターみたいに頑張ってもらおう。

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