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卒業パーティーにて

スカルドラゴン討伐より数日後。



いよいよ翌日は卒業式。

本日は卒業前の謝恩パーティー、4人はそれぞれの婚約令嬢と共に出席をした。


美しく着飾ったパートナーを見つめ、彼らは表情はすましたものだが、内心は心臓はバックンバックンと心不全ばりの鼓動でクラクラだ。本当のところ奇声を上げて駆けずり回りたいくらい緊張しているが、公の場で前世の男子高校生バージョンはアカンやろ。なので頑張ってキリッとした佇まいでいる。嫁があまりにも綺麗で尊いせいや・・


大勢の貴賓客の中にはアルフレアの両親である国王夫妻も出席していて、校長と歓談している。

周りには国内外から集まった高位貴族や王家の貴賓達も談笑する事暫し・・



「卒業生、在校生、ホール中央へ」


校長の号令で、卒業パーティーは始まった。

貴賓の祝辞を何人かが読み、在校生がお祝いを述べて、校長が砕けた口調で卒業生を讃えた。

輝くシャンデリアの下で乾杯、卒業生らのダンスが始まった。

もちろん4人のお相手は婚約令嬢達だ。


皆楽しげに踊り、雑談をし、用意された軽食や飲み物を頂いて、和やかなパーティーは恙無く進む。




ガタン!

突然の異音に、何事かと視線が集まると・・

そこに、アレが立っていて、大声で叫ぶと大きなピンクのハートのエフェクトがどーーんと現れて、アルフレア体に直撃、そしてすり抜けて消えた。


「アルフ様ーー!!あたしを置いて他の女と踊るなんて!!」

「う、ううっ?!」


アルフレアは頭の中が真っ白になる・・

そして、目は何も映さない。目の前にいる婚約令嬢さえも視界に入っていない。

こえ、声・・声はどこから聞こえる・・あの声・・

アルフレアは首をゆっくりと左右に動かし、会場を探す。


「アルフ様!!あたしです!シルフィーエです!!」


そうして目が、たった一人の娘を捉えた。

足が一歩、一歩、よろよろと進む。


「あ、れ・・アレ・・」

「アルフ様?」


思わずナタリィはアルフレアの服を掴むが、パシッと払い除けられた。


「放せ・・私は、彼女の傍に・・」

「アルフ様ーーーっ!!あたし、迎えに来ましたぁ!!」


アレが嬉しそうに手を振って『ここにいる』とアピールすれば、アルフレアは弱々しく唇を引くつかせつつも微笑んで、よろよろと前進するではないか。


「ああ・・そうか・・迎え、に」

「あたし、いっぱい虐められたんです!その女に!!」

「お前が・・虐めたのか?彼女、を」

「アルフ様・・」


アルフレアの瞳を見て、ナタリィは震えた。虚で、ぼんやりしていて、いつもの彼ではなかった。

でも手が、腰あたりを何かを探すように蠢いているのを見て、ナタリィははっとする。

アルフレアはまだ負けていない。

剣を探しているのだ。前に魅了を解いた剣を。

だが今日は祝いの席、剣は物騒だからと控え室にいる従者に預けてしまった。

突然の事で、アルフレア達の近くにいた生徒達は呆然としている。


ばたばたばた、と足音がして・・


「障壁結界!!!アルフレア!!正気に戻れ!!」

「衛兵!!・・えーと、50代以上の衛兵!!アレを捕らえろ!!」

「若い男は下がれ!!魅了にかかるぞ!!捕縛!!」


3人はアルフレアの異常に、アレの乱入に気付いて駆け寄った。障壁結界をリーンブルグが、アレを捕縛で動けなくしたのはオニールだ。


「すまん!!」


まずワッツがアルフレアの頬を叩くと、たたらを踏んでよろめくが、まだアレに向かって歩こうとする。


「頑張れ!この前も頑張ったじゃないか!」


次はオニールが腹パンし、蹲るアルフレアを無理矢理立たせる。


「魅了はやはり攻撃魔法だな。おい!!アルフレア!!お前が大事にしているのは、誰だ!!」


リーンブルグがアルフレアの耳を引っ張り、大声で叫ぶ。

アレを呼びそうになり、唇をぎりと噛んで、アルフレアは震える声で呟いた。


「・・・・・!!・・な、た・・り、ぃ・・・っだ・・」

「よーし!正気に戻った様だな!よーしよしよし。後は任せたよ、ナタリィ嬢」


ナタリィにアルフレアを任せ、3人はアレの前に立つ。50代の衛兵数人もどたどたとやって来て、アレを取り囲んだ。

騒動に気が付かなかった者達も、漸く何が起こっているのかを知ったようだ、恋人や婚約者がいる女性達は、男性の前に立ち、守ろうとしている。


「本人の意思を捻じ曲げて、操る・・お前は魔女かよ。聖女じゃなかったのか」

「言っておくが、アルフレアも、俺達にだって選ぶ権利はあるんだ」

「間違ってもお前は選ばない」


3人に睨まれ、アレは顔を歪めた。


「あんた達なんか、お呼びじゃないのよ!!この国の王になるアルフ様は、ほら。あたしのそばに寄ろうとしてくれているじゃない。あたしを愛しているのよ。あんた達が邪魔するから来れないんじゃないの!邪魔するな!」


すると3人は顔を見合わせて・・・ぷっ。

堪えきれなくなって、ぷぷ、と吹き出して、ついには大声で笑い出した。


「魅了で拐かしているくせに!なんもまあ、図々しいな!」

「アルフレアがナタリィ嬢を愛しているの、分かんないってすごいよ」

「それにしてもその・・お前の影から湧き出しているそれ、なんだよ。気持ち悪っ」


オニールが指で指し示すのは、アレの足元。影がウネウネと湧き出でて、もうアレを包み込んでいる。アレも漸く気がついた。真っ黒な闇、ウネウネと動く影。


え?

何これ。

いつから?

あたし、いつからこんな、真っ黒になってるの?


ぶつぶつ呟いている。今の今まで気が付かなかった?まさかぁ。あんなに真っ黒ではないか。

もうどうにもならないだろうし、どうにかしてやることもない。

だって最初からアレは俺たちの敵だった。愛おしい嫁を貶める敵だったのだ。

心、性根に見合った真っ黒な姿に、3人の元高校生は呆れた。


「まるで魔物みたいだな、おい。お前、人間か?」

「聖女はそんなまっくろくろすけではないよなぁ」

「人を拐かすし、真っ黒けだし。あ。顔の半分・・ああ、頭まで真っ黒な影に覆われちゃってるぞーー」


「う、うるさーーい!!あたしだって、素敵な恋人が欲しかっただけだもん!アルフ様!助けて!」

「ゔううっ・・」

「アルフ様・・負けないで」

「・・・ん」


呼ばれたアルフレアは頭を抱え、苦しげに悶絶している。

ナタリィが優しく背中を摩ると震えが和らいだ。


コトン・・

アルフレアのそばに、何か光る小物が現れた。それは謎アイテムだった真実の鏡で、オニールがひょいと拾い上げる。


「もしかしてもしかするとぉーー・・ここで使うって事か?・・てやっ」


鏡をアレに向ける。

するとアレの体から黒い影が引き剥がれて、アレの体からは黒い煙が湧き出して、勢いよく鏡に吸い込まれて行く。


「あ、ああああ・・・ち、力が・・力がああっ・・・」


煙が無くなるとアレはがくりと脱力し、兵が慌てて支える。ぴくりともしない・・どうやら気を失っている様だ。


「アレ?本当に魔女だったのか?」

「如何なんだろう。アルフレア、大丈夫か!」

「ぐっ・・張りビンタに腹パン・・有り難いが、やり返したい・・・何にしろありがとう覚えてろよ」

「愛の鞭だってばよ!許せ!」


オニールは手に持つ鏡の鏡面を見る。闇よりも真っ黒で、ぐにゅぐにゅと蠢いている。


「こんなものぉーー、こうだっ!!てやっ!!」


床に勢いよく叩きつけると、ぺちんと変な音を立てて鏡面が割れた。鏡の破片はもう黒くなかった。





その後の話だが・・


この後パーティーは続行されたが、アルフレアは医務室で休む事となり、ナタリィが看病で付き添った。


父親である王も、母である王妃も大激怒、アレを処分することにした。どんな処分なのかは不明だが、魅了を王子に仕掛けたのだ、しかも未来の王で嫡男だ、許される範囲は完全に超えている。


光属性という稀な能力だろうが、無くても構わない。今迄無くてもやってこれたのだから。

跡取りの息子の方が大事なのは当然だ。

それに聖女という事だったが、あのまっくろくろすけを見た者は誰一人聖女とは思わなかった。

結論、平民(アレ)と『とある』なんちゃらの誇大表現だったのだろうという事となった。


そのアレを囲っていた『とある』なんちゃらも、大変な事になった様だが・・如何でも良い事である。

ちょうど良い機会、解体してしまおうと王家の力を持って『更地』にしてしまった。



翌日の卒業式には体調を回復したアルフレアも出席し、粛々と執り行われ、感動と誇らしさ溢れる式となった。



『ローズガーデンゲート』。

遂に全てのイベントが終了、ゲームは効力を失ったのだった。





続く>>

あと1話あるのじゃよ・・とかいってたらもう1話延長。6/23 6時更新。

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