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魔女騒動 ランプ売りの青年外伝5 魔女シリーズ3  作者: ふん


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第二十三話

「……ここはどこだ?」寝起きのリットは睨みつけるように辺りを見回すと「キルオのところか」とつぶやいた。

「脅かすでない……」と息を呑んだのはグリザベルだ。「どうにかなったと思うではないか……」

「寝過ぎて記憶が飛んでんだよ。魔女の作った薬なんて飲むもんじゃねぇな……」

「無闇矢鱈に飲むものではないのは確かだな。お主が寝ている間にも、時は確実に進んでいるぞ。見るのだ。今にも芽を出しそうに土が膨らんでおる」

「わざわざ芽なんか見なくても、男の寝起きは膨らんでるもんだ」

「お主は爽やかな目覚めには縁遠い男だな……。歴史が蘇る日なのかも知れんのだぞ。心構えくらいしても良いのではないか?」

「勘弁してくれ。そっちは一箇所にとどまってあれこれやってるけどな。こっちはあちこち飛び回って、あれこれとどれそれと振り回されっぱなしなんだ。お手手叩いてパーティする余裕なんかねぇんだよ」

 寝過ぎのせいか、魔女薬の副作用か、リットは体が重いのを感じていた。まるで熱が出た時のようなだるさもあるが、キルオの見立てでは問題なしの健康だった。

「まぁ、疲労が残ってるのは確かだけど。そんな酷いもんじゃないだろ。それでも辛いなら少し横になってろ」

 キルオに言われ、リットは「そうさせてもらう」と横になったのだが、楽になったとは思えなかった。今まで散々寝ていたので眠ることも出来ず、結局グリザベルがクロマガネの発芽に大喜びする姿をぼーっと見ることになった。

 それを摘み取り、グリザベルとキルオがどうやってクロマガネの成分を抽出しようかと話しているのだが、毒の成分やら危険な温度管理やら、どうにも不穏な言葉が聞こえてくるので、リットは思わず起き上がってしまった。

「オマエら……オレを騙して精霊か妖精を殺そうとしてないか?」

「なにを言っておる……」

 グリザベルは呆れ顔を浮かべると、そんなことするわけがないと睨むように言った。

「こっちは医者だぞ。わざわざ殺すなら、別の職を極める。アリアともマニアとも話していたんだが、このクロマガネの成分を抽出するには、劇薬を使うしかなさそうなんだ。医療ではよくあることだ。ある成分を抽出するのに、毒とされるものを使うのはな」

「だが、魔女薬というものは魔力成分も必要になる。あまりに強い毒は、魔力バランスを崩してしまう。医者の技術というのは錬金術に近くてな。ただ危険な薬を作っても意味がないのだ」

 グリザベルが作ろうとしているのは、外部から侵入してきた魔力を追い出す魔女薬だ。

 魔除けという技術を使ってお香を作り、それをチルカに吸わせる。その煙の作用でチルカと精霊の魔力は分けられ、吐き出された煙は新たな依代となってシルフの分霊が入り、チルカの体から出ていく。

 煙は風と混じり消えていき、分霊もシルフ本体へと戻るということだ。

 これは魔力の力があってこそ出来るもので、クロマガネを使っただけのものは、ただの精神分裂薬という危ない薬になってしまう可能性がある。

 なので、成分の抽出方法に悩んでいたのだ。

「薬を作るときでも、こんな少量にも満たない、芽一つから成分など抽出しないからな」

「大戦時のことだ。クロマガネが大量に生えていたに違いない。芽一つから、抽出しようなど考える必要がないのだ」

「成分って言うけどよ。なんの成分を抽出すんだよ」

 リットはまだ少し重い体と頭を働かせるために、肩の関節を動かしながら聞いた。

「オイルだ。香に使うためだ。魔女薬全般に言えることだが、香りも重要になる。香り一つで効き目が変わるほどだ」

「妖精の白ユリのオイルを抽出した時みたいにやりゃいいってことだな」

 原料の植物を蒸して加熱し、精油の蒸気を魔宝石の力で冷やして液体に戻す。この時に、精油と蒸留水が分かれる。精油のほうが軽いので水に浮くのだ。

 この水蒸気蒸留法という方法を使って、リットは過去に妖精の白ユリを森の中でオイルを抽出していた。

 リットがそのことを思い出しながら喋っていると、グリザベルは「待て……」と話を遮った。

「妖精の白ユリも魔力を含む植物ではないか……なぜ黙っていた。抽出する方法を知っているではないか」

「あの技術ってのは、ほとんど錬金術だぞ」

「魔宝石を使えば、発散されていく魔力を補うことも出来る。つまりだ。加熱も冷却も魔宝石を使えばいい。あとはその魔力に耐え得ることが出来る道具があればいいのだが……例えばグリム水晶のような……」

 グリザベルはないものねだりかと、頭を悩ませようと腕を組んだ。

 しかし、キルオは自分が持っているとあっさり答えたため、腕を組みきる前に驚きに両手を広げた。

「オレが薬を作る時に使っているガラス管がそうだ。一級品だぞ。どうやって手に入れたかは聞くな。忘れたからな」

 キルオはあっけらかんと笑っているが、どう考えても浮遊大陸から盗んだものだ。グリム水晶というのは、もう採掘できなくなっており高騰している。それを一式持っているなど、普通はありえないことだ。

 だが、渡りに船。その船が盗まれたものだろうが、違法に作られたものだろうが、今のリット達には関係なかった。



 早速オイル抽出の準備に取り掛かろうとキルオの部屋に行ったのだが、リットもグリザベルも手伝うことなく、グリム水晶で作られたガラス管に見とれていた。

「今……我がなにを考えているかわかるか?」

「一本盗んでやろう」

「そんなこと思うか!」

「オレは思ってるぞ。魔力云々は置いといて、普通にガラス管と考えて一級品だ。一個でも持ってりゃ、仕事の効率がぜんぜん違う」

「そんなことは! まぁ……そうなのだが……。ディアナの大鏡の時に説明したように、グリム水晶は魔力を収れんさせる性質がある。その力を利用すれば、様々な魔力を持つ物質を効率よく利用することが出来る。魔女にとって最も理想的だ」

「やっぱり欲しいんじゃねぇか。どれにする? オレはこれにするつもりだ」

 リットが冷やすために使われる螺旋状のガラス管を指したので、グリザベルも思わず欲しい物を指そうとしたのだが、キルオに話しかけられたので慌てて指を引っ込めた。

「勝手なことを言うな。どれ一つあげられるものはないぞ。これらは全部がオレに必要なものだ。むしろ足りないくらいだ」

 グリザベルは「うむ」と頷いて、力強く同調した。「道具というのは大事だ。どんなに優れた技術を編み出しても、それを実行できる道具がなければ空論だ」

「そのとおりだ。そして、なにより時間が足りない。思い浮かぶことをすべて実行しておきたいからな。まぁ、そのせいで少々敵を作りすぎた。おかげでこんな砂漠のど真ん中だ。それでも、オレを頼ってやってくる奴はいる。欲というのは凄いもんだな」

 キルオはのんきに笑ったのだが、グリザベルはまたもや強く頷いた。

「欲というのは、前に進むために必要なもの。勇気と同義だ。ありすぎれば身を滅ぼすが、なければ困るもの。そのバランスを取れるものが、いつの世も成功の階段を上がっていくものだ」

「オレも欲を言わせてもらえば、口じゃなくて手を動かして貰いてぇもんだ。どうも疲れが抜けねぇ……早く家でゆっくりしてぇ」

 いつもの軽口とは違い、本当に今のリットの顔色がよくないので、グリザベルはキルオを手伝った。

 用意すると言っても、窯やガラス管のセッティングはキルオがするので、グリザベルが用意するものは魔宝石だ。加熱用の熱の魔宝石と冷却用の冷の魔宝石。

 運良く熱の魔宝石は以前作ったのが残っていたので、冷の魔宝石を作るだけ。

 キルオがセッティングを終える頃には、グリザベルも魔宝石を作り終えていた。

 グリザベルが「さて……」と冷却水の中に冷の魔宝石を入れると、すぐにヒビが入った。ガラスが割れたわけではなく、半分凍りついて水に氷のヒビを入れたのだ。

 ついで窯の下の水に熱の魔宝石を入れる。すぐに沸騰して水蒸気を上げて、クロマガネを加熱した。

 あとは上に集められた精油の蒸気が、冷却水を張った中に入れたガラス管で冷やされて、精油として出てくるのを待つだけだ。

「これは面白い……」とグリザベルはガラス管から目を離せずにいた。

 魔力の動きというのが、ガラス管の中でわかるからだ。熱と湿が風を作り、湿が冷やされて水を作るというのがはっきり目に見える。

 これは魔女じゃなくても、錬金術、医者。そんな特別な職業に就いていない一般人でも見てわかることだ。

 だが、グリム水晶を通すことにより、より深く感じられるようになるという。

 リットもキルオにもわからなかったが、グリザベルは終始子供のようにはしゃぎ通しだった。

「アレを見ると、なんとも言えない気持ちになるな」

 キルオはグリザベルを見て、安心したように細く息を吐いた。

「キルオ……あんなのがタイプなのか? マニアといい……オマエ苦労するの好きなんだろ」

「そういうことを言っているんじゃない。最近は欲を隠して、自分で自分がわからなくなってる奴が多いからな。ありきたりな良い人になろうとする奴が多い。そういう奴は風向き次第ですぐに敵になる。自分の欲に素直なのは美徳だぞ。敵味方がはっきりしている。敵は遠ざければいいし、味方ならこれほど頼もしい存在はない。行き過ぎる行き過ぎないは自制心の問題だしな」

「そりゃあな、アンタらが知識を深めるのに人生の大半を費やす変態だからだ」

「リットも十分こっちよりの存在だと思うんだがな……。むしろタチが悪いくらいだ。あちこちから知識を手に入れてそれを利用する。しかも、どれが使っていい技術なのか、人に話してもいい技術なのか判断もつかないだろう。それを駆使する生き方をなんて言うか知ってるか? ――冒険者って言うんだ」

 キルオは父親のヴィクターと一緒だなと笑った。

「そりゃ褒めてんのか、貶してるのか微妙なところだな」

「最高の褒め言葉だと思ったんだがな。――なんて偉そうに言ったが、オレもヴィクターと知り合ったのは王になってからだ。冒険者時代のことは話にしか聞いていない」

「そりゃまた、頼もしい言葉をありがとよ。それでいいなら、アンタも出会った中で最高の医者だ。他にいねぇしな」

「それはどうとっても褒め言葉だな。今後リットが出会う医者が、オレより優れた医者であることはないからな」

 キルオは自信満々に言ったあと、自分はここでなにをしていたのか忘れて首を傾げた。

「優れた医者ってのは、安心できる医者ではないみてぇだな……」

 言ったそばから症状を忘れられるなら、患者としては不安しかないとリットは肩をすくめた。

「自分を棚に上げているようだが、我にとってはお主も不安材料の一つだ。……抽出が終わったというのに気付きもせんとは……」

 グリザベルはオイルを入れ替えた小瓶を持って、いつの間にかリットの後ろに突っ立っていた。

「オレにやれることはないって言っただろ」

「最後まで見届けるの義務だということだ。疲れて寝ているならともかく、どうやら疲れは取れたようだからな」

 グリザベルに言われて、リットはいつの間にか体が軽くなっていることに気付いた。つい先程までのダルさが嘘のように体の調子が戻っている。

「まさか、クロマガネの効果か? まるで体を入れ替えたかのように調子がいいぞ」

「そんなわけあるか。香りに効果があると言うてもこれ単体では意味がない。ハーブや香木の粉。それに精油を混ぜ調香する。同時に複数の成分を摂取することにより、個々の効果が増幅される。相乗効果により、高い効果が見込めるというわけだ。お主のは魔女薬で騙していた体が、元に戻っただけであろう。何度も言うが、やる気や集中力を高める魔女薬は元気の前借りだ。接種後しばらくは調子がいいが、揺り返しは必ずやってくる。それも消えたと言うだけだ。お主は経験豊富だろう? 二日酔いが治ったようなものだ。魔女薬も酒も飲みすぎはよくないということだな」

 グリザベルはフハハと笑った。

 グリザベルがこれだけ調子がいいのは、ようやく自分の考えが答えとなるからだ。

 香を作り、まずは死んだ森にいるシルフから試す。依代になっている妖精は死んでしまっているので、もし失敗してしまっても取り返しがつくからだ。

 成功すれば、自信を持ってチルカに同じことが出来る。

 そうすれば二つの分霊はシルフの本体に戻り、今回の事件は無事解決ということだ。

 グリザベルは憂いはない――成功すると高笑いを響かせた。

 その姿は頼もしくはあるのだが、リットは一つの疑問が浮かび上がり、不機嫌に声を低くした。

「……ところでよ。オレが苦労してウンディーネに作らせたデルージはどうなったんだ? 全部使ったんじゃねぇだろうな……」

「魔女薬も酒も飲みすぎはよくないということだな」

「そりゃさっき聞いたよ。まさか本当に使ったのか!?」

「しょうがなかろう……。魔力汚染させるには、少量の魔力では意味がないのだ。問題はそこではない。あの保護ケースはしばらく……少なくとも五十年ほどは使えないということだな。無理に使えば、魔力汚染の被害が外に出てしまう」

「問題は多すぎんだよ。まず、酒を全部使うなんて聞いてねぇ。次に、こんな物忘れ激しいやつの手元に、こんな危なっかしいものを置いとくつもりか? それと最後にだ――シルフが怪しいって話はどこに言った」

「シルフは問題ない。あれだけ協力的なのだからな。むしろ今回の成功率は、シルフのおかげで上がりに上がっている。我が言っているのは、手助けするように仕向けられている感じがするということだ。今回のこと、我ら以外の誰に解決出来ると思う?」

 グリザベルがいるから、クリクルという魔女の助言を効くことが出来て、リットがいるから、キルオからクロマガネの種をもらうことが出来た。

 更にノーラがいるから、透明な壁をどうにか出来ることもわかっている。

 その全員と知り合いのチルカをシルフが選んで追いかけてきたのは、偶然にしては出来すぎているということだ。

 ウンディーネの時も、サラマンダーとノームの時も、こちらから関わりにいったようなものだ。だが、今回は違う。明らかにシルフから関わりを持ってきたのだ。

 グリザベルはそこを気にかけていた。

「だからオレがシルフをぶん殴りゃいいんだろ? それで憂さも晴れるだろ」

「その乱暴な言葉……今は頼もしい限りだな」グリザベルは笑みを浮かべたのだが、急に真顔になって「……本当にはするなよ」と釘を刺した。

 リットは笑みを見せることなく、真顔のままで「相手の出方による」と返したのだった。






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