アレ来たる
教室に入り、転生男子達も婚約令嬢達もそれぞれ席に着く。婚約令嬢達はまだちょっと涙目だ。
もう馬鹿な真似はしない。彼の傍に居られない苦しみが、こんなに辛いとは思わなかった。
自分がどれだけ彼を好きなのかも知った。
今までの愚かな自分を反省し、愛される努力をしようと心に誓うのだった。
さて、婚約者達の懺悔を知らない男4人だが、いよいよ遭遇する人間厄災に向けて気を引き締めていた。
もうすぐ・・・アレは朝のホームルームに現れる。『転入生だ』と先生に紹介され・・そして!!
何はともあれ・・
俺たちは愛しい婚約者達を守れば良いのだ!
「いいか、話しかけられても無視だぞ」
「当然!」
「聞こえないフリをする」
「ブスって言う」
「「「!!!」」」
残り3人はオニールの勇者的発言に目から鱗だ。
「それ!採用!」
「いいね。さっさと心えぐるのは良い手だ」
「俺は・・・モーリンとイチャイチャしてお前の付け入る隙は無いと猛アピールする」
清々しい笑顔で宣言するワッツを、残り3人がガン見する。
「はうっ!!な、なんて・・・計算高い」
「よく街で見かけたバカップルをやってみる。というか、やってみたかった」
「俺も俺もーー!!」
「うふ、ふふ。人前でイチャイチャするのは・・背徳感もあって・・燃えるね」
酷いと言わば言え。
本命彼女とのラブラブの為なら、男は非道にもなれるのだ。
さあ。
ここからが、本番だ。
いよいよヒロインが教室に入ってくる・・
リーンゴーン・・
始業の鐘が鳴って暫くして、担任のヒューイ先生が入ってきた。
王族で主席のアルフレアが、
「起立!礼!着席!」
と号令をし、全員起立、礼をして着席する。
「今日から3Aの担任となったヒューイだ。よろしく!さて早速だが」
ヒューイ先生が手招きをすると、ひとりの少女が教室に入ってきた。
「みんな、転入生だ。3年に編入の、シルフィーエ・ロンド君だ」
「初めまして!シルフィーエ・ロンドです!」
ニコッ!と愛想よく笑う女の子に、男共は静かにどよめく。
(可愛いな)
(おお、胸がおっきい)
概ね高評価のようだ。
対する女子は・・
(貴族じゃ無いわね)
(庶民って、こうなの?なんか・・男の子ばかりを見てるわ)
(声が・・コビ売ってる感じ)
あまり良い印象では無い。
そして選ばれし4人の男主人公達は・・防御態勢に入る!!
『シルフィって呼んでくださいね!』このセリフの後に・・攻撃が来る!!
ゲーム中でもアレが挨拶する場面で、淡いピンクの巨大なハートがドーン!と現れてしゅ〜と消えるエフェクトが入るのだ。すると男主人公達は「可愛い・・・」と、うつつを抜かしたセリフを吐くワケだ。
(俺たちは絶対そんなこと言わん、ゲーム補正だ!あのハートが原因か?)
転生前、4人で突き詰めた結果。
アレは『魅了』攻撃と判明したのだ。なので・・
「シルフィって呼んでく
アレが元気いっぱいに言い切る前に、
「やっべ!魅了来るぞ!防げ防げ!フィールド全開!!」
「うわっ、障壁結界!」
「おいそれ露骨!具現化しちゃうから!せめてシースルーとかに!」
「ウリャ!バリアーーー!!」
「それ魔法ちゃうやろ!」
え?アルフレア殿下達何喚いてるの?防御魔法?結界?
クラスみんなの視線が4人に集中する。
「あ、アルフレア殿下?」
「リーン様も?」
「どうされましたの?ワッツ様」
「オニールん!」
婚約者も呆然。目を瞬いて驚いている。
いつもの彼じゃ無い、そんな目でこちらを見ている!ついつい転生前みたくはしゃいでしまった!!
(やっば・・!)
すかさずキラキラキラキラキラキラ〜〜ン!!付きでポーズを決める!
「君!どういうつもりか?高レベルの魅了を撒き散らすなど!!」
すくっと席を立ち、未来の王アルフレアはビシィ!と手で制す。
さすが未来の王、格好つけるのが素早い。中身が転生高校生でも、身体はアルフレア。
ちゃんと王子仕様もこなせます。格好良く誤魔化しました。
日頃の信用と信頼MAXのアルフレア王子の台詞に、クラスメイトは騒然とした。そりゃあ驚くとも。なんたって魅了だ。
次にリーンブルグが席を立ち、クイッとメガネを中指で調整しつつ、
「魅了は攻撃魔法だ。君、もしかして俺たちを敵と思っているのか?」
ワッツは席を立たず、机を両手でばん!と叩く。
「仲良くしたいなら、普通にしろよな。不愉快な術使いやがって」
最後はオニール。首をゆるっと左右に振りつつ、手を『やれやれ』と持ち上げた。
「君は誰でも彼でもそんな術を使うのかな?それに魅了って、異性に効果がある術じゃないか!」
そして教室の皆をぐるりと見回して。
「このクラスには、婚約している奴もいるんだぞ。無差別に魅了をかけるなど、どういう魂胆だ!」
学園でも高位の貴族で、注目されている4人の言葉は殊更女生徒に衝撃を与えた。
クラスの中でお付き合いしているカップルもいる。婚約者がいる子もいる。
勿論、4人も婚約令嬢達と同じクラスだ。
危機を感じた女生徒は、お相手に駆け寄ってしがみ付いた。4人の婚約令嬢も彼らに駆け寄った。
「アルフレア殿下、大丈夫ですの?」
いつもクールで貴族然とした公女の、慌てる様が可愛い。
自分は本当に思われているんだなぁ、と喜ぶのも仕方が無いのだ。
「うふふ、心配してくれるの?ナタリィ。大丈夫、私の君への想いは揺るがないから」
スチルでも高評価を頂くスウィートスマイル、良い子良い子と頭を撫でると、婚約者は頬を染めて、
「もうっ」
プィッと明後日を向いてしまった。耳が赤い。困った、可愛すぎ!!
リーンブルグに駆け寄るフラーウは、泣き出しそうな顔だ。
「リーン様っ、リーン様っ!」
リーンブルグは身長が185センチに対し、フラーウは147センチ。片手でひょいと抱えて鷹匠のように『手乗りフラーウ』にして、近接攻撃、いや笑顔を向ける。
「俺が迷わないように、見ていてくれるか?」
「みゃああ、リーン様っ!!私を見ててくださいませっ!は、は・・離しませんっ」
そして彼の頭にギュウと抱きつくと、彼女のささやかな胸の谷間に顔が押し付けられれば今度はリーンブルグが真っ赤になった。
ワッツの婚約者はナタリィよりも冷静で、静々と彼の傍に立つ。
「ワッツ様・・」
もっと俺に抱きついてくれても良いんだけどな・・
ちらと婚約者の顔を見ると・・頬が薔薇色に染まっていて、瞳が潤んでいる。
彼女は本当、引っ込み思案で、奥手で、でも怒らすと怖い。
彼女の両手を両手で包み、両親指に唇を落とす。
「モーリン。俺は君を不安にさせてる?じゃあ、もっともっと、君に分かって貰得るようにしなくちゃいけないね。君が不安にならないように、俺も努力するから傍に居なくてはいけないよ」
「はい」
か細い声だが、返事をした。本当に奥手な彼女だから急立てず、焦らず待っていよう。
不意にモーリンは跪き、彼の手を引き寄せて顔を近付けると頬を寄せて・・柔らかく微笑んだ。
・・・・・・。うん。本当、大事にしよう。改めて決心したのだった。
オニールの婚約者は小さい頃からの付き合い、幼馴染だ。
気心も知れた友人だったが、父親同士が友人だったのでその流れで婚約した。
転生前の彼は彼女に対して愛情がなかったわけでは無いが、おてんばな彼女を将来の妻にするという気持ちには中々ならなかったようだ。
だが転生した辰雄は、この活発でボーイッシュなサイファに一目惚れをした。
明るくて、元気で、まるで青空のような気持ちの良い性根(悪役令嬢な部分もあるが)が気に入った。
「オニールん!!」
「う、わぁ?」
サイファがドーン!体当たりする様に抱きついた。
「・・・サイファ?」
「〜〜〜〜・・ぐす」
「・・・おやおや。サイファ、ベソかいてどうした?」
「・・大丈夫?」
「大丈夫だって。魅了で俺たちがどうこうなんて無いだろ?付き合いも長いしさ」
赤ん坊の頃からほぼ17年近く一緒だったから。
まあ、前の奴はずっと傍に居たサイファが悪役令嬢になって、余計に別の女の子と恋愛したいと思うようになっていたんだろうな。気持ちは分かるが、サイファと他の誰かを比べる事とか。間抜けだったな。
サイファは彼の腕に顔を押し付けて抱きついている。まだグスグスとべそをかく彼女を見て、彼は苦笑した。
おい、俺。サイファは俺が大事にするから安心しろ。
4人もだが、クラスのカップルも同じく愛を再確認していた。害が無くて良かったと4人もほっとした。
だってもう3年生、来年春には卒業、18歳ともなれば結婚する者もいるし、既に婚姻済みのカップルもいる。
彼ら4組も卒業後1〜2年以内には結婚予定だ。
教師も非常事態に顔を引き締め、パンパンと手を叩く。
「はい!!静粛に!!みんな、席について!・・ロンド君、職員室に来てくれるかな」
「え、あ・・はい・・」
戸惑うアレを連れ、担任は足早に教室を出て行った。多分校長室で説教だろう。
なんたって王太子や高位貴族がいる教室で『魅了』を使ったのだ。説教で済まないかもしれないが、知ったことか。
出来ればそのまま退学してくれれば良いと、4人は思った。
魅了は睡眠や痺れに匹敵する攻撃呪文だ。あんなもんクラスメイトにぶちかますとかおかしい。
なんであのゲームはシルフィーエをヒロインにしたんだ。本当訳分からん。
そして、なんでアレを必ず攻略しないといけないんだ。
俺たちは贅沢は言わない、いや、もう自分に決まった婚約者がいる時点で贅沢だ。しかも可愛い!
4人も5人も他人の彼女や婚約者を寝取ってまで増やす気は無いんだ。ハーレム拒否!!
「俺達は須く嫁だけを愛でたい!」
「ホンそれ・・・俺の婚約者と!!イチャラブさせてくれれば良いっ!!」
「もう何もしないでエンディング行ってくれても良いのよ?」
「うふー・・サイファにしがみつかれてしまったんじゃ〜。ふひひ胸の感触が・・」
こうして初日のイベント的なモノは終わった。
アレは結局退学はされなかったが、厳重注意されたようで、萎れて帰ってきた。罰が甘いぞ!!
無自覚無意識(と、アレは言い訳をしていた・・本当か?)とは言え、王太子に魅了を仕掛けた平民がその程度の罰で終わった・・確かゲームでも、アレを支援するなんか怪しげな組織があった。それの横槍かもしれない。
とにかく、注意喚起だ。
今回は魅了を喰らわなかったが、まだ油断するな。魅了ポイントはあと3回ある!
目指せ、婚約令嬢との、ハッピーエンド!!
続く>>
加筆修正ガンガン。




