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わたしの愛した彗星  作者: 水埜アテルイ
彗星の物語
13/105

第12話 はじめまして

 朝8時に目覚めた。最悪だ。


 休日は10時間寝るよう心がけているのになぜ朝に目覚めてしまったのか。俺は10時間寝ないとスッキリしない。ただえさえ毎日平日は睡眠借金を作っているのだから休日で返済しないと身体がもたない。

 そんな俺の安眠を斬り裂いたのはスマホの着信だった。誰だよ、マナーモードにして寝なかったやつは。

 俺だ。


「はい、榊木です」

「あんたでいいのね」


 寝起きで誰かわかない。


「すんません、どちら様で」

「ふざけてんの?」

「あ、いえ。本当にどちら様か……」


 だんだんと意識が覚醒するにつれ、俺はその声の主に思い当たる節があった。


「もしかしてアリナか?」

「そうよ」

「……はあ!?」


 俺はアリナの番号もアドレスも知らない。教えてもないし、アリナと俺を中継する人物も思い浮かばない。だが中継は必ずいるはずだ。


「一体どうやって俺の番号を知ったんだ……? まさか興信所とか――」

「赤草先生よ」


 先生、個人情報の管理がなってないですよ。

 そもそは先生の番号自体知らないんですから、絶対連絡簿から横流ししたでしょ。


「それで用件は何だ」

「学校で手伝いがあるから来て、って赤草先生が。さっさと来なさい」

「行きたくないんだが」


 声が聞こえなくなる。切りやがった。

 仕方なく俺は行くことにした。休日明けから殺されたくないし。


 リビングで朝食を摂っていた妹に一声かける。


「学校行ってくるわ」

「兄ちゃん、今日は土曜日だよ。寝ボケてる?」

「知っとるわい。学校の手伝いだ」

「え!? それ私も行っていい?」

「なぜそうなる」

「オープンキャンパスの予行として!」

「オープンキャンパスに予行は必要ないだろ……」

「あとアリナさんって人も見てみたいし!」

「いや、アリナはいねえだろ。あいつ部活入ってないし」


 面倒なことになると思ったからアリナは伏せた。

 今更だが妹にやつの存在を話すべきではなかったと後悔した。


「じゃあなんで兄ちゃん学校行くの? 兄ちゃんも部活入ってないでしょ?」

「帰宅部だからといって土日は必ず休みというわけじゃない」

「でも今までずっと土日は家だったよね?」

「はい」

「絶対アリナさんも関わってるよね?」

「……はい」


 面倒になると確信した。



 妹と学校に行くなんて小学校以来だ。

 あの頃は2人ともランドセルを背負って仲良く登校したものだ。自分たちも成長したんだなとしみじみ思った。子供の成長は早い。

 俺と妹はウインドブレーカーの格好で行った。制服はだるいし、妹が学校を散策する上で問題にならない。運動部員に変装というわけだ。

 学校に着くと妹は「おおー」と声をあげた。


「ここが兄ちゃんの通う学校かー」

「そうだ。俺は変人だが、そこそこ偏差値のある高校だ。動物園みたいな高校じゃないから安心しろ。お前がとって食われるようなことはない」

「兄ちゃんよく入れたね」

「まあな」

「ちょー得意げ」

「何かあれば電話しろ。校舎内はあんまりウロつくなよ。ま、運動部員に扮していればまずバレないが」

「あーい」


 妹は校門を通ると走って行った。どんだけ元気なんだ。

 俺はとりあえず薔薇園に行ってみることにした。

 思い返してみれば学校のどこに行けばいいのかわからない。一方的に切りやがったからな、あの毒舌薔薇。せめてどこで待ち合わせかくらい教えてから切れよな。

 しんとした校舎に入り、俺は薔薇園へと向かった。やつがいるとすればそこだろう。


 薔薇園のドアを開けると案の定、制服姿のアリナがいた。


「すげえ、制服着てる」

「すごいわ、あんた服を着れるのね」

「その褒め言葉は原始人ぐらいしか喜ばねぇぞ。制服着るのが面倒だったから運動部員になりきってんだよ」

「ただえさえダンゴムシと間違われやすいのに運動部員になりきるなんて無謀ね」


 言い合いになるとまずこいつには勝てない。


「これからどうすりゃいいんだ」

「赤草先生のところに行くわ。それからよ」


 静かな校内に2人の足音が奥まで響く。無言のまま歩き、俺たちは職員室に到着した。


「赤草先生。連れてきました」

「あら、ありがとう。彗くんごめんね、休日なのに」

「いえいえ、先生のためですから」


 アリナはケッと不快感をあらわにする。

 

「で、何をすればいいんです?」

「保健室のモノをちょっと移動させたいの」

「え。なるほど」


 それだけのために俺は学校に来たのか。死にてえ。

 アリナは嫌な顔一つせず「わかりました」と同意した。こいつはなぜこうもわたくしと態度が違うのでしょうか。


 帰りてえ。


 そんな願望を赤草先生に言えるわけもなく、俺らは早速保健室に向かった。

 保健室の鍵を開けると赤草先生は早速指示した。


「まず彗くん、これを職員室前まで持って行ってくれる?」

「はい」


 小さめの本棚を一つ抱えて階段を登る。

 なんでこんなことしてんだ! 休日に学校の掃除をするくらいなら自室の掃除をしたい。

 しかしアリナはなぜ来ようと思ったのか。あいつなら絶対に断る仕事だろう。なのに来たということは、やはりアリナは赤草先生に弱いようだ。違う意味で俺も弱いが。

 職員室の入り口付近に棚を置き、再び保健室へ。

 ドアが閉められていたので開ける。


「先生、置いておきましたよ。次はなんすか」


 俺の身体は鉛みたいに固まった。アリナが着替えてたとか赤草先生が脱いでたとかそんなんじゃない。


 アリナの様子がおかしい。


 キッとした威圧感のあるアリナではなく、ふんわりした雰囲気のアリナが椅子に座っていた。一瞬アリナに似た誰かかと思った。

 しかも俺を見て不機嫌になるどころか会釈までしてきた。

 今まで出会い頭に罵倒から始まっていたというのに、俺に対して親しみと敬意を見せたのだ。こんなことはありえない。一生涯のうちにエイリアンと出会う可能性の方がまだありえる。

 

「な、なんだよ。気味悪いな」

「はじめまして。日羽アリナです」


 はじめまして。初めて会ったときの言葉。最初のコミュニケーション。

 彼女の声はとても透き通っていて、とても優しかった。

 でも知ってる声だ。ただ口調と喋り方が違うだけ。

 

 それでも日羽アリナだと思うことができなかった。

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