8月2日
ぼちぼち。
サージュ領の都市アウンにある冒険者ギルドは、国内最大級のダンジョンがある為か、なかなかの規模である。
受付も窓口が6つもある・・
だが、ひとつの窓口に人が集中している。他にも窓口があると言うのに・・係員も『こちらが空いています!』とお声掛けをしているのだが、皆一向にその窓口の列から離れる気配が無い。
そのくせ『まだかよ』『いつまで待たせる気だ』と、イライラしているのだ・・
突然と言うか必然?
『横入りするんじゃねえ!!』『俺が先に並んでいたんだ!!』
と、大声がギルド室内に響いた。
『てめえ、表に出ろ!』『おう、痛い目に合わせてやる!』
そして怒りMAXのふたりは外に出て・・先ほどの喧嘩?と同じくおっ始めたのだ。
4人はケンカの理由を理解する。ワッツははぁあ〜〜と大きなため息だ。
「なるほどな。先程ねケンカの理由はこれか。受付嬢の取り合い、なのか?」
外にどすどすと足音を立てながら出ていく男たちを見送り、リーンブルグも呆れ顔である。
「なにしてんだよ・・せっかく並んでるのに、抜けたらまた並びなおしってわからんのかねぇ」
ぴょこんと一度肩を跳ねさせ、アルフレアはやれやれのポーズだ。
「荒くれ者も多いからなぁ、冒険者ってのは」
オニールは少し背伸びをし、列の先、受付にいる係員を覗く。
「ん?」
「どうした?オニール」
3人の方に振り返るオニールの顔は・・微妙?な表情だ。
「男だ」
「「「?」」」
「受付の係員」
「「「ほーーう」」」
長蛇の列の傍で誘導を試みる係員は、相変わらず『こっちの窓口も空いてまーーす!』と頑張っているが、誰も移動しない。また列のどこかで揉め事が起きたのか、わいのわいの言い合う奴も・・諍い勃発間近である。
アルフレアはその頑張る係員にこの状態の説明を聞くと・・
3番受付担当はボゥ・エレ。『2』の攻略キャラだ。なるほど納得。でも人気?人望?この長蛇の列にはびっくりだ。
リーンブルグはしれっと列に並ぶので、必死で誘導していたお姉さんが『あ〜〜、またいっちゃう〜〜』と零している。
リーンブルグは前に並ぶ男に何かを聞いているようだ。そして少し会話をすると列から離れ、3人のところに戻ってきた。
「いやはや、ボゥ・エレさんの人気はすごいなぁ。とにかく仕事の説明、どうしたらいいかとか事細かく教えてくれる、剣や体術の講習も受けているんだとさ。アフターケアも万全〜っていうところか。ボゥ・エレさんに相談すれば全て解決!ってな。すごい信用されてるようだけど・・この列はねぇ。他の受付がダメってわけじゃなさそうだが、ボゥ・エレさんに一度話すと次もリピートしてしまうようだ」
「前世でもあったよなぁ。美味しいコロッケ屋が10年待ちになるほどリピート」
「ワッツちょっとちゃうぞー」
などと話していると、どうやらまた列で揉めてた男たちが『表に出ろ!』『おう、叩きのめしてやる!』と熱くなって外に出ていった。
馬鹿なの?
そうやって抜けたら、また並び直さなくちゃいけないだろうに・・
4人はチベット何ちゃらのような『すん』とした顔になって見送った。
結局ボウ・エレのご尊顔を拝むことなくギルドを後にした4人は、ホテルに戻り食事を済ませると個々の部屋に戻って就寝・・なんだかんだ長旅だったので、いつもなら高校生モードで、わあわあおしゃべりとかするのも止めておねんね優先。
明日は領主子息で旧友、若サージュに面会だ。
気をつけなさい
いよいよ訪れる厄災の日を
集うのです
力持つ者たちを
「「「「うわっ!またかよ!!」」」」
4人は同時に飛び起きたのだった。
女神の警告である。
翌朝、食事をしながら夢の話をする4人だが、ぶす〜〜っと不機嫌な顔だ。
「もうね?『2』なんだけどなっ?」
「『1』の俺達、関係なくね?主要キャラが頑張るべきじゃね?」
「オレ達が安易にスカルドラゴン倒したから、『まあこのままやってもらおうかしら』ってことか?」
「なんか、人集めをおれ達がやることになってる感じだよな、夢の言いっぷりでは」
「8月いっぱいしか私達には時間がないのだけど・・つまり、8月中に人を集め、引き継ぎをすればええんか?」
だがオニールんは・・厳しい表情だった。
「そんなわけねぇ。最後までやらせる気だぞ、あの女神は」
「「「だよねぇ〜〜!!!」」」
たはぁ〜〜と食卓に前のめりで体を倒し、脱力・・・
その頃、領主館では・・ダイヤが執務室のソファに緊張気味に腰掛け、若サージュを待っていた。
ワイン工場に出勤すると、領主が呼んでいると告げられて赴いたわけだ。
彼女が足でふみふみして絞った葡萄の果汁には魔力が大量に帯びていたのだ。
若サージュとしては『逃してなるか、金のガチョウ!』ってなもんだ。
しばらく待つと、若サージュ・メイヂと初顔合わせ、これからの仕事形態の変更、雇用条件の変更・・まずお給金が十倍になっている!葡萄絞りがひとりでしなければいけないのが不安で不満だが、とりあえず引き受ける事にしたのだった。
このことは友人にも伝えたところ、魔法ワインのなり手が10年くらい不在だった、良かった!とおおむね良い反応だったのでホッとしたのだった。魔法ワインは領地では本当に大事な商品だと領民は皆分かっているようで、ダイヤは皆に喜ばれたのだった。
取り決めした勤務時間も、疲れないように配分してくれている。休日もちゃんと、かなりホワイト企業な条件だ。これは受けるべき!なのだ。
しっかりお金を儲け、貯めて、生きていかなければ。
ダイヤが帰るのとすれちがい、4人組が領主館にやって来た。
旧友というがまだ卒業して半年も経っていない。それに同じクラスに一度もなった事がない。まともに話したのが『イチヂク浣腸』の件という・・
毎年王家の人間が夏に滞在したりするのは、なんといっても王家に取り入る者がいない家柄だから。
観光地ではないが、緑豊かで静か。煩わしい権力争いもなく、王族には本当ゆっくり出来る地なのだ。
なのでアルフレアも何度か滞在した事があるが、若サージュと一緒に遊ぶことは一度もなかった。顔合わせは何度かしたはずだが・・記憶に無い。まあこれは若サージュ側も同じ、王家の王子様とあえば記憶しているものだが・・全然覚えていなかったりする。
今年は両親・・王夫妻は、友好の為隣国に外遊しているので、今回はアルフレアが友人と滞在となった。真の目的は『厄災』からの防衛であるが。
女神は集うのだと言っていた。戦える者を集めろってことだろう。
勇者の子孫、若サージュもそのメンバーに入るかもしれない。
どんな敵だろう。
どんな武器が、アイテムがいるのだろう。
『2』のことを知るのはダイヤだけだが、ダイヤもゲームそのものをプレイしていない。
8月中という短期間で、それら情報収集に人集め。
「女神何考えてるんでしょうねぇ」
「便利グッズ扱いだもんあ、俺たち」
「女神の本気さえあれば、解決しちゃうんじゃね?」
「そうだそうだ!」
「「「「だって女神だも〜〜〜ん」」」」
と、相変わらずの前世高校生丸出しで話していたが、若サージュが応接室に現れたとたん、いつもの王子様高位貴族のおぼっちゃまにメタモルフォーゼ!4人は若サージュと歓談・・
仲良しだったわけでは無いので、当たり障りない話、時候の挨拶から始まり。
「昨日ギルドに行ったんだが、なんだか揉め事があるようだね」
とアルフレアが水を向けると、もう耳にしているのだろう、メイヂは少し顔を顰めた。
「とても有能なギルド職員に集中してしまう件だろ?もう彼には受付業務を辞めてもらい、指導員業務に集中してもらおうと思うんだけど、本人が渋っているんだよ。今の仕事が好きなんだろうけどね・・これ以上揉めてもらいたくないし、他の受付の皆もいい顔していないんだ」
やれやれだよと大きなため息をついている。
「なあ、若サージュ。オレたち、ダンジョンに入りたいんだけど許可もらえるか?」
オニールの言葉に若サージュは驚く・・いや仰天した。
「うちのダンジョンはCランク以上でないと入れないぞ!高位貴族どころか王子を入れるわけにはいかん!」
4人は懐に手を突っ込み、何かを取り出してそれを見せた。Bランクの冒険者証だ。
「Bランク?!」
4人はにやりと・・自分たちは悪辣な笑みをしたつもりだったが、『1』の主役級キャラだ、美麗な笑みとなっているので、若サージュもちょっとくらっとした。周りにいたメイドや執事はどきーーん!彼らのハートわし掴み!
「なので、許可していただきたい」
「ああ。Bランクが4人なら大丈夫だろう。でも俺もついていくからな」
おおっ!勇者が仲間になった!!チャッチャラチャッチャッチャ〜〜ン!!
明日5人でサージュ領ダンジョンにいく事が決定したのだった!!
続く>>
次回は9/8 朝7時更新やで・・




