つぶやき
「私の育て方が間違ってたのかな。」
そんなことをお母さんはツイッターで呟いていた。
ある日、お母さんのスマホを後ろからチラリと覗きみるとツイッターをやってることがわかった。私は興味本位で、画面から見えた少ない情報を手掛かりにお母さんのアカウントを特定した。
お母さんはいろんなことを呟いていた。
今の政治についての考え、少しだけ痛い詩、今の仕事の大変さ、お母さんの趣味の庭の写真、今日見た綺麗な景色。いろんなことが呟かれていた。
そして、私のことも呟かれていた。
「娘は今日も家から出なかった。」
「部屋の前で私が優しく何か言おうとすると、娘はすぐに怒鳴りかえしてくる。ご飯を食べてと言ってもいらないといって食べない。ただ心配してるだけなのに娘が怖い。」
「最近は娘の顔を見るだけで動悸がする。私の近くを通るだけで何か言われるのではないかとビクビクしている。仕事で疲れてるのに、家で休むこともままならない。」
「夜ガサゴソ物音を立てるので寝ることができない。上手く疲れが取れず、今日も仕事でミスをしてしまった。」
「娘のことがわからない。今日家にカウンセラーの人を呼んだら激高して暴れた。」
そのつぶやきが私の感情をぐちゃぐちゃにする。
私のことを勝手に誰でも見ることができるようなツイッターで呟くなんて。
そして、そのつぶやきに対する返信も同様に私の感情をぐちゃぐちゃにする。
「そんな娘、見捨てちゃいましょう。」
「第三者の力を借りるのはどうでしょうか?脅迫めいたことを言われたなら警察呼びましょう。」
「大変ですね。私の息子も引きこもっていましたが、ある日突然大学行きたいなんて言い出して30で学生やってますよ。気長に待ちましょう。」
お母さんはその返信全てに「お腹を痛めて生んだ娘ですから。」や「家族間のことで警察のお世話になるのも申し訳ないです。」や「そうですね。気長に待つしかないのかもしれません。」と返していく。
いい母親を演じたいだけじゃないか、私の事を何一つわかってない、可哀想な自分を周りに見てもらいたいだけだろ!
正常な思考回路を失った私は自分のツイッターのアカウントを起動し、お母さんのつぶやき一つ一つにアンチコメントを残していった。
「おばさんなのによくそんな痛い詩を呟けますね笑」
「綺麗な景色だけど撮ってる本人は醜くて、心も汚いんだろうなぁ」
「あなたは年頃の娘の気持ちを何もわかっていない。そりゃあ娘さんも家から出なくなりますよ笑」
お母さんは私をブロックするわけでも攻撃的な返信をするわけでもなく、ただいいねを押していった。
そして、お母さんは新しくツイートした。
「生んでごめんね。」
何故いきなりそのようなツイートをしたのかわからなかったが、すぐに理解した。
「今日も家から出れなかった。」
「お母さんは私の心配をしてくれてるだけなのに、どうして怒鳴ってしまうんだろう。」
「何で私はこんなにダメなんだろ。」
「死のうかな。生きてるだけで社会のお荷物だし。」
私も新しくツイートを更新した。
「生まれてきてごめんなさい。」
もう少し小説を書くのが上手くなりたい。