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魔女騒動 ランプ売りの青年外伝5 魔女シリーズ3  作者: ふん


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第十三話

「よく眠れたか?」

 クリクルはのそのそと気だるそうに歩いてきたリットに聞いた。

 ここには客用のベッドなどなく、草むらがベッド代わりだ。それでも土や岩の上で寝るより幾分ましだ。

「よく眠れたぞ。食欲はねぇけどな。……もっとマシなものがねぇのか?」

 リットは濃い紫に、明らかに虫の脚と思えるものが浮いているスープを見てため息を付いた。

「この色は芋が溶け出した色だ。虫だって栄養の塊だ。他にも薬草が数種類。肉はないがな、これを飲めば痩せるぞ」

「こんなの飲んだら腹を下すだろ。あぁ……だから痩せるのか」

 リットが取り敢えず椅子に座ると、グリザベルのすねをつま先でつついた。

 先には起きていたが、まだ眠そうにまぶたを重くしているグリザベルは、そのままの顔でリットのほうを見た。

「……なんだ」

「なんだじゃねぇよ。チビの婆さんに良いところを見せようと、無理して早起きしたみたいだけどよ。考えはまとめたのか?」

「まとめたに決まっておるだろう……。それにな早起きをしたのではない。一睡もしていないのだ……」

「そりゃまた……いい考えが浮かんだんだろうな」

 リットは紫色のスープにスプーンを突っ込むと、躊躇いなく口に運んだ。昨夜は酒も飲まずにただ眠っただけなので、お腹が空いていたのだ。

 見た目ほど味は悪くなく、芋の甘みと薬草のほろ苦さが絶妙にマッチしていた。

「浮かぶものか……。お主はよく眠れたな……まるで一日中魔法生物たちに監視されているかのようだ。集中力などないも同然だ……」

 ここの生物達は魔女が嫌いだが、それと同じくらい興味を持っているので、昨夜は闇に紛れてグリザベルの周りをウロウロしていたのだ。

 手を出されるようなこともなく、一定の距離を保ったまま近づくこともなかったのだが、喉をゴロゴロ鳴らす音や、深い呼吸の音、用心深い足音など。すべてがグリザベルの集中力を欠く要因になっていた。

 考えをまとめるだけで精一杯で、これからどうする考えることも出来ず、眠ることも出来ず、ただ音にイラつきながら夜を明かしたのだった。

「魔法陣を使って、少し魔力を乱れさせれば逃げてくんじゃねぇのか? グリフォンもそうだっただろ。魔力の乱れた場所には近寄らない。他の生物にも応用が聞くだろ」

「ここは魔法生物の住処のような場所だぞ。我らは邪魔をしているのだ。好き勝手なことをしてみろ。襲われても何一つ文句は言えないのだぞ」

「はなから文句を聞くような連中でもねぇだろ」

「偉そうに言うが、お主はなにか考えついたのか?」

「考えたぞ。最悪は引っ越す。チルカが一生家にいる暮らしなんてのはゴメンだからな」

 二人の言い合いを「まずはご飯だ」とクリクルが遮った。「口に物が入っている間は、醜い言い争いも発生しないだろう。いいな?」

 子供にしか見えないクリクルだが、年季の入った物言いにリットは黙って頷いた。

 見た目はどうあれ、中身は普通のおばあさんだ。リットよりも一枚も二枚もうわてなことには変わりない。

 リットとグリザベルが食事音だけを響かせると、クリクルは自分の考えを話し始めた。

 グリザベルが疑問にした三つの大きな謎は一つに繋がっているという。

 三つとは『白骨化した魔女の死体』『魔法生物の作成』『見えない壁』のことだ。

 『魔法生物の作成』というのは、概ねグリザベルの説明で合っているという。魔力の器を再構築させることで、二つの生物を混ぜ合わせる。これは魔法生物を作る上で最も重要な技術だ。

 魔女界の禁忌とされていることもあり、ほとんどの魔女はその技術を弟子に継承させなかった。

 だが、これはゴーレム造りが基礎となっている。水と土を合わせて、泥に新たな魔力という命を与える。これが合成魔法生物の元となっている。

 魔力元素に近い物質を合わせるのと、生命を合わせるのは全く違うものとも言える。

 出発点は同じだが到着点は別。正法と邪法の違いだ。

 その出発点というのは魔法陣であり、魔女が魔力を使う時は必ずと言っていいほど魔法陣が必要になる。

 その魔法陣はどこかにあるのか。それは妖精とシルフをかけ合わせた魔法生物の中にある。

 つまり羊皮紙に描かれたようなものではない。もっと複雑で難解なものだ。

 魔力とは光の性質に似ている。なので、魔宝石という魔力を宝石に閉じ込める技術が生まれたわけだが、魔法生物は違う。血の代わりに魔力を流し、臓器や体全体を魔法陣として使っているのだ。

 邪法というのは精霊界のバランスを崩すものであり、精霊は魔力の乱れを修復しようと動く。

 あの『見えない壁』はバランスを崩れさせないようにするためのものだ。

 リットの家に発生した見えない壁は、分霊となったシルフを閉じ込めるため。ただの分霊では魔力が乱れるようなことはないので、その分霊にもなにか別の力が働いているということだ。

 そして、魔女の家にあった見えない壁。あれは外から余計な魔力を入れないためのもの。リットの家と逆の働きをしているという。

 なぜなら――それは流れている魔力が違うためだ。混ざり合うと支障が出るので、壁の力によって魔力を遮断している。

 そこまで説明されると、リットは「たしかに、あそこだけ草が生えてたからな。森は死んでたのに。まるで別の空間だった」と、あの風景を思い出していた。

 しかし、クリクルの反応は辛いものだった。

 全く理解が出来ないと、否定の意味で頭を横に振った。

「別の空間ではない――別の世界だ。まさか……あの世界に触れた者が理解出来ていないとはな……。考えが膠着するわけだ」

「ほれ見ろ。お主のせいではないか」

 グリザベルは話をややこしくしてるのは自分ではなくリットだと、責めるような視線を向けた。

「オレは魔女じゃねぇんだぞ。魔力の流れなんかわかるわけねぇだろ。だいたいよ、オレが別世界だって言ったところで、自分が体感してねぇんだから、はいそうですと頷かねぇだろ」一通り文句を言い返したリットは、クリクルに向き直り「で、別世界ってのはなんだ?」と聞いた。

「言葉のとおりだ。別世界。壁を挟んで別の世界が広がっているということだ」

「でもよ、オレは行ったり来たりしてんだぞ。その壁を……まさか体に変な影響を及ぶすんじゃねぇだろうな……。そういえば……最近体が重いと思ってたんだ」

「お主のは飲みすぎだろう。酒を抜いた途端早起きしおってからに」

 一睡もしてないグリザベルは、あくび混じりに非難した。

「むしろ影響を及ばさないから入れたんだろう」クリクルはリットの腕を指した。「使えないにしても、四精霊の力が全てそこに揃っている。そこにいた愚かな魔女が最も欲した力だろうな」

「譲渡出来るものなら譲渡してやるよ」

 リットは投げやり気味に言った。昨夜クリクルが言ったことが本当ならば、譲渡は出来ないし、自然に消えることもないからだ。

「それは困るだろう。その紋章がなければ、今頃魔女と同じ白骨化していたかもしれないからな」

「おい……聞いてねぇような危ない話が聞こえたぞ……」

「グリザベルの言っていた三つの謎は繋がっていると言っただろう。『白骨化した魔女の死体』というのは、魔女の家があった空間が別世界だという証拠だ」

 クリクルの言っている意味がわからずに、リットはグリザベルを見たが、グリザベルもリットと同じく首を傾げていた。

「クリクル婆よ……別世界だという突拍子もない話にもついていけていないのだ。もう少し、噛み砕いてくれ……」

「それはおかしな話だ。グリザベルはテスカガンドで別世界を見てきたという話を、私に聞かせたはずだよ」

 一瞬なんのことかわからなかったグリザベルだが、すぐにハッとひらめいた。

 そのひらめきは心臓を大きく動かし、眠気を一気に覚ますほど脳を興奮させた。

「……『時間』」

「そのとおりさ。時間だよ」

 クリクルとグリザベルは目を合わせて頷きあったが、リットはほったらかしだった。

「オレを置いて話を先に進めるなよ……戻ってきて一から進めろ」

「まさしくそれだ」

 グリザベルはリットに向かって勢いよく指を差した。

「……乳首を当てるならもっと下だ。講釈を垂れてぇなら、動かすのは舌だ」

「あの魔女の家の中は時が違うということだ。おかしいと思ったんだ……いくら稀代の天才だとしても、一人分の人生でたどり着けるような境地ではないからな」

「話を聞けよ……何回も繰り返させる気か? 一から話をしろと言ってんだよ」

 リットが呆れていると、グリザベルは疑いの視線を向けた。

「本当は気付いているのではないか?」

「なにをだよ」

「あの魔女は時間を繰り返していたのだ。研究を続けてはまた戻り。何度も失敗を繰り返し、成功への道を模索し続けたのだ。だが、精霊の力を扱いきれなかった。研究は完成することなく、時間はただ進むだけになってしまった。それも何十……いや何百倍もの速さでな。メリアが話していただろう。『あっという間に年を取って、あっという間に死んで、あっという間に白骨化したらしい』と」

「まったく考えが追いつかねぇよ……」

「我もだ。だが、こういう力を我はこう呼んでいた。『カオス』とな。『闇に呑まれる』現象と同じだ。四大元素から外れる力を求めると、魔力は混沌と化す。これもまたエーテルという五つ目の元素を追い求めた結果なのだろう……」

「おい……頼むよ」

 リットは説明を求めると、今度はクリクルを見た。

「単純な話だ。闇に呑まれた現象をもう一度解決するようなもの。一度解決したんだ。簡単だろう?」

「あの現象を解決するのに、どれだけ時間がかかって、どれだけあちこち引っ張り回されたと思ってんだよ……」

 リットの睨みを効かせた視線に、クリクルは余裕たっぷりの笑みで返して「冗談だ」と述べた。

「中に精霊がいるのならば、中でも魔力は安定しているということだ。ただ外とは違う流れで安定しているせいで、壁がバリアになったまま。まず調べるべきは魔女の研究だな。それと妖精。偶然だが、偶然にしては出来すぎている。妖精を依代にしたシルフの分霊が二組も誕生するなんてな」

「なるほど……わかった……」

 リットはテーブルにおでこをぶつけそうな勢いで項垂れた。

「男にしてはなかなか物分りがいいじゃないか」

「ちげえよ……わかったのは、また魔女の騒動に巻き込まれたってことだ……」

 リットの恨みがこもった言葉を、クリクルは鼻で笑い飛ばした。

「魔女ではなく、巻き込んでいるのは精霊だ。逆にこっちが巻き込まれたようなものだ。なぜなら、最初に精霊に関わったのはリットだ。縁で結ばれ、サラマンダーとノームに力添えし、シルフに懐かれた。リットがウンディーネと関わりを待たなければ、ここに来るようなことはなかったはずだ。そして、私はただここにいただけ。だが、文句は言わん。存分に力を貸してやろう」

「グリザベル……。今……オレは煙に巻かれてるよな?」

 正論のような詭弁のような、のらりくらりとしたクリクルの言葉を聞かされたリットは混乱していた。

「誰の目にも明らかだ。だが、お主の魔女知識程度じゃ言い返せないのは確かだろう? 先に言っておくが、我も無理ぞ。クリクル婆に言い返すのはな」

「どうせやらなければならないことだろう? それとも時を戻すか?」

 クリクルは口に出さないが、目でこれが紋章を消す出来事かも知れないとリットに訴えかけた。

「まさか……アンタじゃねぇだろうな。この問題を起こした張本人の魔女は……」

 リットはクリクルが子供の姿をしているのは、時間を好きに動かそうとした時に起きたウィッチーズ・カーズなのではないかと思っていた。

「何を言っているんだい。それが出来るなら、今頃この子達をどうにかしてるよ。もっと自由に生きられるようにね」

 クリクルは空を飛び影を落とす、魔法生物たちを見上げて言った。

 クリクルが過去にウンディーネの紋章を入れらたことを教えていないので、グリザベルはリットが何を言っているのかわからなかった。

「本当に何を言っているのだ……。だいたいだな……軽々しく口を聞いているが、クリクル婆と話をしたいと思っている魔女は何十もいる。それほどの人物なのだぞ」

「なにが魔女だよ。精霊師のとこに弟子入りしたんじゃねぇのか?」

「我は精霊への見識を深め。魔女を新たな段階へと引っ張り上げようとしているのだ。言うなれば魔女全体のレベルアップだ。魔女の変革の歴史に魔女三大発明があったようにだな。魔女の意識が変わるように我は努めているのだ」

「わかんねぇよ。魔女のことはな」

「それでいい。魔女のことは我が調べるからな。わざわざ不慣れなお主に頼むことはせぬ。お主はもっとは関わり深い方を調べてくれ。チルカとは長い付き合いだろう?」

「妖精ね……まぁ、たしかに今回の騒動の渦中の人物だしな。無関係のハズはねぇからな」

「よし! やることが決まったなら気張って来るんだよ」

 クリクルはリットとグリザベルを立たせると、背中には届かないので二人のお尻をぴしりと叩いた。

「ガキにいいように使われてるみてぇで、なんかやる気が削がれんだよな……」

 リットは腑に落ちないなにかを感じながら、一旦自分の家へと戻るためにグリフォンの元へと向かった。






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