閑話休題・・アレのぼやき
「これで今日の授業は終了します。明日の授業の分、きちんと予習してくる事」
アレ曰く『ガミガミババア』・・教師が部屋を出て行った。
窓はカーテンが引かれ、外の景色も見ることが出来ない。
机に座ったまま、アレは大きなため息をついた。
つまんない。学園なんかに来なきゃよかった。
『とある』にさっさと入れば良かった。そうしたらもっとあたしは幸せになれた。
欲張らなきゃ良かった?
学園に入れば人生薔薇色と思っていた。
でも入った時から失敗した。
何故失敗した?
魅了の所為?・・ううん、今までこの『魅了』があたしを人気者にしてくれた。
今まで幸運だった。
でも、王子達は『魅了』が『攻撃魔法』と言った。知らなかったのに!
王子達が、あたしを好きになれば、全て上手くいったのに!
あたしが側室や愛人になれば、王子達も、あたしも幸せじゃないの。
あたしは誰でも愛せるし、王子達があたしを愛してくれれば良いだけだし。
何であの女達が良いのよ。
高慢なお貴族様な女なだけじゃないの。
あたしの方が気さくで、可愛くて、甘え上手で、良い子で、ちょっとドジで、ユルくて隙があって、男の子が守ってあげたいって思う、理想の女の子だよ?
「負けない」
アレはぼそっと呟いた。
足元の影は、ゆらゆらと立ち上る。もう首の下あたりまで揺らめいている。
黒い黒い、真っ黒な影。
おかしいな?彼女は聖女だって言われてるよ?
まあ言ってるのは、『とある』ところだけだけど。
『とある』ところは、アレを育ててくれた教会の本部。
女神教と聖女教の2信仰だった世界に、新興宗教が出来たのは100年前。
なんと女神も聖女も奉る教えを説いている・・女神と聖女信仰信者から軽蔑されているのはお分かりだろう。
広告塔として、なんとしてでもアレに聖女の力を具現させたかった。
だから高額の学園費用も出した。
魔法を習い半年、そろそろ『聖女』宣言してもいいだろう。確かに魔法が使えるし、信者獲得にも有用な『魅了』が使える。何度もヘマをしでかしているが、まだ学生、女の子だからと罰を免れている。教団の力で抑え込んでいる部分もあるが。
それら失敗も、聖女ということになればなんとでもなる。
そして先日。
『とある』ところからすれば、満を辞して『聖女』宣言となったわけだ。
アレを操るために、気を良くして、担ぎ上げて、ちやほやして。
そんな扱いされてきたのだ、アレだって調子に乗る。
『あたしすごい?あたし出来る子?あたし人気者?あたし聖女で万能?』
こうしてどんどん思い込みが激しくなって、ついには王子と恋人に、いや側室・・ううん、正妃!!
小さな町の人気者程度だった少女をおかしくしてしまった『とある』。
でもいいのだ!教団が強くなるのならば!大きくなるのならば!
この100年で、王国の有力者に取り入り、地位を上げてきた。
もっともっと大きく!!
でも気付いていない。
確かにアレは強い魔力を持っている。
回復魔法も使えるし、ポーションも作れる。
でもそれが出来るからと、聖女宣言は短略すぎた。
ほら、みてごらん。
聖女・・アレの足元の影が、ゆらゆら・・・
おや?
不思議な形に変形したぞ?
コウモリみたいな両翼が見えるのは気のせいかな?
続く>>




