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わたしの愛した彗星  作者: 水埜アテルイ
彗星の物語
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第15話 記憶の中の女神

 そもそも白奈に告白されるという可能性はいかほどだったのか。

 統計学でも数的確率論でもなんでもいいから誰か解説してくれ。羞恥心で脳みそが壊れちまう。


「つまり、アリナに想いを寄せているやつがいるって話か」

「うん。男子テニス部の後輩なんだけど前から気になってたんだって」


 アリナを思慕する人がいること自体に驚きはない。あいつがかなりモテることは前から知っていたし、好かれる要素が大量に備わっているから自然だ。奇妙な現象が起こっているとも思わん。あいつは年がら年中死ぬまでモテ期なんだ。

 問題なのはなぜそれを俺に報告するのかだ。


「で、その話と俺の関係は?」


 正直なところ「だからなんだ」という一言に尽きた。俺には関係がない。


「だって私に相談されてもアリナさんにはわかんないし、話しかけられないし……彗ならアリナさんと親しそうだから後輩の相談相手になってくれるかなって思って」

「俺がその後輩の手助けをする、ということか」

「うん」

「しょうもねぇなぁ。1人で告りに行けよ」

「橋渡し的なことやってあげてよ~」


 後輩の力になりたいから助けを求めたらしい。

 しかし白奈もアリナが交際することに関して消極的なのは知っているはずだ。あいつなら石油王からの申し出も唾吐いて追い払うぞ。


「その後輩とやらと話してみないと手を貸せるかわからんぞ。ちなみに成功の確率は絶望的だからな」

「んー、でも試してみないとわからないと思うけどなぁ」

「世界一簡単な確率問題だ」

「後輩なら部活中だし、テニスコートに今から行こうよ。時間あるよね?」

「帰宅部員は世界を救う仕事で忙しい」

「うん、時間あるね!」


 白奈は俺の冗談をスルーするスキルに長けている。


 

 テニスコート。

 女子と男子は別々のコートを使って練習をしている。一見交流はなさそうに見えるが休憩になったらお喋りしだして、そのタイミングで後輩とやらは白奈に相談したんだろうな。


 白奈が指さす先にその後輩がいた。

 中谷拓という名前らしい。高校1年でテニス部所属。なかなか爽やかな顔で女子に人気がありそう。

 

「その拓という男がアリナに告白したい、と」

「そうそう」


 アリナのルックスで惹かれるのはわかる。

 だが「もしかしたら付き合えるかも」なんてのは幻想だ。アリナの美貌に陶酔して正常な思考ができなくなっているだけだ。アリナは誰であろうとキツイ言葉で拒絶する。

 彼女が単なる人間嫌いなのかはわからない。

 どうであれ、彼女は自分の周囲に近寄る者を排除しようと言葉に棘を添える。あくまで今のアリナだが。


 しばらく白奈と立ち尽くしていると男子側が休憩となった。

 早速白奈は俺を後輩の元へ案内した。


「拓くん。この人が彗」


 中谷拓は見てくれ通り爽やかなやつだった。


「はじめまして。中谷拓です。放課後にすみません」

「どうも、彗だ」


 白奈が間に入る。


「彗にいろいろと訊いた方がいいよ! 唯一この学校でアリナさんと話せるのは彗だから」


 白奈の一言に拓の表情が少し曇る。俺はアリナとそういう関係じゃねぇ。名誉毀損で訴えるぞ。


「ありがどうございます、白奈先輩。榊木先輩に相談させてもらいます」

「彗はすっごく変な人だけど悪い人じゃないから安心してね。私は部活に戻るから」


 ぼくは変な人じゃないですよ。ぼくは最強の帰宅部員です。

 白奈は着替えに行き、俺と拓だけが残される。

 先に口を開いたのは中谷拓だった。


「……先輩はアリナ先輩とどういう関係なんですか?」

「お前が想像している最悪の関係ではないから安心しろ。俺はあいつと人類を繋ぐ、通訳みたいなもんだ」


 拓は俺の言葉を察して安堵する。

 かなり大きな息を漏らすくらいだから相当心配だったのだろう。


「逆に訊くが、アリナのどこが気に入ったんだ?」


 拓はモジモジし始めた。話すのを彼は躊躇しているようだ。


「優しいところ、とか、綺麗だから、です」

「優しいだって?」

「はい。本当に女神みたいに優しいんです」


 反射的に疑問符が口から出る。

 こいつ、マゾか? もしそうならアリナの傍にいることは至高の喜びになるに違いない。なにせ一言二言がドMには有難きお言葉だからだ。


「あとよく微笑むところもです。綺麗で優しくて可愛いってもう完璧ですよ!」


 俺が知っているアリナとは大違いだ。誰だよその美少女。俺が知ってる日羽アリナはとんでもなく尖っていて氷の女王のように冷たい。

 しかし彼の言っている人物はわかる。

 二重人格であるアリナのもう1人の人格のことだ。アリナの秘密を知っているのだろうか。


「拓が好意を寄せているのは、俺と同じ学年にいるアリナで間違いないよな?」

「アリナ先輩を誰かと間違えるなんてありえません」

「君が話すアリナの性格は実際とほぼ正反対なんだ」

「どういうことですか?」

「アリナはとんでもない毒舌でな。誰に対しても態度がキツくて優しいなんて概念とは無縁の人間なんだ」

「そんな、絶対違いますって。本当にアリナ先輩は優しい人で……」

「そうは言うが、アリナが1年の時からそうなんだよ。君が入学してきた今年も、アリナはずっとそういう性格だ」

「……そんなわけない」

「どうした」

「先輩。実は、僕はずっと前からアリナ先輩を知っているんです」

「ほう?」

「僕はアリナ先輩と中学が同じでした」


 中谷拓は、アリナの過去を知る人物だった。

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