オレ達が知らないゲームの先
4人は卒業式の後、例の図書館2階の会議室に集まり、最後の会議。
婚約令嬢達とは一旦別れ、夕食を一緒に摂る予定なので先に帰ってもらった。
これからの人生でも、4人はしょっちゅう顔を合わせ、時折『前世の高校3年生』に戻ってはっちゃけるだろうが、この・・図書館2階会議室・・学生としても、多分これからの人生でも、再びここに集う事はもう無いだろう。
4人で何度も集まって、ぐだぐだと会議をした楽しい時間・・
「もうお別れだなぁ、こことも」
「なんか、しんみりしますなぁ」
「ケータイでもあったら写真でも撮るところだなぁ。4人の集合写真〜」
「男だけで?」
「友情の記念にな」
「友情。たしかに」
「まあ、いい1年だったよな」
「「「「そう!!!!終わり良ければすべて良し!!!!」」」」
4人は顔を見合わせ、ぎゃはははと笑い、お互いの肩を組んで一塊になってぐるぐると回った。
奇声を上げながら、ドタドタと足を鳴らし回って回って回ってーー・・目も回って、遂にドスンと4人で折り重なるように倒れ、さらに笑った。ぎぇへへへ〜と、高位貴族の子息にあるまじき奇声を張り上げ。
ひとしきり笑い、しばしの沈黙。
4人は天井を見つめ・・なんというか・・感無量?
これからはゲームの強制力も、アレもいない。自分の人生は自分で切り開くのみだ。
「なんか聞いたんだけどな、アレから出ていた黒い霧みたいなの、膨大な魔力だったそうだよ。魅了のことでいろんな人達から責められるうちに、捻くれて性格が悪くなって、光属性が闇属性、闇堕ちしたとか・・知らんけど」
「はぁーん?どんだけ性格悪くしたんだよ。本当、俺達に嫌がられているのに、つきまとって。ほんま勘弁して欲しかった」
「この学園に来るまで、魅了垂れ流ししてたの、全然分からなかったんだってな」
「だけど魅了だって気付いたくせに、その後の対応が駄目じゃん?可哀想とは思わんね」
「さーてアレの話はもう止めだ・・最後まで残った、これは何だったんだろう」
アルフレアがアイテム入れから取り出して机に置いた、それらを3人が覗き込む。
イチヂク浣腸にキウイ草ジャムだ。
「まずはイチヂク浣腸、な」
「謎アイテムだったな」
「・・・・俺は・・なんか・・思い付いたんだが・・・」
「お!流石出来る子オニールん!」
「大体お前の考えは合っていることが多い。で、何だったの?オニールん!」
「オニールん、言いなさいよぉ〜」
「・・・・俺達が・・・男と「「「ヒッ!!!、言うなーーー!!!」」」
ギャーーーと皆で絶叫、1階まで響いたが、卒業式も終わって学生達は図書室に寄る者もいない。したがって、王子と高位貴族達の前世でいう『ウメズカズオ顔』を見られる事もなかったのだった。
イチヂク浣腸の話を聞いたあの同級生は使い道を知っているのだろうか。
彼は辺境に住んでいて、まだ学園の寮にいるだろう。今を逃せばそうそう会う機会が無い。
「あいつに・・聞く?」
「まだ退寮してないはずだ、急げば今なら会えるぞ?」
「「「「・・・・」」」」
4人はしばし黙り・・・
「「「「気になるから行こう!!!!」」」」
会議室を出ると4人は駆け出した。が、一度振り返り。
「「「「今までありがとうございましたっ!!!!」」」」
そして駆けて行く。
寮にいた同級生も、もうすぐ迎えが来るとかで荷物の整理をしているところだった。間に合った、と4人は安堵。
しかし聞く内容が内容なだけに、ちょっとまごついたが・・出来る子オニールが口火を切る。
キョトンとした顔の同級生だったが、話を聞くとプハッと吹き出し笑いだした。・・当然か。
「なにを最後に・・ぶふっ、真剣な顔だからシリアスな内容かと思えば・・ぶくくく。卒業最後の会話が『イチヂク浣腸』?王子に高位貴族の会話とは思えないねぇ、ぶははは」
笑いはなかなか止まらなかったが、涙まで滲ませながら教えてくれた。
寮の新入生に毎年降りかかる『悪辣な行事』・・色々な色のついたビー玉を箱に入れて、目隠しで1年生に取らせ、なんとゴクンと飲み込ませる。
で、ビー玉を『出す』ために使うのだ・・イチヂクを。
「おい。ビー玉を取る、そこで終わっていい話だろ?なんで浣腸して出すまでがワンセットなんだよ」
そんな風習が寮にあることを4人は知らなかった。まあ教えられないだろう。王子と高位貴族の子息達には。
「下位貴族ってのは、こういうことでマウント取りたいんじゃねえ?おれにもわからん話だけどな」
と同級生は苦笑した。
アルフレアは同級生をじとっと見て・・
「何をいう。君こそ国の黎明期に活躍した『勇者』の末裔だろう?『若サージュ』。ちっとも下位貴族どころじゃ無い君が何を参加してるんだ」
「いやあ、おれんち、貴族の爵位貰わなかったし」
「そのかわり、『サージュ』・・勇者の称号、持っているだろうが!公爵は5公いるが、サージュはお前のとこだけだぞ!」
王族のアルフレアはこの『サージュ』、勇者一族のことは王・・父親直々に教わっていて知っているが、残る3人はゲームでも登場していないし、家族からも聞いたことがなかったので知らなかった。
「この悪習は、今年をもって廃止だ。ギルドの支配人に申し訳ない」
アルフレアが憤りを抑えながら宣言すると、同級生がうんうんと頷いた。
「王子命令でやってどうぞ。下級生がかわいそうだったんだよね」
「お前もやられた口か?」
「飲むかよ。そんなもん、うまく誤魔化した」
「さすが」
勇者には特殊な能力が色々あるようで、ちょちょいとうまく誤魔化したようだ。
「まあ、アルフレアとはまた会う機会があるかもしれないな。またワインを送るよ。ではごきげんよう」
勇者のお迎えが来たので、ここでお別れとなった。
勇者の一族は今はワイン生産者となっていて、毎年熟成されたヴィンテージワインを王室に送ってくる。王室御用達なのだ。
寮を出て4人は噴水広場に。噴水の石組みに腰掛けて4人は『はああ』と大きなため息をつく。
「イチヂク浣腸の疑問・・解けて良かったような悪かったような」
「おれ、もっと酷いこと考えてた。びいえる・・」
「オレもや」
「俺もー!危惧でよかったわ〜〜」
「まあ絶対廃止にするし、解決解決ぅ〜〜」
ぴょんと出来る子オニールが立ち上がり、3人をぐるりと見回して。
「ねぇ〜あんたたちぃ〜〜、それよりも〜、キウイ草のジャム問題はどうなのどうなのぉ〜〜〜?」
「「「あったな!!!まだ!!!」」」
ゲームでも出てきたアイテムだが、何に使うかは全くわからなかった。
イチジク浣腸は転生して出てきたオリジナル?アイテムだが、キウイ草ジャムは元からあるモノだ。
4人はなんだか・・背中がゾクッとした。
元からあるアイテム・・・しかもゲーム序盤で出てくる・・・
まさか。
「まだ続くのか?ゲームの強制力・・」
「よしてくれよなぁ・・効力はもう無いだろ?卒業式、終わったんだぞ」
「しかもジャムって」
「食うと・・どうかなるの、か?」
ゴクリ。
4人は喉を鳴らした。
もうアレはここにはいない。
ゲームラストの卒業式も終わった。ゲーム上ではエンドロールも終わってエンドの文字、からの再オープニング画面に戻っている。
スチル『卒業式』も、アレ無しだった。4人は婚約令嬢たちとにこやかに、在校生達に見送られて学園のゲートをくぐった。
なのに・・なんでこんなに不安なんだ?
出来る子オニールが・・・随分低い声で話し出した。
「なあ。おれ、思ってたんだけどな」
「「「どきん・・・」」」
あのオニールが、手を微かに震わせてぎゅっと握っている。力一杯握っているのか、指の関節部分が真っ白だ。顔は項垂れているので見えない。
「アレ・・・どうやって、卒業パーティ会場に来たんだ?どうやって来れたんだ?アレは王家の厳重なプリズンに収監されてたはずだ。しかも、城下町から馬車で10日くらいかかる場所に放り込まれてたと聞いた。もしも脱走したとして、気付かれないはずはない。朝晩の食事や警備兵の巡回でチェックされる。なのに逃げたと知らせはこなかった。馬車にうまく隠れて乗る?そんなにうまく行くのか?アレは「「「もういい!!!もう言うな!!!」」」
思わず話を遮った3人。全員顔が真っ青だ。
しばらくして、リーンブルグが震える声で喋る・・
「オニールが翳した鏡で、アレの力は吸収されて枯渇した。そして、割った事で、力は出て来れなくなった。だからもう・・大丈夫、な・・はずだ」
その言葉を信じたい。なのに・・納得出来ない。
どうやったのかは不明だが、厳重と名高いプリズンからひとり抜け出して、パーティー会場まで来た。馬車で10日の道を。多分・・10日も掛けず。おそらく・・前世知識で言うところの・・瞬間移動で来たのだ。
瞬間移動の魔法など、この世界には無い。
あったとしても、アレの魔力は枯渇した。
けれども・・
アレの魔力の回復力が異常に速かったとしたら?
もしかして・・アレは・・既に魔力を・・
「「「「!!!!」」」」
どくん、と心臓が鼓動する。刹那、4人は思考する間も無く同時に反応した。
「「「「防御結界!!!!捕縛!!!!」」」」
4人分の結界と捕縛は空中の何か目掛けて放たれた。
「きゃあ?!なんでわかったのよぅ!!アルフ様ーーー!!助けてぇ〜〜〜!!」
卒業パーティーでは操られた。
だが今は全く反応・・心揺さぶられる事も無い。結界のおかげ、だけではないようだ。
しっかりきっちり、ゲームの強制力、効力が切れたのだ。
ならばもう、遠慮はしない。
「生きてても仕方ないですなぁ、アレは」
「高位貴族の嫡男だけでなく、恐れ多くも王族、しかも王の息子で世継ぎの王子に魅了攻撃仕掛けたんだぜ?」
「是非もなしってか?」
「そーそー、しゃーない。消そ消そ」
「「「だって、ゲームは終わったんだ。もうヒロインはいらない」」」」
どくん!!!!
4人の心臓が強く鼓動した。身体中に痛みが走る。だがそれは一瞬。
ふと前方を見ると、アレはいつの間にか結界から出て、捕縛の戒めからも解き放たれていた。
ぽつり、アレは呟いた。
「思い出した・・・『ローズガーデン・ゲート』なんだ、ここ」
「「「「!!!!」」」」
え?今アレ、もしかして・・転生したのか?今更?
しかもゲームを知っている。発売3日で俺たちは転生した。アレはどれだけの知識を持って・・・
「あー。でももうゲームはエンドしたから大丈夫だな!」
一瞬戦慄した4人だったが、アルフレアの言葉を聞いて、
「「「確かに!!!あービビったぁ!!」」」
はああああ〜〜〜と、先ほどよりも大きな安堵のため息だ。
すると目の前のアレは目を見開いて・・
「え?終わった?ここ、噴水広場じゃないの!スタート地点でしょ?」
「「「「あ。たしかに」」」」
何気に噴水広場に来てしまったが、ゲームスタートは噴水広場だった。
「おいアレ。俺たちの胸についている花、見たらわかるな?卒業式が終わったんだよ。つまり」
「「「「ゲームは終わり」」」」
「え!ええええ!!!」
「ほら周りを見てみろ。俺たちの婚約令嬢達、いないだろ?」
「・・・ほんとだ」
アレはぺたんと地面に座り込み、ぐすぐすと泣き出した。でも4人は誰も寄り添う事はない。だって嫁命だもん!!
「なんで誰も慰めてくれないのよぅ・・」
「慰められると思ってるのか?厚かましいな」
「え?あたし、ヒロインだよ?エンドは誰エンドだったの?」
「「「「誰も」」」」
「・・へ?」
「「「「俺たちはお前の言うところの『悪役令嬢』エンドだ」」」」
「そんなのないでしょーーーっ?!!」
「私はナタリィを」
「俺はフラーウを」
「おれはモーリンを」
「オレはサイファを」
「「「「嫁にするエンドを進め、達成したからな!!!!」」」」
「うそおおおーーーー!!」
「「「「本当」」」」
呆然、魂が抜けたような顔のヒロインはかくんと顔を下に向けた。
そしてまたぶつぶつと呟いた。
「なんでよ・・エンドが終わった後で転生とか・・ゲーム主人公よ?ヒロインよ?しかも誰もあたしとのエンドじゃない・・・」
「もしもーーし、おーい。お前はねぇ、犯罪者なんだ。またプリズンから逃げてきたのか?」
「・・え?」
「俺達高位貴族の子息達、そして王子に『魅了攻撃』をぶっ放したんだぞ?王族どころか全国民に激怒されてな」
「うそ・・」
「昨日の卒業パーティーに乱入、またもや魅了攻撃さ。どうやって抜け出してきたんだ?プリズンよりも厳重に捕らえてた筈だぞ」
「プリズン・・牢屋?」
「お前の処置は死刑だと思うぞ」
「ひっ・・!!!」
「だって今日までの1年、色々やらかしたもんなぁ。救いようがないとはこの事だ」
「あ、あたしがやったんじゃないもん!!ヒロインがやったことだもんっ!!」
「そーだけどさぁ・・もうちょっと早く転生してればなぁ・・」
「・・・?転生?あ、あんた達も転生してるの?」
「「「「うん」」」」
「よ、4人ともぉ?!」
「「「「ですぞ」」」」
うわああああん・・・
アレの姿の転生娘は大泣きするばかりだ。
そりゃあ泣くだろう。転生してすぐ、ヒロインの罪で死刑だなんて。顔は同じでも中身は別人。
アレ憎しの4人であるが、流石に可哀想になってしまった。同じ前世の彼女の不幸・・やはりアレは良い事をしない。罪無き転生娘まで不幸にしている。
「よし。お前、このまま逃げろ。そうだ・・リーンブルグ、髪質魔法で変えてくれ」
「黒子とかも付けようか。あと、目の色も変えられるぞ」
「お前、何色がいい?」
「お前じゃないよぅ、シルフィーネだよぅ・・」
「俺たちにとってはアレなんだよ。お前呼びで感謝しろ」
「・・・どんだけ嫌われてたのよ、ヒロイン・・ぐすん」
「まあ、お前が悪いわけじゃないんだけどな」
こうしてヒロインの髪色は銀髪ストレートに、左目の下にちょんと黒子をプラス。これだけで風貌が変わった。転生娘の性格のせいか、雰囲気も全然違う。
アルフレアは転生娘に何か書いて渡した。
「こいつを頼るといい。先触れを送っておくから今から行くといい」
「え?ひとりで?」
「大丈夫、お前の頭ん中に、アレの記憶があるだろう?魅了以外の魔法を使えば旅も楽なはずだ」
「・・・・・あ。魔法、使えそう・・火球や水泡とか・・あ。魅了もある・・」
「それは使うなよ?それを使ってアレは牢屋行きになったんだからな」
「はい!使いません!!あ・・・わ・・・・記憶が・・・・ヒロインの記憶が・・ひえええ、何この子ぉ?!」
「頑張れよ。アレの記憶はそらもうすげーと思うから」
「うん、負けない・・死んでたまるかー、です・・ああ、頭クラクラするぅ・・」
「学園の外を出たら左の街道を行くといい。人通りの多い街道の方が見つかりにくいはずだ」
「落ち葉を隠すなら、ってやつだな」
彼ら4人が持っていた所持金を握らせ、適当な服を着替えさせ、いくつかの着替えや小物をバッグに詰めて渡すと、早々に旅立たせた。このままここに長居をしていたら、今頃アレを捜索しているであろう兵達に見つかるやもしれない。
彼女は頭をぺこぺこ何度も下げ、旅立って行った。
『頑張れよ〜』と4人も手を振りエールを送る。
「頑張れよ・・転生したのがゲーム終わった後だなんて、本当可哀想だな」
「とりあえず金銭的にたっぷり渡してあげたからな。あれだけあれば1年は余裕で暮らせる」
「格好も男の子に見えるようにしておいたし、変なやつに狙われにくいだろ」
「アレはなんだかんだ言って魔法の才能があったからな。あの子ならうまく使いこなすだろ」
「「「「まあ頑張れ」」」」
「で、アルフレア。お前、何を書いて渡したんだ?」
「勇者のうちの住所。あそこならバレないだろ?アレもそうだけど、お前らも勇者の存在知らなかったじゃないか。ワインは乙女が素足で葡萄を潰して作るって知ってた?」
「あー。まあ今の彼女なら大丈夫だな!アレと性格が違うし」
「勇者と会っても、関わる事も無いだろ」
「さあて、家に帰ってディナーの準備をするかな」
「嫁との楽しい晩餐ですぞ!」
「「「「じゃあまたな!!!!」」」」
そして4人はそれぞれの馬車に乗り、我が家に戻る。
馬車に揺られ、4人はほぼ同時に・・・
「「「「そういえば・・キウイ草のジャム・・忘れてたわ」」」」
続く>>
まだまだ続きます!




