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8月4日

ぼちぼち。

「おおおお!!」


アルフレアの大剣がざっくりとモンスターの眉間を叩きつけ、その重さと勢いで顔面が一文字に斬れ、斬撃はモンスターの身体を真っ二つにした。二つに分かれた体は左右に地面に音を立てて落ちた。


「百花繚乱!」


リーンブルグが放った火系魔法『百花繚乱』は、中型モンスター数体を一瞬で焼く。アイテムとして役に立たないモンスターを多数滅するのに便利な術だ。燃え滓も少ないのでダンジョンを汚さない&モンスターの餌にしないのも『花丸』だ。


「ここ!下に降りれるぞ!」


ワッツは最近索敵の才能を開花させた。ダウンジングで罠を見つけたり、ボスまでの最短の道筋も『分かっちゃう』のだ。元々飛行術にも長けているので、天井にある宝箱だの、仕込み罠だの、隠れているモンスターだの、『ワッツにおまかせ』である。


「先に行く!」


オニールがダッシュで隠し扉に突っ込んでいく。魁役はオニール担当だ。

勢いをつけ、ニードロップでひょっこり出くわしたモンスターを蹴り、吹っ飛ばす。

オニールは魔剣士だったが、最近は銃火器を仕込んだアックス『ファイヤーアームズ』、略してアームズを振り回し、囲むようにしてきた2メートルくらいのモンスター5体を瞬殺した。


「・・・なんなんだ、お前ら。強すぎ!ていうか、どうやってそんな鍛えたんだよ」


4人の後を付いていく若サージュ・・メイヂは半目で呟く・・

本日8月3日、5人はサージュ領最大のダンジョンに赴いていた。


「まあ、鍛えたけどね」

「そうだなー」

「頑張らなきゃいけなかったし」

「なんといっても・・」


4人は顔を見合わせ・・


「「「「嫁のために、強くなったんだ!!!!」」」」

「よめぇ〜〜?!」

「「「「そうっ!!!!嫁を守り、娶るために!!!!」」」」

「なんだそれぇ〜〜?!」

「「「「愛のためだ!!!!」」」」


しぃぃ・・・・ん


ざっ

ごががががっ!!!!


空気を読まない、いや読まないものだ・・モンスターが数体、こちらにやってきたが瞬殺で消えた。

ワッツが捕縛の術で足止めし、オニールがアームズで薙ぎ払い、アルフレアが大剣ででかいモンスターの首を飛ばし、リーンブルグが術で焼き消した。


「あっという間だな。本当にBランクか?」


呆れるばかりのメイヂだった・・多分計測直しすればAランクに該当するのではないか。

まあAランクになると強制依頼がくる・・だからBランクで留まっているのだろう。高位貴族と王子だ、受ける以前に依頼は来ないだろう。

この強制依頼というのは、そう滅多に発注されるものではない。

たとえば厄災・・スタンピード。モンスターの異常発生を確固撃破、駆逐していく。とにかく休む間もなく続くモンスターの波に挑んでいかなければならない。気を抜いたら、モンスターの波に飲み込まれ・・死に至る。

そんな過酷、苛烈な依頼を、高位貴族の嫡男、そして王太子に託すわけにはいかない。

なぜ厄災というか。

最近のダンジョンの様子が、100年ほど前にこの地に発生した厄災の始まりに類似しているのだ。

まず弱小と言われるモンスターが多数目撃され。

次にダンジョン最奥に、今までよりも強いモンスターが現れるようになり。

中階層でかなり強いモンスターが現れるようになり・・

今現在、この中階層。今までになく強いモンスターが発生しているのだ。けれどあっさりと『王子と愉快な仲間たち』が倒してしまったのだ。


頼りたいなぁ・・

ぼそっと零す。


「ん?何か言ったか?」

「あ、いや・・」


アルフレアがふいっと振り向いたので、驚いた。彼が発した言葉に、さらに驚いた。


「頼ってもいいぞ。領民も国民だ。国民を守るのが王の道だからな」

「・・殿下」

「同級生だっただろう?名前で呼ぶのを許す。私も名前で呼ばせてもらう・・」

「ア、ルフレア」


同級生ではあったが、親しくしてはいなかったし、王太子だ。なんだか呼びづらい。が、続く言葉に唖然。


「そうだ、お前・・名前なんだっけ」


ぶはっ!!!

愉快な仲間たちが噴き出した。この3人も、若サージュの名を知らない。まあ友人付き合いは無かったのだ、当然か。


「覚えてくれ・・メイヂ、だ」

「「「「明治?!」」」」

「あ?う、うん」

「明治かぁ・・文明開花だなぁ。散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がする」

「ニイタカヤマノボレ」

「カレーライス!」

「オッペケペー」

「????」


メイヂには4人がいう言葉は何かの呪文に聞こえたのだった・・・

明治という言葉から4人が思いついたものを、アルフレア、リーンブルグ、ワッツ、オニールの順に並べた。

前世日本の歴史の年号、明治。なんだか親近感が増した4人だ。




今回は10階層中7階層まで降り、引き返した。元々日帰り予定だったので、まずまずの成果といった所か。

なんといっても攻略するための準備が足りない。調子に乗って深く潜り、死んでしまってはアホだ。


地上に出ると領主館に戻り、その流れで晩餐、会食となった。ダンジョン攻略の話となり、次回は3日後ということに。

4人は領主館をお暇してホテルに戻る・・すっかりくたくたになっているので、今夜もさっさと各自の部屋に引っ込んで就寝。




そう・・


そうです・・


集めるのです・・


強い力を持つものを・・



「「「「ぎゃああ!!!!」」」」


例の声が聞こえました・・また。

4人は悲鳴をあげて飛び起きたのだった・・




翌朝、レストランの大食堂に、4人は集まって朝食を・・食べる気がしなかった。

あの後眠れなかったのだ。ダンジョンで暴れ回って、疲れているはずなのに。


「はぁ・・なんか食べる気がおきない・・体だる・・」

「昨日の今日だぞ!!また出やがったぞ!!」

「仲間集める前に、睡眠不足で倒れるかもしれん」

「言いたいことはわかったから、今は見守ってくれ」

「「「「頼む女神」」」」


なんとかミルクたっぷりのカフェオレでスコーンを流し込み、朝食完了。いつもならホテルのふわふわオムレツに、カリカリベーコンを添えてグリーンサラダをもしゃもしゃ食べて、柔らか焼きたてパンにバターをたっぷりつけてパクついて、搾りたてのオレンジジュースを飲み、デザートにヨーグルト・・高級ホテルのお食事は、朝も大変ゴージャス。王太子のお口も満足の味を堪能・・でも入らない。食べる気がおきないのだ・・

〆切を急かす編集者の如く、夜中夢に出てくる女神。

厄災を防ぐには体力!!まずは健康だから!!頼むからぐっすり寝ている時間ではなく、朝方とか、寝てすぐに出てきて欲しい!!

4人は心底勘弁して欲しかった。だって俺たち、『1』のキャラだぞ?『2』になんで出張る必要がある?

『2』の奴らを探すのも、『厄災倒せ』と命令?お願い?するのも女神、お前の仕事やろ?

なんで俺たち『1』のキャラが、『1』を終えたのに行動せなあかんねん!!関西弁っぽい喋りになるのはメディアの影響。4人は関西人ではないけど、なんちゃって関西弁を常日頃喋っていた。高校生あるある。

特に怒ったりすると、漫才師みたいに『どないせーっちゅーねん!』とか『えーかげんにさらせ』とか言ってしまう。

怒ってるけど、関西弁で冗談混じりだけど怒っているんだぞぉアピール。まあそれはいいとして。


「早いとこ『2』のメンバー集めて、とっとと『2』始めてもらおう」

「そのうち『厄災』とか、重要なイベントを進めてくれるに違いない」

「『1』でオレたちの役目は終わりましたーー!後は『2』の奴らで頑張りなはれ」

「せやな。お膳立てくらいはしゃあない、したる」


ホテルの外に出て、再度冒険者ギルドにいざ!!


「最初はグーーー、ジャンケンほい!ほい!ほい!ほ!ほ!ほ!・・・・・・


あのボウ・エレの列に誰が並ぶかでジャンケン、普通の人には目視出来ない超高速ジャンケンをして・・連続22回あいこを出し、ついにチョキ3人、パーを出したのは・・オニールだった。


「やった!!出来る子オニールん!頑張ってー!」

「君でないと。ナイトだし!あ、ナイトは騎士「うるせえ!!分かるわヘッタクソな駄洒落やめい!!」

「「「がんばれー」」」

「行くわ!行きゃあいいんだろが!!あとでチョコパフェ奢れよ!!」


ギルドの朝は早い・・早朝5時には開いている。

で。今は朝8時。

ボウ・エレのカウンターには、既に20人ほど並んでいた。

これは・・2時間待ち、だろうか?それともそれ以上?

こうなると、喧嘩で数組抜けるのを期待するのだった。

後ろを見ると、友人たちはギルドの無料ドリンクバーでジュースを飲んでいる。ワッツがカップを持ってこっちにやって来てドリンクを手渡してきた。


「がんばれー」

「お前ら、ここで待てよ。オレを置いて外に出たら許さねえ」

「分かってるって。がんばー」

「チョコパフェ奢れよ」

「チョコパフェのためにもがんばー」

「・・・チョコパフェだけって、なんか安い・・何か追加せねば」

「じゃ!!」


ワッツはぴゅんと走って逃げた。


「ちくせう」


前の列をガン見して願うは『喧嘩で抜けろ喧嘩で抜けろ』・・呪いの言葉であった。


呪い、いや願いが通じたのか、2人抜けた。馬鹿だと思うが今回はありがたい。


今対面していた冒険者が終わった。

こいつに10〜15分の時間を費やしているので、19、いや17人(さっき2人抜けた)だと・・15分だと・・

オニールは顔が青くなり、口の端がヒクヒクと引き攣る。


「え・・5時間以上掛かるのか・・?」


オニールは頭がくらっとした。このくらっと、そしてイラッと、こんな気分が長時間。そら喧嘩したくもなりますわー。

そしてぐるっと後ろを振り返ると、友人がいる・・2人。2人?

どうやら1人づつ交代で外に出ているようだ。


「・・あんのやろっ!!!」


思わず苛立ち、列を外れそうになったが『はっ』と我にかえり、列に留まった。

オレ、偉い!!さすが出来る子オニールんである。


呪いの言葉、いや祈りを『早く話が終われ早く話が終われ』に変更、一心不乱に祈った。こっそり『女神、力を貸せ』も追加して祈り続けること・・3時間!!!祈る側から喧嘩、いや離脱していく冒険者どもなど見もせずひたすら祈る事3時間!!!


『『『頑張る君は素敵だ・・・』』』

ただただ、列に並び続けるオニールんの姿に、3人の友人たちはそっと涙を目に滲ませるのだった。

ようやくボウ・エレのカウンターにたどり着いたオニールは、前もって話をする為に選んでおいた依頼票をテーブルに置いた。

ボウ・エレはそれを手に取り。


「拝見します・・」


やっと『2』のキャラ、ボウ・エレと話ができた!!

オニールは達成感を感じた・・いやいや!これからだぞ!これがスタートだぞ!!

気を引き締め、ボウ・エレを見る。

188センチと、4人よりも少し背が高いがカウンター向かいに腰掛けているのであまり感じない。茶髪で金眼、なかなかの美男子である。割と骨太で、冒険者っぽくもある。オニールも騎士なので、どれくらい強いのか興味はある。これから関わることもあるかもしれない、そのうち手合わせをしてみたい・・などと思っていると、依頼状を見ていたボウ・エレが顔を上げてオニールを見た・・なぜか眉を顰めている。


「あなたにこの任務はお任せ出来ません」

「え?」


そろそろと3人の仲間もカウンターに寄っていたので、ボウ・エレの発した言葉は耳に入っていた。


((((どういうことだってばよ?!))))


4人は目を見開いてビックリ!!




続く>>


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