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わたしの愛した彗星  作者: 水埜アテルイ
彗星の物語
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第16話 Love is All You Need

 中谷拓は日羽アリナと同じ中学校に通っていた。彼はそう言った。

 さらに彼はあの保健室で現れたアリナを知っている。

 

 高校に入学した時点で既に生まれていた新しい人格。それが別人格である毒舌アリナ――俺がよく知るアリナだ。

 産声を上げ、アリナという名を授かった元の日羽アリナは俺が知らない――本当ともいうべきアリナ。


 中学時代のどこかで別人格が生まれたのか?

 それとも中学時代は毒舌アリナがほとんど表に出てこなかった?


「高校に入学して以来、アリナと話したことはあるか?」

「ありません。最近になってアリナ先輩がこの高校にいると知りましたので」


 つまり拓は毒舌アリナを知らない。

 今でも拓の中では優しいアリナのままなのだ。残酷だな。いずれ彼は好きな人の豹変ぶりを知ることになる。

 

 日羽アリナを日羽アリナたらしめるモノは何か。


 死んだ最愛の猫に似た猫を飼ったところで最愛の猫の代用にはならない。

 言葉が通じなくても愛した猫ではないと心が悲鳴をあげる。人はあるかもわからぬ魂に触れたがる。


 昔のように、彼はアリナを想うことができるだろうか。


 俺にできることは彼に現実を見せることだけ。

 ここでアリナと会わせない選択肢はない。そうしたところで拓は俺を不審がるだけだ。拓の告白を阻止しようとしていると思われてしまう。

 俺のためにも、拓のためにも、アリナと会わせることが最善だ。


「アリナに会ってみるか?」

「お、お願いします! 話すの中1以来なので緊張しますがなんとか頑張ります!」

「ん? 中2になってからはどうしたんだ」

「話せなかったんです。ぼくは1年が終わる3月頃、親の仕事の都合で引っ越しました。引っ越し先は県内ではあったんですけど、仙台からかなり遠くなってしまったので転校しました」


 なるほど。

 つまりアリナが中学2年生の時点では、まだ毒舌アリナは存在していなかったということか。


 毒舌アリナは、中学3年生になった春から卒業までの間に生まれた。


 アリナが中3になったと同時に拓は転校し、その1年間で毒舌アリナが生まれ、卒業し、高校で赤草先生と出会う。辻褄が合う。

 じゃあ中学生活最後の1年間に何が起こったんだ。

 また気になることが増えちまった。


「よし、まずは久しぶりにアリナと会おう。セッティングするからちょっと待ってくれ。明日か明後日には場を設ける」

「助かります! 本当にありがとうございます!」

「おうおう。後は任せろ。後日連絡する」


 拓は一礼して練習に戻っていった。

 任せろとは言ったものの、さてどうしようか。





 困ったときは妹に訊いてみるのが一番だ。

 うちの妹は頭のできがよいのか、相談すれば良いアドバイスをくれる。兄として妹の将来が大変楽しみである。

 帰宅後、夕食を取って落ち着いた頃合いで話をした。


「妹よ。アリナを覚えてるか? あの南極で育ったような冷たいやつだ」

「覚えてるよ」

「とある後輩が彼女に告白したいらしいんだが、後輩が知るアリナと今のアリナは別人レベルで変わっちまってるんだ。それでも告白の橋渡しをするのは問題ないか」

「ごめん、意味わかんない」

「チョコが置いてあるとする。見た目は有名な美味いチョコだが、味が激辛になっている。さて、そこにチョコを食いたくて食いたくてたまらない甘党が現れた。まさに今、そいつがその激辛チョコに手を伸ばそうとしている。俺はそれを見過ごすべきか、もしくは止めて『こいつはチョコを独り占めする気だ』と不名誉な勘違いをされるか。どちらを選択すればいいと思う」

「その場合は止めてあげたら? 可哀想でしょ」

「アリナの話に戻して考えてみてくれ」

「アリナさんに告白しようとしている人を止めるべきかどうかってこと?」

「根本はそれだ。どう思う」


 うーん、と宇銀は首を傾げて唸る。


「告白させてあげなよ。人の恋愛を邪魔するのは愚かだよ、兄」

「妙に説得力のある言い方だな」

「告白しようとしている人にとっては愛を伝えることに意味があるんだからさ、それを止めちゃったら心の中でグツグツ煮えちゃうよ」

「うまいシチューができる」

「とにかく助けてあげなよ。兄ちゃんみたいに人の心を持ってない変人にはわからないかもしれないけど、想いを伝えられないままはその後の人生にかなり響くと思うよ」

「参考にさせていただきます」

「Love is all you need. 兄ちゃんはこの英文を胸に刻みましょう」


 やはり相談しておいてよかった。うちの妹は何でも知ってる神のようなお方なのだ。

 あとはアリナに話をつけよう。

 

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