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わたしの愛した彗星  作者: 水埜アテルイ
彗星の物語
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第24話 バディ

 アリナの体調はもう回復したらしく、ここ数日は罵倒の日々である。しかし生徒会の仕事は真面目に担っていて、やると決めたことは最後までやる性格なんだとわかった。


 結局アリナが隠している何かはハッキリしていない。

 今思えば、アリナは俺に助けてほしかったのかもしれない。悲しい目は助けを乞うときにも使う顔だ。プライドの高いあいつが言葉で助けを求めるわけがない。あるとすれば俺が能動的に動くよう仕向ける方法だろう。それがきっとあの顔だったんだ。

 

 ぼんやりとそんなことを考えながら教室の飾り付けをする。明日は文化祭当日だ。

 我がクラスは仮装を主題にしたカフェだ。

 服装は何でもあり。着物でも鎧でも。常識から外れた物でない限り自由だ。俺は当日アリナと見回りをするという理由で仮装を回避した。帰宅部員は己を偽らない。生徒会万々歳。仮装するのがダルかったからラッキーだ。

 

「彗は何の仮装するんだ?」

 

 真琴がそう言った。

 

「本当に残念に思うが俺は仮装をしない。別の仕事があってな」

「マジか。彗のコスプレ見てみたかったな」

「逆にお前がどんな仮装をするか楽しみだ」

「適当にマスク買って済ますつもり」

「それが無難だな」

 

 そんなくだらない話をしていると紙のリングを肩にかけた鶴がやってきた。

 

「彗はコスプレしないの!?」

「残念ながらの残念ながら。校内の治安を守る使命を君たちから与えられたんで」

「絶対アリナさん楽しみにしてたと思うけどなぁ」

「ないない」

「楽しみにしてたよ。私と話してたときは笑ってたよ」

「あざ笑いだろ。やつのファッションショーは舐め回すように見てやるがな。日頃の恨みを返してやるぜ」

「へぇ。見に行くんだ」

「俺に見られるのが嫌ならしい。一応見に行かないことになってるが……なわけねぇだろうが毒舌薔薇ァ!」


 アリナは相当目立つだろう。あの美貌に美しい衣装を追加するのだ。ファッションショーはファッションが主役だが、本校のショーでは誰もファッションには注目しないだろう。客の目当てはどうせ生徒の可愛らしさや美貌だ。男どもは写真を取ってスマホの待ち受けにするに違いない。

 アリナも多少なりは楽しむはずだ。そこに俺が登場。気取るか、恥じらうか、はたまた怒りに顔を歪めるか。見ものである。

 

「彗、悪人面になってるぞ」

「これがデフォルトの表情だ」


 放課後になり、生徒会へと足を運ぶ。

 本来帰宅部であるはずの俺がどうして学校に残らなきゃいけないのかとしばしば思うのだが、ぱっとアリナの存在が浮上して、ため息をつく。


 そう、俺は彼女の更生の為に尽くしているのだ。


 赤草先生に頼まれ、あの夕暮れの図書室で俺とアリナは出会った。それからずっと共に行動している。

 アリナに変化はあったかと訊かれれば「わずかに」と答えられるくらいにはアリナも少しは柔らかくなったんじゃないだろうか。鶴とは普通に喋れているそうだし、これから頻度は増えていくだろう。

 こういうのもなんだが、アリナは俺に心を許していると思う。なんだかんだで言うことは聞くし、傍にいるくらいなら特に苦言を呈さなくなった。


「こんちはー」


 鶴とアリナは既に生徒会に来ていた。

 どうやら俺待ちだった。生徒会長は俺に座るよう促した。

 生徒会長が立ち上がった。


「いよいよ文化祭前日です。当初のプラン通り形が出来上がり、生徒会も人手を補充したおかげでスムーズに計画通りに進んで、時間に余裕をもってやってこれました。無駄にすることなく、本番に向けて残りの時間は最後まで心を込めて文化祭を作り上げよう!」


 会長の言葉がスタートの合図となり、作業が始まった。

 みんなやる気に満ちていて団結している。これが部活動や委員会に所属する人たちの持つ団結力というものだ。


 帰宅部の俺には暑すぎるほどにエネルギッシュだ。

 毎日授業だけ受けて、あとは家でくつろぐのも悪くないし本望だが、たまにはこういう――世間一般で言う「青春」も悪くないと思った。特にアリナにはそれを感じ取って欲しかった。

 俺とアリナは本来の目的である「生徒会所属の臨時風紀員兼案内係」の確認をすることにした。


「文化祭の内容は大体OKか?」

「えぇ」

「基本的に自由にしていいと言われている。サボるという意味ではないから勘違いするな。巡回時間とか交代制とか特に要求はない」

「そ」

「基本的に2人で回ることを考えてるんだが、それでいいか?」

「……なんであんたと回んのよ」

「何かあった時にお前が客を無視しかねないのと不機嫌そうな態度をするのが怖いからだ。この国じゃお客様が神様らしいからな」

「……まぁ、わかったわ」


 自覚はあるらしい。滑稽だな。


「ちなみにお前のファッションショーの時間は俺に任せてくれ。その間は俺が1人で回ってる」

「ふ、ふん。一生懸命働くことね」


 アリナは動揺していた。指で髪をすき、目線を窓の方へと移した。

 もちろんファッションショーは見にいく。その間、案内係の腕章は外しておけばいい。じっくり眺めてやる。体がドロドロのヌルヌルになるくらい舐め回すように見てやるからな。


「いま寒気がしたわ」

「体調悪いのか」

「いいえ。下衆な男が私を見つめていた気がしたのよ」

「俺に密告すればこの世から削除しといてやるよ」

「じゃあ自分の首絞めなさい。脊椎を砕く勢いで閉めるのよ」

「お前マジで容赦ないことしか言わねえな」


 ふん、と鼻を鳴らしてアリナは腕を組んだ。

 こんな態度を一般客にしないことを祈っておこう。

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