転生、そしてスタート
(さあ、目覚めるのです・・)
誰か・・女性の声がした・・?
気がつくと、4人はどこかに立っていた。
「ちょっと男子ぃ〜〜〜。集まってぇ〜〜〜」
「まーた静はオカマみたいな・・・・・お?」
「気づいたぁ〜〜?」
「これ、この・・服、え?」
「周り!!周りの景色!!どう言う事?」
「気づいたぁ〜〜?」
「気づきましたとも・・これって・・!!」
「「「「うわまじかよやっべ!!!!」」」」
4人は自分が身につけている服、そして目の前の人物達が着ている服を見る。
そして4人が経っている場所だ・・ここは・・
「これ、ロズガ(ローズガーデンゲート・ゲーム名の略)の制服か?」
「そして学園の噴水広場だろ?ここ」
「だな。つまり」
4人は同時にハモって叫んだ。
「「「「転生・・だな!!!!」」」」
そして服から顔に視線を向ける。オニール・・辰雄が隣の少年を指差した。
「アルフレア、お前静だろ」
「そう言うお前は辰雄だな。で、そっちがワッツ。ワッツは穂積だろ?」
「よかったぁ!プレイヤーキャラに転生してるね。違ってたら憤死してたわ」
「それな。ありがとう転生の神様!」
そして4人は跪いてお祈りポーズで『感謝!!』と叫んだ。
いるかどうか分からない神に、4人は感謝の祈りを捧げた。手と手を合わせ、『皺合わせ』。どこぞの仏具のCMよろしく拝む。それでは仏教だ・・まあ日本の男子高校生の宗教観などそんなものだ。
だんだんテンションが上がって、奇声を上げてはしゃいでしまうのもお約束だ。
「ゲームのオープニング後だな?いよいよ始まるぜ?始まっちゃうぜぇ?」
「そうそう、ここで会える!我が愛しの・・サイファちゃーーんっ!!」
「うっわ!嫁に会えるって?やりぃ〜〜!」
「いやっほーーー!!」
「ヤッフーーーー!!」
「きたきたァーーー!!」
「ふぉおおーーー!!」
ひとしきり飛ぶわ跳ねるわ駆け回るわ、騒いで落ち着くと・・宗介はほっとため息をつく。
「お前らもプレイキャラに転生出来てよかったなぁ。おれもリーンブルグに転生出来てよかった・・いくら友達とは言え、俺のフラーウとお前ら「「「いやいやいや、おれら、あんなちんころ興味ないから!お胸ぺったんこ「じゃかあしいわ!!あの小柄で華奢な妖精さんみたいなのがええやろがい!!「「「ええ〜〜〜?」」」
「それはいいとして「よくねえぞ!「も〜〜う、聞きなさいよぅ。俺達つまり。死んだんだよな?ここに来たってことは」
4人はピタと黙り・・それぞれの顔を見渡して・・・
「だな」
「交差点にいたよな。なんか事故があったんだろな」
「巻き込まれた・・のかね?なんか声聞こえた気がしたけど」
「そうなんじゃねーの?知らんけど」
「「「「・・・死んだかぁ〜〜〜・・はぁ・・・」」」」
4人はちょっとしんみりとした。だが能天気な男子高校生だ。持続はしない。
アルフレアに転生した静が右腕を振り上げる。
「ま!俺たちは新しい人生を邁進する所存である!「「「おーーー!!!」」」
「ゲームでは出来なかった婚約者とのハッピーエンド!これを成し遂げる!「「「そうだ!!!」」」
「この場所に見覚えはあるな?「「「もちろん!!!」」」
アルフレアはぐるりと辺りを見渡し、しみじみと呟く。
「それにしても転生かぁ・・ゲーム世界になぁ・・」
「しかもあのゲーム世界かよ!驚きしかない」
「うわ!!もーすぐ嫁に会える!会える!!ウヒョ〜〜」
「はふ〜〜ん・・・早く会いたいっ!」
嫁(気が早い)に会えるなら死んでも不服なし!!
などと決意する4人だったが。
4人がいるのは、ゲームのスタート地点・・学園の噴水広場だ。ここで婚約者と待ち合わせをする。
で、各キャラクターが自己紹介とか婚約者の説明とかをするのだ。
この説明で、婚約者に対する思いとか気持ちをあけすけに語るわけだ。
アルフレアは『婚約者はひどい性格で、ついていけない。王妃として人格に難あり。こんな子と将来を供にしていいのだろうか』みたいなことをぼやくわけだ。他の3人も婚約者に対して良い感情を持っていない。
そんなふたり(今回は四組だが)の前に、アレが現れるのだ。中途入学で、初めて来たから職員室がわからない。
アレに声をかけられた男プレイキャラは、婚約者とこれ以上揉めたく無いので、アレを職員室に案内するのだが・・そら揉めるわ。
喧嘩を回避とは言え、婚約者をほっぽって知らない女の子と行ってしまうなんて、誰が見ても揉めるわ。婚約者と一緒に居たく無いからって、ほったらかすとか。まあ女同士だからと、悪役令嬢が親切にアレを職員室に案内をするとは思わないけど・・
それはいいとして。
そうこうするうちに、それぞれの婚約者令嬢達がこちらに向かって歩いてくるではないか。
彼らにしか見えないキラキラ透過光が、婚約令嬢達を輝かせる。幻覚上等!だってそれくらい眩しい!
(あ〜・・)
(いい)
(おお・・フラーウだぁ。生フラーウ)
(オレも感激やわ)
(・・諸君)
静・・アルフレアが3人をぐるりと見渡し、小声で宣言する。
(俺たちはここに転生をした。俺はアルフレアに、お前らもそれぞれのキャラに。これからはおれ、いや私をアルフレアと呼んでくれ)
(おう!俺もリーンブルグとして生きるわ。よろしくな!)
(おれもワッツになって生きるぜ!)
(オレもオニール・・いや。オレがオニールだ!!)
(さあ、婚約者達を出迎えよう。アレがくる前に教室へエスコートだ!)
(((無論!!!)))
アレが来たら揉めなくていい事で揉める事となる。
急げ急げ、撤収撤収〜〜〜〜!!
やがて各キャラクター達の前に彼女らは立ち、軽く会釈。さすが令嬢、ええ香りもしている。
「・・アルフレア殿下、ご機嫌麗しゅう」
「や、やっほう!リーン様っ!」
「ワッツ様・・おはようございます」
「オニールん!おはよう!同じクラスになったね!」
男4人は顔がにやけてくる。が、顔面はクールなままで堪える。心の中でデレデレです。
((((あああっ!!未来の嫁が可愛すぎるんじゃーーー・・))))
なんて綺麗で可愛くて最高で・・・語彙力がダメになるくらい尊かった。
そしてあまりの尊さに、こっそり涙ぐんでしまった。
アルフレアはナタリィに一歩近寄ると、彼女の手を取って。
「教室に行こう。教室までエスコートさせてくれる?」
「え、あ、はい!」
さすが王子。こういう仕草もそつがない。流れるような手の動き、軽く膝を折り会釈。婚約者の手を取ったまま歩き出した。これに続けとばかり、3人もそれぞれの婚約者の手を取るとアルフレア達に続く。
これには各婚約者令嬢達も驚いた。
最近仲がよろしく無かった(どころではない!)婚約者がエスコートをしてくれるとは思っていなかった令嬢達は・・彼らのさりげない温かさをじわじわと噛み締める。
彼女達も分かっていたのだ。少々どころか・・かなりやり過ぎたことを。
貴族というもの、舐められたらあかんぜよの世界なのだ。
で、やりすぎた。
下位貴族はこてんぱん、伯爵クラスもいびって泣かす事くらいした。意地悪では済ませないレベルの事も。
最初は舐められないように程度の意地悪だったが、泣きながら謝る姿が無様で・・いじめが楽しくなってしまったのだ。悪役令嬢、ここに極まれり。
彼女たち婚約令嬢達は、ゲームの都合上『悪役令嬢』の役割であるが・・実は本性も、かなり『悪役』だったわけだ。
ツンケンしたり、気に入らなかったら乱暴に振る舞い、八つ当たりや文句を言ったり。
高位貴族のお嬢様だ、思い通りにならなければ暴れる・・幼女並みな事を仕出かす。
この所業、婚約者の中で一番大人しいモーリンですら、やらかしたのだ。
無闇に我儘をいう、聞いてもらえなかったら文句を言う、パシッと頬を叩いた事もあるのだ。
気に入らない子には意地悪をする。そして精神的に追い込み、泣き顔を嗤うのだ。
だから・・転生前の4人の男主人公達は、婚約者達が好きでは無かった。というか心底嫌いだった。
『死んだほうがマシだ!!!』と叫ぶほどには。
まあこんな厄介な所業のピークは15歳頃まで、それ以降は落ち着いて来たのだが、それまでの悪役ぶりのせいで皆に怖がられ、恐れられてしまったのは自業自得だ。
彼女達の悪辣ぶりに、婚約者子息達が嫌悪するのは当然。婚約解消をしたいと本気で思っていたのだ。以前の彼ら4人・・高校生4人が転生、入れ替わる前までは。
さて、どうして高校生4人は転生出来たのかというと・・元の彼らは心底婚約者令嬢達を嫌悪していた。
『新学期、噴水広場で待つ』と婚約令嬢から手紙が届いたが、行く気がなかったので返事をしなかった彼らだが、当日の朝になると気が変わり、噴水広場で婚約令嬢を待つ事にした。
婚約解消を、直接言ってやる。残り一年、卒業までの学園生活を、心静かに過ごしたかったのだ。
噴水で婚約令嬢達を待つ彼らは強く、強く思った。そう、上記のセリフを心の底から思ったのだ。
『こんな女と結婚、人生を共にするくらいなら・・死んだほうがマシだ!!!!』
その瞬間・・・4人の魂は、高校生4人の魂と入れ替わった・・・らしい?知らんけど。
はたして元の彼らの魂は・・・どうなったか。
・・まあ死んだほうがマシなのだから本望・・?いやいやいや、さすがにそれは可哀想だろう。
魂を入れ替えた神様はそこまで無慈悲ではなかった。この4人の魂をまあ・・・悪いようにはしなかった、とだけは説明しておく。
婚約者子息達、彼らは婚約者令嬢の素行に対して『それはどうか』と言った事がある。だが令嬢達はぎゃいぎゃいと逆ギレ、情けない事だが言い負かされてしまった。言い負かされた事により、彼らは『もう知るもんか』、そう思った。
それ以来、いじめの件を触れる事はしなかったのだ・・まあ、一番悪役令嬢しているピークだったから・・悪役令嬢ノリノリ期だったから・・でもこれが決定打、彼女らに対しての好意など吹っ飛んでしまったわけだ。元々家同士の婚約で、好意も何もほとんど無かった。ゼロどころかマイナスである。
まあここまではっちゃけたことをして来た令嬢達だが、さすがに成長すると悪役ノリノリ期は彼女らにとっても『黒歴史』で・・
今まで自分達のして来たことを猛反省。でも今更・・だろう。
婚約者とのお茶会も、式典参加もほとんど無い状態、ダンスを踊るのも去年はたった1度だけだった。
お相手が婚約解消を考えているようだと両親に聞かされ、振られる寸前になって、初めて自分が婚約者を好きだと自覚するに至ったのだが・・遅い。
男主人公達は、この彼女達の『やらかし』を嫌悪していた。ドン引き、心底震えるのも分かるというものだ。
婚約者なのだからと注意もしたが、逆に罵声で応酬された。キンキン声で捲し立てられれば、友好的な気持ちも目減りする。ゲンナリ、精神的にも消耗する。会いたくない、心から拒否した。愛情などマイナスゲージだったし。
そんなわけで・・こんな状態でヒロインが優し〜く話しかければ・・・ね?
ころっと!もうすんなりころっとですよ!
こうしてゲームでは、悪役令嬢達はバッドエンドへ転げ落ちて行ったのだ。
だが転生した4人は、婚約者達とのファーストコンタクト(スチルだが)で心を鷲掴みされての一目惚れ。
まともに恋をした事が無かった17歳の男の子に、彼女達は眩しかった。
そして元の男主人公達が味わった『悪役令嬢』要素を彼らは体験していない。どれだけ意地悪な悪役令嬢だったのかを知らないのだ。
彼らが会った時には既に改心し、反省して可愛くなった婚約令嬢達なのだ。
あの所業を知っていたら、もう少しヒロインを大事にしたかもしれないが・・
転生した彼らはこれら悪事を実感していないし、『婚約者溺愛脳』で『嫁可愛いっ!!』としか思っていない。
すっかり嫁ゾッコンラブな彼らは、ゲーム中の婚約者達の会話のセリフで彼女らがちょっときつい言い方をしてきたって、
「ああ、これがツンデレのツンですな」
ちっとも気にしなかった。
それどころか、言葉優しく近寄るアレヒロインには『言葉で拐かすビッチ』と、超辛口。
何処までも嫁(になると頑なに信じている)ラブだった。
さて、婚約令嬢達はというと。
今日から学園の新学期、学園生活最後の1年の始まりだ。
数日前に、婚約者に噴水広場で待ち合わせをする旨の手紙を送った。やはりというか、返事は来なかった。
もしも待ち合わせ場所に来なかったら・・そういう事だ。婚約解消を受け入れよう。
重い足取りで噴水広場に向かうと・・いた。いないと思っていた彼らが待っていたのだ。
しかも久しぶりに手を取って、エスコートをしてくれた。
「教室に行こう。教室までエスコートさせてくれる?」
たったこれだけの台詞、でも話しかけられたのは何時ぶりだろう?彼の声を聞いたのは?
婚約令嬢達は、目を潤ませて彼らの足取りに倣う。彼らは彼女らの歩みに合わせて歩いてくれる事に気付いて、遂に涙を堪えられなくなって。
令嬢が泣いている事に気付いた4人だが、ただ黙って教室へと向かう・・途中、アルフレアは階段お踊り場でハンカチを渡す。
リーンブルグは廊下の端に寄り、彼女の後頭部に手を添え、服に押し付けて涙を吸わせた。
ワッツは教室に入る前に親指でそっとなぞるように拭い、オニールは教室窓際で『綺麗。もっと見せて』と婚約令嬢の顔を見つめる。
婚約者令嬢達と、原作では無かった行動。
ストーリーに負けない。
4人は改めて決心したのだった。
続く>>
がんがん追加修正しまくります。