アレは途方に暮れる
さて、アレ扱いされているヒロイン、・・・・・あれれぇ?名前忘れちゃった!
しょうがないからアレのまま進める。改めてアレだが・・・
困惑していた。
もう、始業式から『チヤホヤモテモテ人生』がスタートするはずだった。
なのに・・・攻略対象の4人から攻撃されるとは?
ヒロインは色々省くが『とある』出来事がきっかけで、この学園に編入が許された。
たった1年だけの勉学となるが、学費は『とある』所が払ってくれるので心配はなかった。
多分ここを卒業したらその『とある』ところに召し抱えられる事になるのだろう。
せっかく学園に入学するのだ、1年間楽しもう!
確か王子様達とは同い年、同級生ということは、同じクラスになれるかも?
・・と、この頃はこの程度だった。
アレの住む街で、かの有名な学園『ローズガーデンゲート』に入学するのはアレが初、街始まって以来の快挙!とみんな大喜びだった。『街の人気者』だったアレの為、何と皆がお祝い会を開いてくれた。
彼女は孤児で、街の教会のシスターに引き取られて育った。
街の住民は毎週お祈りに来るので、彼女のことを知る人は多かった。
ちょっとしたお祭り状態で、多くの人々にお祝いを言われ、まさに人生絶好調な状況だった。
そのパーティーのお喋りで、同級生となる王子様達の噂話を聞く事になる。
なんでも婚約者達というのが酷い意地悪なお嬢様で、気に入らない子を容赦なく虐めるそうだ。
傲慢で王子様達も嫌っているが、家との繋がりだから我慢していると。
お嬢様達にいじめられないように、気を付けろと心配されたのだった。
「まあ、なんて可哀想に」
貴族も大変ね。本当庶民で良かった。
この時もそれほど気にしていなかったが。
新学期の始業式、アレは期待を胸に初登校する。
そこで見かけるのだ。
素晴らしく美しい王子、そして高位貴族の御学友達を。
制服のバッジが同じ色。つまり、同じ3年生!
なんて素敵な方々なの・・同じ3年生・・お友達に、いや。
・・・恋人になりたい・・・
彼らの隣に婚約者がいるのを見て、彼女らの顔を・・自分の顔に挿げ替えて妄想をした。
うん。どの殿方の隣にも、あたしはつり合うではないか。だってあたし、こんなに可愛いんだもん!
酷い婚約者達だそうだから、あたしがお友達になって励ましてあげよう!
そして・・・あたしは庶民だから、そうね・・愛してくれるなら側室や愛人でも良いかな?
お金持ちだもん、贅沢させてくれるよね!
とまあ図々しい・・いや、この世界の娘なら、5人に1人くらいこんな考えを思い付くだろう。
でも想像で終わるのが普通。男子高校生の世界なら、アイドルや俳優に恋するようなものか?
学園の校風で『身分は関係なく、共に競い合い、友情を育む』とあるのだから。
王子様達とお友達に!と、俄然親しくなる気満々だった。友達よりも先の関係を望んでいるところは厚かましい。
友情・・いや、流石にそれをそのまま真に受ける者はいない。
やはり庶民と貴族では、なんだかんだで隔たりがある。
もちろん全く友情が無いとは言わないが、常識の範囲程度の付き合いだ。
と言うか、この学園に庶民は全校合わせても5人程度、その庶民も大金持ちの商家だ。
アレのように完全庶民はアレだけ。
ドキドキワクワク、期待を胸に秘め教室に入ると・・先ほど見掛けた王子様に御学友達がいるではないか!
同じクラスになれたのが嬉しくて、思い切り可愛く挨拶をしちゃおう!気合バッチリの第一声・・
が。
突然、王子様達がアレに向けて『障壁結界』を張り巡らしたのだ!
彼らの表情は・・・まるで魔物を見るようにアレを睨んでいる。
「君!どういうつもりか?高レベルの魅了を撒き散らすなど!!」
「魅了は攻撃魔法だ。君、もしかして俺たちを敵と思っているのか?」
「仲良くしたいなら、普通にしろよな。不愉快な術使いやがって」
「君は誰でも彼でもそんな術を使うのかな?それに魅了って、異性に効果がある術じゃないか?もしかして彼女のいる男にまで、かけるつもりな訳?」
4人は口々にアレを弾劾したのだ。
(・・え。み、魅了?!な、何の事?)
アレは慌てた。気が動転しまくった。
クラス中が騒然となって、女生徒が立ち上がって、彼氏や婚約者に駆け寄る。
「アルフレア殿下!」
「リーン様!」
「ワッツ様・・」
「オニールん!」
彼らの婚約者も駆け寄った。すると、王子達は・・
蕩けそうな笑顔を彼女らに見せ、何か話している。その言葉を聞いて、婚約者達も嬉しそうに微笑んでいるのだ。
ええ?仲悪いんじゃなかったの?婚約破棄間際とかじゃなかったの?
あの噂、嘘だったの?
その後、彼らに何度か話しかけようとしても・・
無視!無視!!無視!!!
放課中は4人で固まっているし、昼食は婚約者か御学友で一丸となっている。
勇気を出して彼らに話しかけても無視、もしくは席を立ってどこかに行ってしまう。
初めて会った時に、魅了を出した疑い(いや出してたが、本人曰く『そんなつもりは』でノーカウントだそうだ)の所為なのか・・完全に嫌われている。
と言うか、クラス全員に避けられている。噂を聞いた別のクラス、そして1年、2年の女子にまで総スカンだ。だからずっとボッチだ。
街では彼女は人気者だった。笑顔で話しかければ、みんな親しくしてくれた。
つまり・・・意識していなかったが、魅了を使っていたのだと・・初めて知った。
校長室ではお説教というよりも・・脅しだった。
王宮からは宰相次官が数人の護衛とやって来て・・
『王子殿下、そして高位貴族の御子息方に、如何なる術も使うのは罷りならん。本来なら厳罰、死刑だったのだぞ』
見た目では優しげな紳士だったが、視線を向けられると心も脳も冷えた。身体もガタガタ震えた。
当然だ、王子・・未来の王だけでなく、その側近候補達に術を掛けようとしたのだから。
『お前は彼らに魅了を使ったそうだな。まだ17歳で・・・末恐ろしい娘だ。だが流石我が国を担う彼等は、お前の姦計に気付いたのだから何とも頼もしい。いいか。このような謀、二度とするでないぞ』
そして校長に、
『この娘、才能はあるようだ。今回は大事にはしないが、十分に監督するように』
指示をして帰っていった。その後、校長にも厳重注意を2時間にわたって聞かされたのだった。
(何よ・・魅了って・・)
悪い事をしたつもりは無かった。ただ、可愛い、良い子だと思われたかった。
いつものように『かわいい!』と思われる様な挨拶をしただけだった。
悪いって知ってたら、知ってたら・・ダメだ。
知ってても、どうやったら魅了無しの挨拶が出来るの?
笑うと魅了になっちゃうの?
どうすれば良いの?
でも。
このままではいけない。
・・謝ろう。
あたし知らなかったって。
使っていたの、気づかなかったって。
悪いことした訳でないのに謝るのは、ちょっとシャクだけど。
でも相手は王子様と高位貴族の御子息だもん。
謝って、王子様達が赦してくれれば、何とかなる筈。
そして改めて、お友達になってもらうのだ。
もしかしたら起死回生、お友達から恋人になれるかもしれないではないか?
お妃は面倒だから、側室とか愛人とか。
きっと良い暮らしが出来る、『とある』所で働かなくて良くなる!
どうしてこんな考えに至るようになったのだろう。反省もしていなかった。
アレはこの時も『謝ればなんとかなる、あたしなら恋人になれる』と本気で思っていた。
あれから数ヶ月・・
まだ謝れてない。
明日から夏休みだ。
結局婚約令嬢達と『仲が悪く婚約破棄も近い』という噂だが・・
王子様は婚約者と睦まじくしている。このあいだは二人でお茶を、本を読み合って談笑しているところを見た。
御学友の子息達も、婚約者と行動しているのをちょくちょく見かける。
噂をつなぎ合わせると、婚約者のご令嬢達も前は意地悪だったが、今は改心したそうだ。
ひとり学園の廊下を歩いていると、女生徒達が井戸端会議ならぬ階段の踊り場会議中。
「ナタリィ様が昔の事を謝ってくださったの!殿下とうまく行っていなくて八つ当たりしてしまったって。ちょっと迷惑ではあるけど、あんなに可愛らしい仕草で言われたら、許したくなってしまったわ」
「私はフラーウ様に」
「まあ!私はモーリン様よ」
「サイファ様が私達に謝るとは思わなかったわ。でも私達もちょっと酷かったものね」
「ええ。お互い様なところもあったもの。私たちも反省しなくちゃ」
「私だったら謝るなんてできないわ。本当に素晴らしいわ」
婚約者達は、以前の行いを鑑みて大いに反省したそうだが、なかなか謝る事が出来なかった、本当に申し訳なかったと告げると、頭を下げたのだというではないか!
こうして4人の婚約者は、概ね貴族令嬢達に赦されたそうだ。
聞いていた意地悪も確かに本当の話だったが、和解して過去の話になっていた。
何よ・・・
チャンスだと思ったのに!
上手くいけば王子、高位貴族・・いやそこまで高望みはしなくても、程々地位のある貴族か豪商の息子の恋人くらいにはなれたかもしれないのに。
・・・おっと。
そういう欲深い所は、反省しよう。(少しは反省している?)
教室で、人目がある場所で、王子達に謝って赦して貰わなくちゃ。
王子様達に許して貰ったってアピールするの。そうすれば、今のような無視状態から抜け出せる筈。
このままではひとりで卒業を迎える事になってしまう。
日が経てば立つほど不利になる。
なのに・・・全然話を聞いてもらえない。
歴史のレポートを提出する課題が出たあの日、図書室に行くオニール様に取り縋って、やっと話を聞いて貰えたかと思ったら軽蔑の眼差しで睨まれて。
「何で付いてくるのさブス。俺は君と一緒の所を誰にも見られたくないんだ。サイファに見られたら・・彼女が泣いてしまう。君はね、それだけの事をしたんだ。分かってるか?本当、信じられないよ。無差別攻撃の魅了って。性根が本当、ブスなんだな。庶民は心の腐った奴をブスって言うんだろう?」
そして歩みを早め、彼は立ち去ってしまった。
その後、他の人達にも何度も何度も試すけれど・・・無視。
「何でよ・・・何でなのよ・・・」
黒い霧のようなモノが影から湧き出していた事に、アレは気付いていない。
続く>>
追加修正どんどこどん