意地悪な意地悪には意地悪で
5月のスチルをすっ飛ばし、6月。
6月のスチルは雨。
一体これはどこなんだ?背景はどこかの建物の窓際、外は雨。
『雨が好きよ。静かで、なんか落ち着く・・あなたと一緒だからかな・・』
とかアレがほざく。
「雨なんか鬱陶しいだけですな」
「ジメジメしてるし」
「なんでジメジメ鬱陶しいのにアレと一緒におらんとあかんのだ」
「マジ勘弁だ・・」
何故4人がここまでアレを嫌うかといえば、本命、我らの嫁が不幸になるからだ。
婚約破棄からの不幸・・彼女らに待ち受けるのは修道院送り?牢屋に収監?たったひとり国外追放?まさか暗殺?
冗談じゃない!
このゲームで、アレは彼ら4人を侍らせる逆ハーエンドを狙える。ふしだら!!と思うだろう?
ところが・・男キャラもなんと!ハーレムエンドが狙えるのだ!友人達の婚約者に、自分の婚約者がいじめていた女の子達も恋人に出来るので、アレが4人に対して男キャラは最高8人を抱える事が出来るのだ。なんと不義理な!!
たった一人の女の子を幸せに出来ないで、何を手八丁に!数が多ければいいってもんじゃない!!
嫁を幸せにする!!それが彼らの達成目標である。
さて。6月にあるイベント?
7/ 自分の婚約者が意地悪をする噂を聞く 、というのがある・・意地悪?愛しの嫁が?心入れ替えた彼女らが?
しかもそのいじめられている子が、ハーレムエンドのメンバーの一人だとか。ここでこの子との好感度を上げると、エンド画面にこの子がプラスワンされる。いらんいらん!!と4人は首を左右にブンブン振る。
そんな事、させるものか!誰も近寄せなければいいのだ。自分のそばに置く。嫁を守る。
4人が婚約令嬢を隣に置く事が出来るのは、学園内だけ。寮に戻った後が問題なのだ。
いつもの図書館2階の会議室に集まり、対策会議だ。オニールが議長、黒板に『嫁を守るには!?』と、チョークをカカカッと音を立てて書き込む。
「嫁を守る会議を始めたいと思う!サイファが、お前らの嫁が、意地悪をする?今は改心し、反省している嫁が?俺たちと仲良くしているのに、わざわざまた俺たちと揉めるような事をすると思うか?」
「「「否!!!」」」
「そうだ!たぶん、アレに彼女らは嵌められるのだ!!前は確かにいじめをしていた!ここでまた意地悪をしたという噂が流れたら、『ああ、やっぱり。性根は治らない』とか、悪評が広まって彼女達を苦しめるだろう!」
オニールが黒板をバン!!と叩くと、残り3人も口を一文字に引き締め、深く頷く。
「どうやったら彼女らを守れるか!みんな、何かいい案はあるか?」
と、オニールはぐるりと皆を見渡す。アルフレアは申し訳なさそうな声で俯く。
「オレは王家の人間だが、おいそれと暗部(王家の諜報部隊)を動かせない。王家だからこそ、私利私欲での行動が許されない・・くそっ」
「そうだな。流石に暗部はやりすぎと言われるだろうな」
「ゲームを知る俺たちには、これから彼女らに降りかかる事が分かるけど・・起こらないように出来ないものか」
「ああ・・どうすればいいんだ・・フラーウ・・」
「おい、リーンブルグ。顔色悪いぞ。まるで石像みたいだ」
魔法使いでインドア派のリーンブルグは、元々肌が色白だ。なので余計に石像のようだ。
「もう心配で心配で・・俺の方が眠れなくなってるよ」
案外悪役令嬢だった彼女らは、この程度の噂など意外と気にしないかもしれないが、まわりが彼女らに対して悪い感情を再燃させるのが嫌なのだ。せっかく親しい人たちも増えたところなのに!楽しげにおしゃべりする彼女らが、またぽつんとひとりでいる・・寂しそうな顔を見たくなかった。
「おいおいワッツ。確かに青白いけど、石像って言い過ぎ・・・はっ!!」
アルフレアがガタンと音を立てて立ち上がった。
「どうしたアルフレア?」
「・・その手があったか!」
そして彼が語る謀に、3人は聞き入るのだった。
「アルフレア様、どうされましたの?」
「ああ、ナタリィ・・実は神託があってね」
「神託、ですか?」
次の日の朝、教室に入ってきたナタリィを呼び出したアルフレアは校内の礼拝堂に二人で向かい、女神像の前に着くと真剣な面持ちで語り始めた。
「そうなんだ・・ナタリィ、君に何か悪い事が起きる・・女神様のお告げがあったんだ」
「悪い事ですって?な、なにが起きるのでしょう」
これは昨日会議室で計画した『嫁をひとりにしない作戦』のシナリオ・・
夢で女神が『彼女(達)に悪い事が起きる』とお告げをした。寮ではひとりでいないようにと約束させるのだ。
婚約令嬢達4人で固まって、寝る時も一緒に過ごすように。
リーンブルグ、ワッツ、オニールも別々の場所で婚約令嬢達に同じ内容の話をして彼女達に一緒にいろと説得をした。
・・・こんな微妙な作戦に、婚約令嬢達はノってくれた。4人のいう事を聞いてくれたのだ。
婚約令嬢は言われた通り、寮に戻ると4人で行動をすることにした。
そしてそれぞれの婚約者達が『お告げ』を話した事を知ると、『お告げは本当なのね!』と・・チョロい。
結果。言われた通り、4人で一緒にいたので7番目のイベントは起こらなかった。おまけに4人の婚約令嬢は今までだって仲は悪くなかったが、より仲良しとなったのだった。
なので、四組のグループでお出かけをしたりするようにもなった。嫁達がわちゃわちゃと楽しげにしているのを見ているだけで、幸せな気持ちになった!
夏休みにみんなでお祭り、海水浴に行こうと計画も立てる仲良しさんな嫁達を見て、『ああ、悪評が立たなくて本当に良かった』と男共は安堵するのだった。
それからおなじみ月末スペシャルランチも皆でいただいた!今回はオムライス。ケチャップは自分でかけるスタイル。
それぞれの婚約令嬢が彼らのオムライスに絞ってくれる。
アルフレアのオムライスには、大きな赤いハートに両翼が生えている。お返しに、アルフレアはナタリィのオムライスに真っ赤なリボンを描いた。本日彼女の髪には大きなリボン。
リーンブルグのオムライスにはメガネが描き込まれた。フラーウは楽しげに絞り出していく。
彼からのお返しは、ビャビャビャ〜と斜線でオムライスがすっかり真っ赤。フラーウはケチャップが好きなのでこれで良し。
ワッツのオムライスは『ワッツ様』と名前を書かれた。彼もお返しに名前、『モ〜♡〜リン』と伸ばす真ん中をハートにして書いたら、ハートの部分だけなかなか食べず最後まで残った。彼女のお顔はほんのり紅色に染まっていた。
オニールのオムライスに、サイファは剣を描いた・・つもりだった。でもどう見てもイモムシ。
「け・・剣を描いたんだけど・・失敗・・」
しょげる嫁ににかっとオニールは笑い掛けて、彼女のオムライスにケチャップで馬を描いた。これがまた上手いのだ。
「今度馬で遠乗りしよう」
「うん・・でも上手い・・ん?うまい・・・馬い・・んもう!」
「ははは!」
ラブラブが止まりません!ノンストップラブ!!
楽しげにしている彼らを見つめる・・いや凝視だ。じと〜〜〜っとした梅雨のような鬱陶しい視線。でも全く気にしていない。いや、気にしたら負けだ!!男どもはそちらへ視線を向ける事は無かった。
6月・梅雨のスチルも遠ざける事が出来、4人はスカルドラゴンを倒すための経験値稼ぎをコツコツとこなしつつ、未来の嫁との好感度も上げる日々。
そしてやって来ました夏休み!
前に計画していた通り、国内外を見ても類を見ない大祭である『ザーフェス王国祭』に8人は繰り出すことにした。
アルフレアはなんたって王太子、昼に行われる王族のパレードに参加しなくてはならない。なので夕方集まる事となった。
夕方には魔法で煌めくイルミネーションが点灯するし、夜には花火大会。夜店も大通りにずらりと並ぶ。
「すまない、待たせたな。ナタリィ、ごめんね」
「いいえ、アルフ様お疲れ様です」
・・気がついただろうか。ナタリィ嬢、『アルフ様』呼びになっている!
もちろん男どもも気付きましたとも!!にやにやとアルフレアを見てくるので、彼は照れ臭くなってこほん、と咳払いをして誤魔化す。
王太子とバレないように服も平民風に着替え、ターバン風の帽子をかぶっている。他の皆も高位貴族に見えないような服にしている。
バレないよう、お忍び・・まあ実のところバレているのだが、国民は王太子が楽しそうにしているのを邪魔するつもりはない。
ナタリィと一緒にいるのもバレている。仲睦まじい婚約者カップルにチョッカイをかける者には天誅を。
と、暖かく見守っている。
「まあ、偶然ですね!アルフ・・むぐ」
「ん?」
誰かに・・というかアレの声がした気がして振り返るが、お祭り客がワイワイと楽しげに騒いでいるだけ。
思い出すのも不愉快、アルフレアはナタリィを引き寄せて射的の店に向かう。
「おーい、射的行くぞー」
「「「おー!」」」
あのぬいぐるみ、取るからね
俺は3つ落とす!
オニ〜ルん、負けないからね!
楽しげに去って行く彼らを睨むのは・・お分かりの通りアレだ。アレは口を塞がれている。
アルフレアの警護をしている女性親衛隊員は、ようやく口から手を離した。
『アルフレア様達を邪魔するでない』、そう言い残して人ごみに消えてしまった。
もしもの時のために、アルフレアが用意していた護衛である。
また近寄れば邪魔をしてくるだろう。アレはそばに行くのを諦めるしかない。
どん、どん・・ぱぱぱ・・・
花火の音が聞こえると、人混みはそちらに動き出す。
アレとの7月のスチル・・夏祭り。
これもすっ飛ばされた。4人にとっては実に喜ばしい。
「なんで・・なんでこうもうまくいかないの?」
アレは体を震わせ、呻く様に呟いた。
続く>>
追加修正ガリガリ!




