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わたしの愛した彗星  作者: 水埜アテルイ
彗星の物語
22/105

第21話 秘密のショー

 初めて生徒会に訪れた翌日の放課後。


 文化祭担当役員に連れられて文化祭実行委員会の活動拠点に来た。

 実行委員会は慌ただしいわけでも、切羽詰まっているような雰囲気もなく、淡々と各クラスの委員が代表で意見を具申していた。

 大部分の計画が完成しているため細部の調整等をやっているらしい。

 ちなみにうちのクラスは無難に喫茶店だった。

 だから我がクラスの実行委員たちは会計係に費用等の提出、器材等の返納先などを確認していた。

 

 俺とアリナが当日にやることを役員に質問する。


「俺らは当日何をすればいいんだ?」

「生徒会所属の臨時風紀員的なこと&案内係ってとこかな」

「はあ」

「文化祭は楽しい反面浮かれるイベントでもあるからね。風紀的にまずいと思ったら止める人がいないと歯止めがきかなくなるの。だから生徒会が風紀委員的な役割をちょっとの間やるのね。加えて案内係も! 学校内を回る途中で困ってる一般人がいたら手助けする。それが彗とアリナさんの役割」


 風紀委員は本来警備的、監視的なことをしない。

 バリバリ取り締まってそうなイメージだが単に服装などの見栄え、意識改革、規則の改善等の継続を促す役割なので、生徒会や文化祭が欲している実行力を風紀委員は持ち合わせていない。であるならば自分たちでやってしまおうということだ。

 しかし生徒会は一人一人が重要な役職に就いているので人手がない。

 そこで俺たちの登場だ。


「じゃあ私たちは文化祭の風紀を維持すればいいのね」


 アリナが口を挟んだ。


「そう! 流石アリナさん! 彗もわかった?」

「あたりめーよ」

 

 そう返すとアリナが鼻で笑った。


「どうした、楽しいことでもあったか」

「今日もバカそうな顔で安心しただけよ」

「そんなバカがいないと学校生活送れないやつがよく言う」

「あんたなんかいなくたって問題ないわ」

「今すぐにでもお前の前から消えたいところだが赤草先生との約束なんでね! すまんな!」

「キモ」


 てなわけで俺たちは動き始めた。

 文化祭の全体像を把握するため、各学年各クラスの催し物が記載された資料を見せてもらった。

 

「いろんな出し物あるなぁ。どっかは必ずお化け屋敷やるんだな。コンサートもあれば劇もある。レストランもあるな。すげーな」

 

 ぱらぱらとめくって眺めているとアリナのクラスを見つけた。

 そこにはファッションショーとあった。


「あ? なんだこのファッションショーってのは。おい、毒舌薔薇」


 アリナがバッと首を曲げた。そのまま首がねじ切れてコマみたいに回り出しそうな勢いだった。


「な、なんだよ」

「――から」

「はい?」

「私出ないから」

「訊いてないが」

「出ないから絶対来ないこと。いいわね?」

「それ自分で『私は出場します』って言ってるようなも――」

「来たら八つ裂き。いいわね?」

「俺は今、このファッションショーを真琴と観に行くと決めた」


 アリナは俺に顔を近づけて凄んだ。


「もし来たらあんたの人生は終わりよ。あんたを縦に切り裂いて臓物ぜんぶ引きずり出してやる。そしたらミキサーでドロドロにして仙台駅前のペデストリアンデッキからバケツで捨ててやるわ。バスやタクシーがあんたの血糊で駅周辺に赤い線を引くの。素敵でしょう?」

「いや、行くって決めたんで」

「えっ……嫌よ。来るな」

「安心しろ。お前の輝かしい姿は俺がしっかり撮影してやる。写真にして部屋に飾っておこう」


 アリナは俺の顔面めがけて拳を放った。

 しかし俺はアクション映画の主人公のように、殺意のこもった拳を正面から掴んで受け止めた。


「やめておけ。俺は……強い。お前は勝てない」

「ムカつくわ……」


 立候補してショーに参加するわけではないのだろう。男たちからの熱烈な支持でそうせざるを得ない状況になったんだろう。完全に文化祭をサボることは流石にできないからそれで手を打ったに違いない。

 アリナの身長は170以上はあり、女子の平均よりだいぶ高い。ヒールを履けば180の俺と目線が一致すると思う。加えてスタイルも良くて顔もいいのだから推薦されてもしょうがない。

 完全に拒否したわけでもないのだろう。だとしたらアリナの心は変わってきているのかもしれない。

 

「そういや中学ではどんなことをやってたんだ? 生徒会にいたんだろ」

「副会長。影の支配者」

「印象操作とかプロパガンダとか好きそうだな」

「無政府主義のプロパガンダを流して生徒会を潰そうとも思ったけど、無難に副会長を務めたわ。退屈だった」

「そのエピソードは生徒会では禁句な。俺も迫害される」

「あんたはそのうち北極にでも送るから安心しなさい」


 何気ない会話だが、他人にはアリナの会話する光景は物珍しく映る。体中に穴が開くほど大量の視線がさっきから飛んできている。

 ともあれアリナが人と喋れる知的生物と認識してくれれば、アリナの交友関係がこれから広がるきっかけになるかもしれないから良しとしよう。

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