スペシャルランチのデザートはプリン
本棚に隠れているアレの視線を感じた4人は、お互いの顔を見合わせて・・
(無視だ、無視無視)
(え?虫?害虫?)
(蟲ね。突然湧いて出るもんなぁ)
(はいはい!うまいうまい!!さぁ〜〜さっさとすませて、レポート纏めるわよ〜!)
(((う〜〜す)))
先ほど取った『秘密のメモ』『謎の鍵』を使って、『秘密のメモ』にある隠し扉を見つけ、『謎の鍵』で開けて中にある『王室秘話』の中に書いてある『呪われしドラゴン(スカルドラゴンの事)の特徴』を書き写し、4人は教室に戻ると机4つをくっ付け、班状態にしてレポートを纏めていると・・
「ねえ、その本みせてくれない?」
聞き覚えのある声がした。
見なくても分かる。ゲームプレイ中、うんざりするくらい聞いたから。嫁(恋しい)よりも聞いた。聞きたく無いのに聞かされた、呪われし声だ。人気声優で、彼女がアテる主人公が可愛いアニメも好きだった。『だった』、そう。今はその声のせいでアニメも嫌いになった。
『声優悪く無いやろ?』と言われても、もう生理的に受け付けなくなったのだ。とんだ弊害である。
それはさておき、アレに返事を誰もしない。
(俺はレポートに夢中で、聞こえない、聞こえない。誰か返事しろ)
と、4人は各々思っている。
自分は対応したく無いだけ、意地悪をするつもりは無い。
ただ・・俺達と嫁達に害なすつもりなら、アレは排除だと。
この優しげで温もりある・・感じの声。だが誤るな、これは聞いたら死ぬマンドラゴラ。
アレは、俺達が王子で公爵で侯爵で辺境伯だから話しかけて来るのだ。
他にも周りに人が居るのに、ピンポイントでこっちにやって来た。食べ物に集るハエのようだ。
彼らの不機嫌は、アレの無礼で馴れ馴れしい態度に、だ。俺達は高位貴族でアレは庶民。
何が「その本見せてくれない?」だ。
俺達の可愛い婚約令嬢達なら、「見せていただいてもよろしいかしら?」だ。
口の利き方も知らん無礼者に、なぜこっちが合わせねばならんのだ。
だから無視してレポートを纏める。
アレは俺たちの側でじーっと見つめて待っている。
見るな。減る。
周りの生徒達もこの状況に気づいたようで、遠巻きに見て静観している。そっと彼らの表情を盗み見てみると『あー・・殿下達厄介なことになっている』って顔している。でも彼らにどうにかしてもらおうとは思わないからいいのだ。
うん、良い心がけだ。そのまま静観してて欲しい。間違っても助け舟なんか出すなよ。それよりも無視無視・・
より集中して、レポートが進む進む・・・
「出来た」
「俺も。チェックしてくれるか」
「オレも出来た」
「じゃ、右に回して」
レポートを右側に座る者に渡してチェック・・まだいるのかアレは。
4人は未だ無視し、レポート熟読・・・・照合、校正。
「誤字脱字なし、おかしな文も無し」
「こっちも」
「同じく」
「じゃ、提出するだけだな」
4人全員で席を立つ。・・しつこいな、まだいる。
「あ、あのっ!本を」
「うん?本は一旦図書室に返すから、あちらで借り直してくれないか?」
「えー(面倒・・)」
「(面倒言ったぞアレ)本を又貸ししたら、本の所在が分からなくなるだろう?ルールは守ろうな」
そしてオニールが『俺が返してくる』と本を持ち、図書室に向かう。
アレは慌ててオニールを追って行った。まずはオニールを落とすつもりか。
奴は4人の中で一番出来る子だぞ。しかも鋼メンタルだ・・3人はニヤニヤしてアレの後ろ姿を見送る。
「アレの図々しさには驚きしかありませんなぁ。オニールをどうにか出来ると思っているのかねぇ」
「オニールは出来る子です。そっと結界を張っていたし」
「『ブスって言う』って言ってたけど、どう思う?」
「・・・言うに金貨2枚」
「言わないに金貨1枚。あいつ基本紳士だし」
「言って言って言いまくるに金貨5枚」
そして数分後。オニールが帰ってきた。
結果はワッツの大勝利だった。
言って言ってって言いまくり、半泣きにしたと。
「「「やっぱお前が勇者だオニール!!」」」
そしてオニールは安定の『まあまあ』と手で会釈。
しばらくして、アレがグスグスべそをかいて戻ってきた。
・・数日後、本日4月30日!!月末スチルの日だ!!
4人は図書館の2階にある会議室にいた。
「いよいよ来ちゃいましたですぞ!月末スチルの日ですぞ!」
「おい。アルフレア、お前いつ『ですぞ』キャラになったんだ?」
「ふふ、それよりも重要なのはスチルのような出来事が起こるか、ですぞ」
「確かに、由々しき事態・・ですぞ」
「そうですぞ」
「うっわっ!面倒だな、お前ら!」
「(ノれ)ですぞ」
「(ノリが悪いな、オニールん)ですぞですぞ」
「です三」
「ブハッ!ばっか!本当にお前らって馬鹿!!」
「んも〜、ノリが悪いわよぉ〜オニールん」
「この姿でバカしてんの見られたら拙いよな」
「でも息抜きは必要だよな!」
そう。4人ともこんなにハンサムなのに、前世の男子高校生気質が時々まろび出る。
パンパン。
オニールが手を叩いた。
「はい静粛に!諸君、現実逃避の時間は終わった」
「相変わらず出来る子ですな、オニールんは」
「オニールん〜(濁声)」
「オニ〜ルん〜〜(ド低音)」
「うるさい。その呼び名はサイファだけに許可しているから」
「「「ほ〜い」」」
「さて!集まっていただいたのは他でもない!第一回月末スチル会議、始めますぞ」
「「「「ぱふぱふぱふ〜〜〜(ラッパ音)」」」」
アルフレアは黒板に『第一回月末スチル会議』と書くと、3人の方を向く。
「皆、4月のスチルを思い出してくれ!」
「やだ。あのウザい顔を思い出させないでよぅ〜」
「そうじゃ無い、背景だ。背景を思い出すんだよ」
「ん〜〜〜・・たしか・・食堂っぽかったですぞ」
「校買にもプリンは売っているし、食堂でも売ってたな。でもあんなプリンだったっけ?」
スチルのプリンは綺麗な皿に盛り付けられ、生クリームのデコレーションにさくらんぼが乗っていた。
「食堂で売ってるプリンにはなかったような・・」
「まあ、食堂に行かなけりゃ良いんでは?」
「昼抜き?腹が減る・・困りましたな」
「それに月末はあの!!『スペシャルランチ』が出るんだぞ」
「高位貴族様のお眼鏡に叶うレベルのな」
「しかも価格は破格」
「そしてデザート付き・・・はっ!!」
皆気がついた!4人で一斉に立ち上がった!!
アレのプリンは、スペシャルランチのデザートのプリンだと!!つまりスチル回避は食堂に行くなと?
「い、いやじゃ〜〜。転生したらやりたい事ランク2位、スペシャルランチ毎月全制覇がぁ〜〜」
「あれゲームグラフィックでも出てたけど、本当うまそうだったもんな・・・」
「最初の4月ランチ、どしょっぱなから食べられないなんて・・」
「俺も実は楽しみにしていたんだ・・」
すくっとアルフレアは立ち上がった!!
そして両腕を上に掲げ、神を仰ぐようなポーズ。顔は恍惚としている・・
「こ、これは・・神が与えた祝福!皆の者、婚約者をお食事に誘うのですぞ!!」
「お、おおおお・・・そうか。俺のプリンをフラーウに。フラーウのプリンを俺に」
「まさしくプリンのシーソーゲーム!前話していたことを実践ということか!!」
「あかん・・・午後の授業、マジ魂抜けてるわ・・・」
「では会議終了!!各自嫁(嫁はプリン!スウィーツ!)にランチの申し込みをするのですぞ!」
「「「おおおっ!!」」」
「そしてノルマは!!嫁からアーンして食べさせて貰うっ!!ですぞっ!!」
「「「「うおおおおおお!!」」」」
4人は会議室を出て、『廊下を走るな』の張り紙が吹っ飛ぶ勢いで廊下を駆け抜け、婚約者の元へ各々向かう。
先陣は未来の王、アルフレアだ。
「やあナタリィ、今日は楽しみにしていたスペシャルランチの日なんだ。たまには一緒にどうかな」
「アルフレア殿下・・よろしいのですの?」
「勿論。私はプリンに目が無くてね」
「プリンですの?」
「そう、プリン」
「くす・・良いですわよ」
ほんのり頬が染まって、可愛い嫁に、殿下は満足そうにニコッと笑う。
まあ、アルフレア殿下ったら、可愛い。プリンが好き・・ふむふむ。
婚約者のナタリィは、心のメモに書き記したのだった。
お次はリーンブルグとフラーウ。
「リーン様、どしたの?」
「今日は一緒にランチはどうだ?」
「ランチ!」
「どうする?奢るぞ」
「行く!奢らなくても良いけど」
「なんでも聞いた話によると、男は彼女に食事を奢るものなんだそうだ」
そしてニヤッと笑った。鬼畜眼鏡のニヒルな笑みに、フラーウさんは顔が真っ赤。
彼女!彼女って言ったぁ!!ゔれじぃ・・
「みゃああ!!・・行きますぅ・・ぼそっ(リーン様鬼畜眼鏡なお顔立ちですぅ・・素敵だけど)」
「ん?鬼畜?」
「みゃあ、なんでもありませんっ!」
ワッツとモーリンは、落ち着きの佇まい。
二人は教室の窓際に並んでいる。
「モーリン、たまには一緒に昼を過ごさないか?ランチでも」
「まあ・・よろしいんですの?」
「こうして一緒なんて、あまりしていなかったからな。このままでは、俺は君に見放されてしまうと危機を感じた、まあそう言うわけだ」
少し目を細めて微笑んだ。
「・・・嬉しい。あの、今日はスペシャルランチの日ですね。私、デザートがいつも楽しみですの」
「そうか!奇遇だな。俺も好きなんだ。今回は何か知っているか?」
モーリンは人差し指を唇に当てて「しーーっ」と呟く。
「楽しみなので、内緒にしてくださいね?」
「・・・ああ、内緒、だな」
なんか二人だけの『内緒』に、ちょっと照れて頬が染まる2人だった。
最後は出来る子、オニールんだ。
サイファは席に着いて本を読んでいた。
「おーい、サイファ。今日ランチしないか?」
「ランチ?」
「月末のスペシャルランチ」
「わー。良いの?」
「おう。奢ってやるぞ」
「・・・」
「ん?どうした?」
「ぐす」
サイファは瞳を潤ませて、ポタっと涙を落とす。
「お、おい。どうしたんだ」
「オニールん・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい、ぐすっ」
(これはいかん、彼女の泣き顔を晒す訳には)
オニールはサイファの手をとると、早歩きで教室を出る。
サイファもぐいぐい引っ張られ、一緒に出て行った。
少し離れた人通りの無い廊下、二人は壁に持たれて体育座り。
サイファはグスグスっと鼻をすすりながら、彼に今までの事を詫びた。
つっけんどんな態度をする貴族の女の子がいた。
自分より爵位が低い子だった。
礼儀を軽んじる態度を何度もされて、ついにキレた。
ここでガツンと言っておかなくては!だから凄くきつく注意した。
でも舐めた真似をされた。5〜6人で集まって陰口を言ってた。
反省してなかった。
オニールを馬鹿にする言い回しまでされて、頭にきて頬を叩いた。
もう、舐められてたまるか。
そして注意が叱責に、叱責が罵倒にとどんどんエスカレートした。
もう止まらなかった。止める気も無かった。
今まで舐めてくれたあの子たちも、私を恐れてびくついている。
それがとても・・・楽しかった。
楽しくて楽しくて仕方がなかった。
だが14歳、中等部3年生になって。
いつもの様に『なっていない』子を『注意』していたら、その子がみっともない泣き方をして、それがもう、おかしくて笑ったら・・
「あいつらは人間か?」
アルフレア様が、真っ青な顔で言ったのを聞いて、さあーーーっと憑物が消えるように冷静になって。
冷静になると、今まで仕出かしてきた事が急に頭の中でグルグル回って・・
(私、何してたの?!)
自分がしていた事が、あまりにも恐ろしくて、ただただ呆然として・・・
気がつくと、オニールは彼女と話す事も避ける様になっていた。
離れた所で目が合っても、さっと逸らして足早に去ってしまう。
今年で3年、17歳。
数年前からまともに会話も、『おはよう』といった挨拶すらしていない。
もう駄目かもしれない。
幼馴染で、いつだって一緒で・・我儘も怒らずきいてくれた。
だから調子に乗って・・
始業式の日、噴水で待ち合わせの手紙を送った。返事は来なかった。
だから、待っていないだろう。
待ち合わせの場所にいなかったら婚約を破棄してもらおう。
私が悪かったんだから。オニールんは悪くない。
行ったらね。居たの。オニールん。
『行こうか』と、手を引かれて教室に向かって。
手を繋ぐなんて何年ぶりだろう。
そして『魅了』事件でも、
「大丈夫だって。魅了で俺たちがどうこうなんて無いだろ?付き合いも長いしさ」
なんてさらっと言うし。
二人でお買い物も楽しかった。本当、昔に戻った様だった。
剣も選んでもらって、乗馬用鞭も見てくれて。
そして今日・・ランチに誘ってくれた!物凄く久しぶりで・・嬉しくて。
「オニールん、ごめんなさいごめんなさい・・うえぇえん・・」
「サイファ。ちゃんと謝る事が出来る様になって、本当良かった」
「怒ってる?」
「俺はまあ・・苦労したんだな」
「?」
「またはっちゃけたら、俺がちゃんと叱ってやるから。自制もしようね」
「うん」
「もう反省タイムは終了!ランチ、楽しみだな」
「ううっ・・オニールんーー!!」
「うわぁ」
サイファが飛びついたので、オニール共々床に転がったのだった。
転がった格好で、オニールは笑う。
「うん!サイファが一番良い子だ!ちゃんと気がついて謝れる!俺のよ・婚約者が最高!」
嫁と言うのは我慢した。
出来る子の嫁も出来る、これ当然。
この世界の時間割は、午前3科目、昼食&昼休み、午後2科目。
今午前の科目が終わって、昼休憩の鐘が鳴った。
「あの」
誰かが声を掛けて来たが、こっちは先約がある。瞬時に席を立ち、エスコートする相手にお声がけだ。
「ナタリィ」
「フラーウ」
「モーリン」
「サイファ」
それぞれの相手の手を取り、いざ!食堂の月末スペシャルランチ!
まだ後ろにアレの気配があるので、早歩きになるのは仕方が無い!
そしてノルマ『嫁(蕩けます)にアーンしてプリンを食べさせて貰う』を皆達成!!
ついでに『俺達が嫁(プル〜ン)にアーンしてプリンを食べさせる』も達成した!
愛は異世界を巡るのだ!
続く>>
追加修正もガンガン入れていきます。